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あのとき第一に考える相手はだれであるべきだったのか?/報告が遅れた原因は報告する側にのみあるのか
損害保険ジャパン社長が、昨年、ビッグモーター社による不正の可能性を認識していながら、いったん中止していた同社との取引再開を促していたとされる件で、責任をとって辞任することになったと報じられました。
この辞任会見に関する報道を見て思ったことを2点とりあげてお話ししてみたいと思います。
1点目は、社長が「大型代理店であるビッグモーター社からの反発をおそれ、厳正な対処ができなかった。本来もっとも大切にすべきものが何かという観点での判断を経営みずからが正しく行えていなかったことが背景にある」と述べたと報じられている点についてです。
当時、同業他社の動向、厳正な対処をした場合のビッグモーター社による反発リスクにばかり目がいってしまい、本来重視すべきだったお客様保護の観点が欠落していたということです。
この社長の言葉を見たとき、ふと、この会社のクレドはなんだろうかと思い、HPで確認してみました。
すると、「SCクレド」という言葉とともに、以下の7つの事柄が挙げられていました。
- 私たちの原点
- 私たちのお客様
- 私たちの指名
- お客様の期待
- 期待に応える基本行動
- お客様満足の鍵
- 私たちの支え
これらに関する解説とともに、このクレドこそが、お客様に対する自分たちの判断、思考、行動の源であるとの記載があります。
クレドというのは、信条のこと。
かつて、ジョンソン・エンド・ジョンソンが、タイレノール事件発生時、「我々の第一の責任は、我々の製品およびサービスを使用してくれる患者、医師、看護師、そして母親、父親をはじめとする、すべての顧客に対するものであると確信する。」というクレドに従い、まず顧客を守ることを最優先で考えることとし、そのために、直ちに、タイレノールを一切使用しないようマスコミを通じて発信し、商品の自主回収をしたという危機対応が語り継がれています。
損保ジャパンにおいても、ビッグモーター社における不正の可能性が浮上するという事態に直面した際、同社のクレドに従うのであれば、真っ先に考えるべきは、顧客の存在であったはず。
しかし、当時、社長が考えたのは同業他社の動向やビッグモーター社からの反発リスク。
このような危機対応時に従うべきクレドは存在していたのに、その内容をトップ自らの信条として落とし込めていなかったということになると思います。
HPでは、このクレドを策定して以降、明らかに現場の意識が変わり、常に顧客の存在を念頭に業務にあたるようになった旨の説明がありました。
にもかかわらず、会社のトップやそこに近い経営陣らにおいて、クレドを落とし込めていなかったからこそ、会社にとって大事な危機対応をめぐる判断を迫られたとき、クレドが価値判断基準として機能しなかった。
これは会社の根本に関わる大きな問題です。
2点目は、会見に同席していたグループCEOが「事業会社のガバナンスの健全な体制を作るというのが持ち株会社のミッションだとすればもっと早く報告が欲しかった。報告を受けてから指示どおりに動いてくれればもしかしたら避けられたかもしれないという気持ちはあるが、報告が遅かったことも含めてじくじたる思い」などと発言した旨報じられていることについてです。
言うまでもなく、事業会社における経営判断の誤り、ということが第一に問題とされるべきであるものの、明らかに事業会社レベルの問題にとどまらない影響をもつ、危機対応に関する重要な経営判断になろうことが明らかであったのに、なぜ、早い段階で持ち株会社の取締役会等に上がってこなかったのか、という点は検討されるべき課題であると思います。
事業会社にとっては、「本来報告し、対応につき指示を仰ぐべきであったのにこれを行わなかった」ということが課題となることは明らかですが、報告を受ける側においても、報告する側がそれをできなかった、または、しなかった要因が、こちら側にもあるはずであるとして、ネガティブな情報をあげにくい「空気」がなかったか、レポートラインの整備、運用状況の検証が必要になると考えます。
この会見のみを見ての雑感ですので、事態を正しく理解していない部分もあろうかと思います。詳しくは調査委員会による調査結果に注目していきます。
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