リーガルエッセイ

公開 2021.06.04 更新 2021.07.18

子どもが犯罪被害に巻き込まれないために -SNS教育の重要性について-

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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SNS教育

先日、12歳の子が住む自宅に40代の男性が侵入し暴行したとして、強制性交の罪で逮捕されたと報じられました。
報道によれば、この男性は、無理やりではなかったと弁解して自身の行為が強制性交の罪にあたることを否認しているとのこと。
実際いかなる事実があったか、男性がいかなる供述をしているかはわかりませんが、仮に報じられているとおりであったとすると、このような供述は正確な意味では否認でもなんでもありません。
13歳未満の子に性交した場合は、暴行や脅迫を手段としていなくても強制性交罪が成立するからです。
13歳未満の子には、性交の意味、つまり、性交とは具体的にどんな行為で、これによってどんなリスクがあり得るかということなどを正確に理解した上で、同意するか同意しないか判断するだけの能力がないと考えられています。
だから、13歳未満の子については、その子が「同意」していたとしても、それ自体意味がないものとして、強制性交罪が成立するのです。
ただ、では、13歳以上であれば性交について同意する能力があるかというと、甚だ疑問には思います。
性交の意味を理解した上で同意するかどうか判断する、と一言で言っても、どの程度のレベルに至ればその判断が可能なのかについてはいろいろな考え方がありそうですよね。
それにもちろん個人差もとても大きいのではないかと思います。
この、性交同意年齢の引き上げの議論というものは、法務省の刑法改正に関する検討会でも議論されているところです。

このたびの報道では、もう1つ気になったことがあります。
それは、この男性が被害児童の家をどのように特定したかということ。
報道によれば、男性は、SNS上で男子高校生になりすまし、被害児童とメッセージのやり取りを繰り返し、そこで勉強を教えるなどして自分が男子高校生であるかのように信じ込ませ、被害児童の写真、住所などの情報を入手したというのです。
このニュースに対し、ネット上でもいろいろなコメントが寄せられていました。
その多くに、「やはり子どものSNS利用は反対」というものがありました。
もちろん、責任は100%そのような犯行に及んだ者にあることは言うまでもなく、でもどうしたらこの犯罪を防げたかという視点からのコメントでした。
報じられている事件については、具体的な事実関係も正確にわからないので、具体的なコメントを避けるべきだと思います。
ただ、SNSをきっかけに子どもたちが犯罪被害に巻き込まれるという事件は多くあるところです。
そのような犯罪被害をどうしたら防げるのかを考えてみたいと思います。
SNS利用を制限しさえすれば防げるのか?
たしかに、SNS利用をしていなければ、SNSをきっかけに犯罪被害に巻き込まれることはないだろう、という考えはもっとも。
でも、今、仮に「13歳未満はSNS利用禁止」というルールができたとして、それによって何か事態がかわるのか?
単にそのようなルールを決める、というだけでは、当然のことながら、何も変わらないでしょう。
では、たとえば、契約時に、スマホを使う子の年齢確認をして13歳未満なら、何らかの設定でSNSを利用できない仕様にするという運用にする?
そもそもそのようなことが可能なのかわかりませんが、可能だとしても、大人や年上の兄弟らの了解さえ得られれば、いくらでも、そのスマホを借りるなどしてSNSを利用する方法などありそうです。
すでに出回っていて、しかも、その利用によるメリットを子どもたちも知っているという物について、ただただそれをとりあげる、ということでは根本的な解決になっていないし、仮にSNSが使えなくなったとしても、たとえばオンラインゲーム上の会話などこれに変わるものはいくらでもあるのではないかと思うのです。
そうなると、やはり大事なのは、子どもがSNS利用に伴う危険を自分に身近なものとして認識し、安全に利用できるように教育すること。
おそらく、一般的には、「SNS上のやりとりでは、相手がどんな人かわからないので、自分の情報を相手に伝えないようにしましょう」などという注意喚起は学校などでもされているはず。
ただ、それがちゃんと自分に身近な危険として届いていないのではないかと思います。
そもそも、そのような注意喚起が、単に自治体が作ったパンフレット1枚配ることで完了したことになっているかもしれません。
過去に具体的にどんな事件があって、それによってどんな被害を被ったのか、その事件が起きた原因はなんだったのかということを一つ一つ丁寧に説明し、だからこそ、どういうことに気を付けなくてはいけないのか、という注意喚起をしなくてはどうしても一般論で終わってしまうのではないでしょうか?
家で、小中学生の子どもが、ふと、「インスタで1個上の子と友達になっちゃった。お姉さんができたみたいでうれしい!」というようなことをつぶやいたとき、「その子がどうしてあなたの1個上の子だってわかったの?」「その子が女の子だっていうことはどうやってわかったの?」と質問してみることも大事ですよね。
「写真送ってくれたの」という答えが返ってきたとき、「全然違う年齢の異性が、あなたと仲良くなろうとして、別人の写真を送ってきた可能性もあるかな?」などと問いかけ、いろいろな可能性を一緒に考えてみる。
そんな中で、報道で見聞きした事件についても伝え、自分の体験と報道とを結びつけて理解するきっかけを作る。
そのような一つ一つの会話も大事な教育なのかもしれません。
大人にとっても、自分が子ども時代には直面しなかった問題ですから、これについての教育をするということも難しいですよね。
子どもが犯罪被害に巻き込まれないための教育ということも弁護士としてとても大事な仕事のひとつであると考えています。

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