リーガルエッセイ

公開 2023.07.14

改正刑法が施行。「不同意性交等罪」について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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自由な意思決定というものを考える

令和5年7月13日、改正刑法が施行されました。
もりだくさんな内容なので、何度かにわけてお話ししたいなと思っており、今回は、不同意性交等罪についてとりあげてみたいと思います。

強制性交等罪、準強制性交等罪とされていたものが、このたびの改正で不同意性交等罪に一本化される形で変わりました。
(以下、いわゆる性交同意年齢以上の年齢の被害者に対する犯罪という前提でお話ししています。)
そもそも、性犯罪の本質的な要素は「自由な意思決定が困難な状態で行われる性的行為」ということにあります。
そして、これまでの強制性交等罪では、そのような行為といえるかどうかということを、暴行・脅迫(強制性交等罪)、心神喪失・抗拒不能(準強制性交等罪)の要件で評価していました。
これについて、今後は、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」にさせたり、そのような状態にあることに乗じて性交等を行うことを要件としたのです。
そして、法律は、このような状態の原因となり得る行為、事由として、以下の8つの類型を挙げています。

  1. ① 暴行もしくは脅迫を用いることまたはそれらを受けたこと
  2. ② 心身の障害を生じさせることまたはそれらがあること
  3. ③ アルコールもしくは薬物を摂取させることまたはそれらの影響があること
  4. ④ 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせることまたはその状態にあること
  5. ⑤ 同意しない意思を形成し、表明しまたは全うするいとまがないこと
  6. ⑥ 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、もしくは驚愕させることまたはその事態に直面して恐怖し、もしくは驚愕していること
  7. ⑦ 虐待に起因する心理的反応を生じさせることまたはそれがあること
  8. ⑧ 経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させることまたはそれを憂慮していること

一部について、その意味を補足説明します。
⑤は、性的行為がされようとしていることに気付いてから、性的行為がされるまでの間に、その性的行為について自由な意思決定をするための時間のゆとりがないことをいいます。
⑥は、フリーズの状態です。予想外の事態に直面し、自分の身に危険が加わると考え、不安になったり、強く動揺して平静を失った状態をいいます。

「一緒にお酒を飲んだらいい気分になって、勢いでホテルに行き、性交した」
こんな出来事、よく身近で見聞きしませんか?
今後、そのようなケースで、後日、相手から「先日は、お酒に酔って、よく記憶のない状態で性交された」とか「押しが強く、状況を理解できないままに突然性交された」などとして不同意性交等罪により被害申告されることがあるかもしれません。
当時の客観的状況から、被害者側が、お酒の影響で自由な意思形成が困難な状態だったり、突如性的行為をされたことにより、その行為についての自由な意思決定をするための時間のゆとりがなかったりしたら、それは、③や⑤でいう類型にあたり、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせたり、そのような状態にあることに乗じて性交等を行ったとして、不同意性交等罪が成立すると評価される可能性があるでしょう。

被疑者側からも「同意していたと考えていた」という弁解が予想される中、裁判所が、改正刑法のもとで、個別事情をもとに、いかに評価するかは今後の裁判例に注目していく必要があります。

私は、まだ不勉強で、この改正刑法に関し、十分な知識をもてているわけではないのですが、この改正を経て、私たちは、これまで以上に、性的行為における自由な意思決定というものについて今一度よく考える必要があるように思います。

「この状況だったら相手も同意しているだろう」「嫌と言わない以上、相手は拒否していないのだろう」「いちいち同意不同意を口にすることは、性的行為に関しては無粋」などという価値判断から抜け出し、その場の状況、互いの立場、相手の言葉、行動などから丁寧に相手の意思を確認することが求められるのだと思います。

そして、相手の意思という以前に、「自分の意思」ということについて、この機会に丁寧に考えるべきところなのかなと考えています。
同意や不同意を相手に示す前提として、自分は相手との関係をどうしたいと考えているのか、自分の本心と向き合うことが何より大事になってくると思うのです。
その自分の「こうしたい」の中に、「相手から嫌われてしまうから同意しなくてはいけないかも」などという相手軸での判断基準を入れてしまうがために、苦しい思いをしてしまうことがあるかもしれません。

子どもたちへの法教育のひとつとして、今後はこのような話も少しずつ取り入れていきたいなと思います。

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