リーガルエッセイ

公開 2021.08.06

保育園の送迎バスで5歳の男の子が犠牲になった事件について

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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5歳の男の子が犠牲になった事件

報道を見ただれもが、バスに閉じ込められた男の子がどんなに苦しい思いをしただろうと思っただけでそれ以上考えることが苦しくなったと思います。
「いったいなぜ」という思いばかりが浮かんできます。
正直、あまりにいたましく、この報道を詳細に検討できるくらいに日々報じられる内容を追えているわけではありませんので、今、私が報道から見て把握した限りで感じたことをお話ししたいと思います。

報道によれば、バスを運転していた園長は、バスから子どもたちを降ろした際、その日突発的に起きた事情があって、その日に限って全員が確実に降りたことをしっかり見回って確認できていなかったとのこと。

でも、朝の送迎バスなんです。
子どもたちは、朝、お母さんやお父さんの仕事に合わせ、早起きして支度して頑張ってバスに乗り込んでいるんです。
今回の事件でどうだったかは全くわかりません。
でも、一般的に考えて、まだまだ小さい子どもたちなんですから、バスの中で背を低くして座席で寝てしまうなんてことありますよね。
「寝てしまって、自ら降りてこない子いないかな?」ちょっと考えただけで、バス全体をしっかり見て回って確認しなくてはいけない状況なのではないでしょうか?

しかも、たとえば、大きなバスに何十人も乗っているという状態ならその見回りもなかなか大変で、緊急事態がほかで起きていたりしたら、見回りにはかなり時間がかかってしまうこともあるかもしれない。
でも、映像で見る限り容易に全体を見渡せそうな狭い車内、そして当時乗っていた子どもたちの数も7人と少ない。
ちょっと注意を払えば、時間もかけずにくまなく確認できたはず。

そして、その日起きた事情というのも、別の子が泣いていてその対応をすることに気を取られていたなどと報じられています。
朝、保育園に通う子どもが寂しくなって泣いてしまうということって、保育園にとって日常ではないでしょうか?
その日に限って起きた特殊な事情なんかではないはず。
仮に一時その対応が必要になったとして、簡単に確認できる車内の降車確認ができなかった理由になどなりようもありません。
さらには、園で迎え入れる先生のほうでも、男の子がいないということは認識しながら欠席なのだと思っていたとのこと。
そんなことってあるのでしょうか?
子どもが保育園をお休みするときは、保護者が保育園に電話などで連絡するはず。
ただ、保護者のほうでも、急な発熱などで通院に追われ、朝、保育園に電話することをうっかり忘れてしまうこともあるかもしれない。
そんなときは、保育園のほうで、「欠席連絡が入っていないのに子どもがいない」と認識してすぐに家庭に電話し、欠席なのか、それとも遅刻なのか、体調不良かなど確認するでしょう。
それって、今回のような事件を防ぐ趣旨ももちろんありますが、なにより、保育園では幼い子どもたちの距離が近く、また滞在時間も長いことから、ひとたび感染症が流行りだすと一気に園全体に広がるおそれもあるので、体調不良の子が出たときには、園として、診断結果なども含め丁寧に確認し、園内の感染予防対策も講じる目的も大きいと思います。
特に今のコロナ情勢。
最近、保育園でもクラスターの発生が報じられている中、特に子どもたちの体調や欠席について神経を遣うべき状況がそろっていたはず。

バス降車時にちゃんと確認が行われていたら・・・
子どもたちを園で迎え入れた後、ちゃんと欠席確認が行われていたら・・・
もしかしたら、今回の事件で加害者の立場に立たされたとき、「これまではバスから降車させ忘れたなんてこと起きたことなかったから」などと訴えることがあるのかもしれない。
でも、そんなこと絶対に絶対に何らの正当化要素にも同情に値する要素にもなりようがないんです。
過去にも、園のバスから降車させ忘れたことにより置き去りにされた子どもが熱中症で亡くなった事件は起きています。
子どもたちを預かるという同じ仕事をしているほかの保育園で、預かっている子どもを園の誤った対応で死亡させてしまうという事件が報じられたとき、全国の保育園全体に衝撃が走るのではないでしょうか?
そして、何が原因でそのような事件が起きたのか、同じ事件が起きうる土壌が自分の保育園にもありはしないかとその機会に徹底的に検討し、改めて自分の園のルールを見直すのではないでしょうか?
また、保育中の事故や事件の発生を防ぐため、過去の事例やヒヤリハット事例を出し合うなどの機会もあるのではないでしょうか?
私は、弁護士が不正をしたという報道を見ると、その詳細を丁寧に調べ、なぜそのような事件が起きたのか考え、自分には、その事件の原因となった要素が少しでも存在しないか考えることにしています。
同じ仕事をする人の不正は対岸の火事などではなく、すべて自分事としてとらえ、都度自分の身を正す必要があると思っているからです。
起きてしまってから反省しても遅いから。
それは、きっとどの仕事に携わっている人も同じなのではないでしょうか?
そう考えると、過去に同じようないたましい事件が起きていることを当然認識していたと思われるのに、今回の事件を未然に防げなかったことがただただ悔しく思われます。

ニュースなどでは、園長が、バスから子どもを降車させる際、見落としがあったことについて業務上過失致死罪に問われるであろうとの見方が報じられています。
一方で、園の保護者説明会では、保護者たちが、過去に、保育の中で倉庫に子どもたちを閉じ込める対応があったと園に指摘し、これをきっかけに、男の子はバスにわざと閉じ込められたのではないかと指摘する声もあがったなどとも一部で報じられています。
もちろん、事実関係は今後の捜査で解明されることで、今はまだ何が事実かわかりませんから弁護士として軽率な憶測をコメントすべきではないと思います。
ただ、警察としては、園で過去に「閉じ込め」対応があったと指摘されていることも踏まえ、あらゆる可能性を視野に慎重に捜査を進めることになるはず。
今後も捜査に注目します
全国の保育園、幼稚園では、今一度園内のルールや運用などの確認が徹底され、子どもたちが犠牲になるいたましい事件が二度と起きることがないように、子どもたちが園で元気に過ごし、安全におうちに帰ることが当たり前でいられるようになってほしいと心から思います。

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