リーガルエッセイ

公開 2023.09.11 更新 2023.09.12

「ビジネスと人権」とは

刑事_アイキャッチ_340
記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら

ビジネスと人権

なぜ企業はジャニーズ事務所所属のタレント起用を見直すのか

先日、ジャニーズ事務所の故元社長による性加害問題を巡り、一部企業が、これまで起用してきた同事務所所属タレントを広告、販促に起用しない方針を決めた旨報じられました。

この報道を見たかたの中には「え?なぜ?性加害問題の当事者でない所属タレントがかわいそうじゃないか?」と思われたかたもいらっしゃるのではないでしょうか?
中学生になるわが子もそのような印象をもったようでした。

起用の見直し方針を決めたある企業が「ステークホルダーによる人権侵害を助長しないよう努めると定めたグループ人権方針に相反する」と見解を明らかにしたとも報じられています。

何回かにわけて、「ビジネスと人権」に関わる話を取り上げてみたいと思います。

「ビジネスと人権」という言葉を聞いたとき、違和感を感じるかたもいらっしゃるのではないかなと思います。
その違和感の正体は、「ビジネス」と「人権」の接点がイメージできないというものなのではないかと思うのです。

でも、ウイグル自治区の強制労働問題を巡り、アパレル大手に厳しい視線が向けられ、
これに応じ、自社製品の生産を委託している工場はウイグル自治区に立地しているものはないなどという企業のコメントが報じられた件はご記憶にあるかたもいらっしゃるのではないでしょうか?

企業が自社の利益を優先し、倫理観や法令遵守の意識を軽視することにより環境破壊、食品等製品偽装等不正等の社会問題が発生します。
環境破壊、不正等は、消費者、企業で働く労働者、顧客、取引先、株主などステークホルダーの生活に直接的な影響を及ぼします。
そのような中、企業活動過程において人権が尊重されなければいけないという考え方には年々注目が高まっており、人権問題への対応は、企業価値に直結するという前提が国際社会の常識になっています。
2011年には、国連の人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則」が全会一致で支持されました。
日本でも、2020年10月に「『ビジネスと人権』に関する行動計画」が公表されています。

ここでは、企業活動における人権への影響の特定、予防・軽減、対処、情報共有を行い、人権デュー・ディリジェンス(人権への負の影響を特定、防止、軽減し、どのように救済するかという継続的なプロセス)を導入することへの期待が表明されています。

そして、国際スタンダードを踏まえ、企業に求められる人権尊重の取組について、日本で事業活動を行う企業の実態に即して解説したものに「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」があります。

このガイドラインには、人権に対する負の影響の類型として、3つ挙げています。

1つ目は、企業がその活動を通じて負の影響を引き起こす場合。
自社工場の作業員を適切な安全装備なしで危険な労働環境において労働させる場合などが例として挙げられています。

2つ目は、企業がその活動を通じて、直接に、又は外部機関を通じて、負の影響を助長する場合。
過去の取引実績から考えると実現不可能なリードタイムであることを知りながら、そのリードタイムを設定してサプライヤーに対して納品を依頼した結果、そのサプライヤーの従業員が極度の長時間労働を強いられる場合などが例として挙げられています。

3つ目は、企業は、負の影響を引き起こさず、助長もしていないものの、取引関係によって事業・製品・サービスが人権への負の影響に直接関連する場合。
小売業者が衣料品の刺繍を委託したところ、受託者であるサプライヤーが、小売業者との契約上の義務に違反して、児童に刺繍を作成させている業者に再委託する場合などが例として挙げられています。

指導原則に則って考えれば、自社が直接人権侵害行為をしていなくとも、取引先で起きた人権侵害に見て見ぬふりをして、その取引先との関係を継続することは「人権侵害を助長した」とみなされる可能性があります。

このような考え方が、このたびの一部企業によるジャニーズ事務所所属のタレント起用方針見直しにつながったものと考えられます。
次回、またこの続きをお話ししていきたいと思います。

弁護士へのご相談予約で、
初回相談60分無料 ※ ご相談の内容によっては、有料となる場合もございます
些細なご相談もお気軽にお問い合わせください
弁護士へご相談可能な時間帯
平日:10:00~最終受付18:00 /
土日祝:10:00~最終受付17:00

こんな記事も読まれています

CONTACT

法律相談ご予約のお客様
弁護士へのご相談予約で、
初回相談60分無料 ※ ご相談の内容によっては、有料となる場合もございます
些細なご相談もお気軽にお問い合わせください
弁護士へご相談可能な時間帯
平日:10:00~最終受付18:00 /
土日祝:10:00~最終受付17:00
弁護士へのご相談予約で、初回相談60分無料 ※ ご相談の内容によっては、有料となる場合もございます
弁護士との初回面談相談60分無料 ※ ご相談の内容によっては、有料となる場合もございます