リーガルエッセイ

公開 2023.07.04

「オンライングルーミング」について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら

オンライングルーミング

中学生のわが子は、常に犯罪リスクに神経をとがらせている母である私の影響もあり、比較的、犯罪被害予防の感覚が備わっているように感じます。
それでも、たまに「こんなよさげな人が、私が描いて投稿した絵を褒めてくれるDMくれたよ。これならお返事してもだいじょうぶだよね」などと、うれしそうに、SNSを通じて送られてきたダイレクトメッセージを私に見せて来ることがあります。
たしかに、心優しいいい人なのかもしれない。
でも、違う見方もできる。
ですから、そのようなとき、私は、ここで返信をして個人的につながりをもつことで、今後具体的にどんな展開があり得るかという話をした上で、子どもとともに、そこにリスクがあり得る以上、どんな対応をすべきだろうかという話し合いをするようにしています。

少し前になりますが、警察庁が「令和4年における少年非行及び子供の性被害の状況」という統計を公表しました。
これによると、昨年1年間でSNSを利用して犯罪の被害に遭った18歳未満の子は1732人。
被害内容の内訳を見ると、青少年保護育成条例、児童買春・児童ポルノ禁止法の被害が非常に多く、これを除くと、略取、誘拐の被害、強制性交等、強制わいせつの被害が大きな割合を占めています。
警察庁の公表に関する報道によると、このような犯罪被害に遭うきっかけとなったSNSの最初の投稿は、7割以上が子どもの側から発信されたものだったとのことです。

この公表内容を正しく理解し、被害の防止に役立てるためには、前提として「オンライングルーミング」について知る必要があると思います。

グルーミングというのは、手なずけることを意味します。
つまり、子どもに対する犯罪に関連して使われるとき、子どもに接近して信頼を得て、子どもの持つ罪悪感や羞恥心などを利用して関係性をコントロールする行為を意味するものとして使われます。
そして、法務省の「性犯罪に関する刑事法検討会」による報告書によれば、グルーミングの例としては3類型あり、

  1. ①SNS等を通じて徐々に子どもの信頼を得た上で会う約束をするなどし、最終的に性交に及ぶ類型
  2. ②子どもと近い関係にある者が、子どもの肩をもむといった行為から始め、断りにくくさせた上で徐々に体に触れるなど行為をエスカレートさせる類型
  3. ③子どもと面識のない者が公園などで子どもに声をかけて徐々に親しくなる類型

があるとされています。

このようなグルーミングにより、子どもは、そもそも、自分がされていることを「被害」として認識しづらくなるため、親などに発覚する機会自体が失われてしまったり、仮に、自分がされていることに違和感、嫌悪感を感じても、それを被害として訴えることにためらいを感じてしまったりするという特徴があり、まさに、加害者側はここに乗じ犯罪行為に及ぶのです。

オンライングルーミングは、①の類型にあたりますが、この類型は、SNSを通じてやりとりが重ねられる過程で、相手が、素性や本来の意図を隠したままで、子どもの自分への信頼を高めることができるという特徴があります。

警察庁の公表している「子供の性被害防止対策『ちょっと待って!その書き込み大丈夫?』」という動画を見ると、具体的にどのようにしてオンライングルーミングがなされるのかを知ることができると思います。
この動画にあるように、オンライングルーミングによる性被害のきっかけは、子どもが、悩みを匿名で書き込める掲示板や不特定多数の人が見ることのできるSNSへの書き込みであることが多いようです。
進路などに関し親と意見が対立したり、生活態度を親から注意されたりし、そこで抱えたストレスや行き詰まった気持ちを掲示板などに書き込むと、その瞬間にたくさんの大人たちから、子どもを心配したり、優しく励ましたりするようなメッセージが届くのです。
子どもは、気持ちが弱くなっているときに、ありのままの自分を受け止め、気遣ってくれる相手の言葉に接し「親でも理解してくれないことをこの人だけはわかってくれる」と思うようになり、グルーミングが始まってしまうという実態があります。
グルーミングによる性被害のきっかけ自体をなくすためには、子どもが悩みを抱えているときに信頼できる相談先を確保しておくことがなにより大事です。
もちろん、その前提として、子どもには、子どもの弱みにつけこんで手なずけ加害に及んでこようとする者の存在、それにより子どもの性被害が後を絶たない実態をしっかりと伝える必要があります。

親としては、子どもが悩んだときには、なんでも自分に話すように、と言いたくなりますよね。
でも、子どもが、親には打ち明けられない悩みを抱えたときに信頼して相談できるもう一つの相談先について子どもと話し合って確認しておくことは、グルーミングによる被害を防ぐためにもとても大事なことだと思います。
ぜひ一度、子どもの性被害に関する警察庁の公表をお子さんとご一緒に見ていただくことをお勧めします。
そして、もし、お子さんが何らかの犯罪に巻き込まれたことがわかったら、なるべく早く警察、弁護士などにご相談ください。

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