リーガルエッセイ

公開 2023.05.22

市川猿之助さんの自殺未遂事件について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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自殺未遂事件で犯罪は成立するのか?

私は、検察官時代、無理心中事件の捜査、公判を担当したことがありました。
詳しい話はできませんが、子の将来を悲観した両親が、まずは子を殺害し、その上でそれぞれ自殺しようと計画し、実行しようとしたのですが、被告人は自殺未遂に終わり、家族の中でただ一人生き残ったという事件でした。
検察官としてたくさんの事件を担当しましたが、この事件のことは、20年以上経った今でも鮮明に覚えています。
取調べの中でも、裁判においても、私は、この方にいったいどんな言葉をかけたらいいのかわからず悩みに悩んでいたからだと思います。
思い出すことで胸の痛みを感じることもあり、普段は思い出さないようにしていたように思いますが、先日、久しぶりにその事件の記憶がよみがえりました。
市川猿之助さんの報道を目にしたからです。

まだ何も事実関係はわかりませんので、想像に基づき、この件について具体的なコメントをすることは避けたいと思います。
そこで「ともに生活しているご家族が死亡し、同じ家にいた一人が生き残っているところ、その方に何らかの犯罪が成立するか」という範囲で一般論の整理をしてみたいと思います。

まず、大前提として、たまたま一緒に住む同じ家でご家族が死亡されていたとしても、そのご家族がご自身の意志で自殺を思い立ち、ご自身で自殺を図るなど、生き残った方が、ご家族の死亡に何ら関わりを持っていないという場合には、生き残った方に犯罪は成立しません。

犯罪が成立し得る類型は2つあり得ます。
1つ目が、生き残った方が、死亡したご家族に対して自殺を唆した場合や、もしくは自殺が容易になるように助けた場合、死亡したご家族から殺人の依頼を受けたり、もしくは殺害することの承諾を得て殺害した場合。
これらの場合は、順に、自殺教唆、自殺ほう助、嘱託殺人、承諾殺人などの犯罪が成立し得ます。
自殺教唆というのは、自殺するつもりのなかった人に対して自殺をそそのかし、その気にさせて、自殺させること。
自殺ほう助というのは、自殺したいと考えている人に対して、自殺のための方法を教えるなどして手助けすること。
2つ目が、死亡したご家族が、自分たちが殺害されること、死亡することを了承などしておらず、生き残った方が殺害したと評価できる場合。
この場合は、殺人罪が成立し得ます。

このように、犯罪の成否、いかなる犯罪が成立するかの評価においては、死亡したご家族の真意や死亡に至る経緯が重要になるのですが、では、すでにご家族が死亡している今、それを明らかにするために何が証拠になるかというと、やはり、生き残った方の供述が非常に重要になってきます。
そうなると「死亡した方からは供述を得られない状況なんだから、生き残った人により、自分に有利なように供述されてしまえば真相が明らかにならないのではないか」と思いませんか。
たしかにそのとおり。
だからこそ、警察や検察官は、生き残った被疑者、被告人の供述を鵜呑みにするのでなく、できる限り客観的な証拠から事実を認定していかなければならないのです。
たとえば、何らかの薬物の摂取が死因となっているのであれば、その薬物の入手経路を特定したり、ご家族が自ら死を望んでいたのだとしたら、その動機を裏付ける事情が存在するのか捜査したり、その身体に抵抗の跡が残っていないか捜査したり。

被疑者、被告人から詳細な供述を得、それを裏付ける客観的な証拠が存在するかということを丁寧に丁寧に積み重ねていく必要があります。
そして、生き残った被疑者、被告人については、多くの場合、もともと自らも自殺を企てるところまで精神的に追い込まれていた可能性がある上、家族が死亡し、そのような中で自分だけが生き残ったという現実に打ちのめされていることも。
捜査にあたっては、そのような被疑者、被告人の心理状態にも細かく気を配りながら真相を解明しなければなりません。

今回の件については、いまだ事実がわかりません。
今後の捜査の進捗に注目します。

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