リーガルエッセイ

公開 2021.10.05

自分が犯罪の被害に遭ったと噓をついたらどうなるか?

自分が犯罪の被害に遭ったと噓をついたらどうなるか?
記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら

自作自演は犯罪?

先日、たまたま同じ日に、2つの記事で「自作自演」という言葉を見つけました。
1つ目は、タクシーの運転手が、「乗客に包丁のようなものを突き付けられて現金入りの封筒を奪われた」と申告して警察に通報したというもの。
2つ目は、腹部から血を流して倒れていた男性が、警察に「見知らぬ男に刺された」と申告したというもの。
いずれも、実際には被害に遭っておらず、警察への被害申告は嘘だったとのこと。
つまり、被害の自作自演だったというのです。

自分が犯罪の被害に遭ったと噓をついたらどうなるか?
たとえば、Aさんが、普段から嫌っていたBさんを陥れるために、自分で顔に傷をつけた上で、警察に、「Bさんに殴られた」と嘘の被害申告をしたら?
これは、虚偽告訴罪にあたります。
虚偽告訴罪というのは、相手に刑事処分などを受けさせる目的で警察に告訴など嘘の申告をしたときに成立する犯罪です。
嘘の申告なんてすぐにばれるんだから大げさに考えなくてもいいんじゃないかと思いますか?
でも、これはやっぱり重大犯罪なんです。
警察官は、その申告をもとに、被疑者として特定された人について捜査を進めます。
Aさんによって巧妙に嘘のストーリーが作られていたら、捜査機関も、Aさんの嘘を見抜けず、Bさんを逮捕、勾留したり、起訴したりするかもしれないし、裁判所でも嘘を見抜けなかったら、冤罪を生むかもしれません。
仮に途中で嘘が発覚したとしても、そこまでの過程で、周囲は「Bさんはもしかして犯罪を犯したのではないか?」という疑いを抱いてしまうかもしれないし、Bさんは、自分の潔白を証明するために普段の生活を犠牲にしたり、弁護士に依頼したりして対応しなくてはいけないかもしれない。
また、Aさんが嘘の被害申告をしたということが後に発覚してニュースになったとしたら、その後、全然関係なく、本当に被害に遭って警察に被害申告をしようとする人が、「本当に被害に遭ったのかな」と思われたらどうしようと不安に思い、申告をためらってしまうこともあるかもしれない。
そんな大きな影響がある行為が虚偽告訴なのです。

では、今回ニュースで報じられたように、特定の人を犯人として申告するのでなく、単に、「見知らぬ人にやられた」として犯罪被害を自作自演するなら別に誰かに迷惑をかけるわけでもなく、犯罪にはならないのではないか?と思われる方もいるかもしれません。
でも、やっぱり、これも犯罪になり得ます。
こんな自作自演がニュースで報じられると、やっぱり、真に被害を受けた人が被害申告するにあたり、「自作自演と疑われないかな」と申告をためらうようになるだろうし、また、この申告によって、多くの警察官に無駄な捜査をさせることになります。
ですから、このように犯人を特定せずに嘘の被害を自作自演して申告した場合は、軽犯罪法違反(虚偽の犯罪の事実を公務員に申告する行為)や偽計業務妨害罪にあたり得るのです。
実際、冒頭に挙げた2つ目の記事、「見知らぬ男に刺された」と嘘の申告をした件では、通り魔事件の疑いがあるとして、近隣の小中学校において、集団下校としたり、保護者の迎えを要請したりといった警戒措置が取られたとのこと。
自作自演が嘘だったとわかるまでは、近隣にお住いの方たちの不安は大きかったものと思います。

今後、警察は、「なぜ自作自演をしたのか?」という動機を解明していくことが大事な捜査のひとつになるでしょう。
本件では、まだ捜査は始まったばかりで、具体的な事実関係はわかりません。
ですので、一般論で考えてみると、単に、嘘の被害申告をすることで捜査機関や自分の周囲が大騒ぎになるのがおもしろそうだと思った、という動機もあり得るかもしれない。
でも、もしかしたら、その被害の自作自演の裏には、ほかの犯罪行為が隠れている可能性だってあるかもしれないですよね。
たとえば、嘘の被害申告をすることで、それによって、保険金を得ようとする動機。
実際に、嘘の被害申告をもとに、保険会社に保険金請求をしているような事案であれば、また、その保険金をだまし取ろうとしたことが犯罪にあたります。
なかには、最初は、別に警察に嘘の申告をすることまで考えていなかったけれど、自分の周りの人から注目されたい、なんていう軽い気持ちから犯罪被害に遭ったかのような嘘をついてしまったところ、嘘を信じた周囲が騒ぎ出して、引くに引けなくなって周囲に同行される形で嘘の申告をする羽目になってしまった、などということもあるのかもしれません。
そんなことを考えていると、嘘の被害申告をする自作自演の犯罪って、実は、意外と身近なところにその危険があるのかな、と思います。
今後の捜査に注目していきます。

弁護士へのご相談予約で、
初回相談60分無料 ※ ご相談の内容によっては、有料となる場合もございます
些細なご相談もお気軽にお問い合わせください
弁護士へご相談可能な時間帯
平日:10:00~最終受付18:00 /
土日祝:10:00~最終受付17:00

こんな記事も読まれています

CONTACT

法律相談ご予約のお客様
弁護士へのご相談予約で、
初回相談60分無料 ※ ご相談の内容によっては、有料となる場合もございます
些細なご相談もお気軽にお問い合わせください
弁護士へご相談可能な時間帯
平日:10:00~最終受付18:00 /
土日祝:10:00~最終受付17:00
弁護士へのご相談予約で、初回相談60分無料 ※ ご相談の内容によっては、有料となる場合もございます
弁護士との初回面談相談60分無料 ※ ご相談の内容によっては、有料となる場合もございます