リーガルエッセイ

公開 2023.09.13

「ビジネス」という観点から考えられる「人権」問題について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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ビジネスと人権

前回から「ビジネスと人権」というテーマでお話ししていますが、よく考えたら、「人権」というワード自体を正しく認識することなくしてこのテーマを語れないなと思いに至りました。

そこで、今日は、まず、「人権」とはなにかということを簡単に取り上げ、その上で、ビジネスという観点で考えたとき、どんな人権が問題になり得るのかということについてお話ししてみたいと思います。

❶人権って?

昔々、社会科の授業で習ったような、習わなかったような…という印象ではないでしょうか?
人権とは、すべての人が生まれながらにしてもっている権利で、個人として尊重されるというもの。
何かを条件に与えられたり、一部の人だけがもっていたりというものではなく、だれもが生まれながらに一人の人として大事に尊重されるということを意味します。
私は、小学校でいじめ予防授業をすることがありますが、その際は、いじめというものが、この人権を侵害するものなんだよというところから話をするようにしています。
人権侵害というものは、どこか自分とは無関係の遠い世界で起きていることではなくて、自分の身近に存在している問題なんだということを感じてほしいと思って話すようにしています。

❷ビジネスと人権の接点

では、ビジネスと人権はどういうところで接点をもつのか?
前回もお話ししましたが、ここがイメージできないというかたも多いのではないかと思うのです。
前回、例として、ウイグル自治区における強制労働問題を例にサプライチェーン上の人権問題を挙げましたが、これをお話しすると、やっぱり自社には無関係だとお考えになるかたもいるかもしれません。
でも、ビジネスは、人とは無関係に存在するものではありません。
事業に携わる人、サービス等を提供する相手、その事業を応援する人…必ずいろいろな立場で人が関わってきます。
人が関わってくる以上、人と人との間で利害対立が起きる可能性があります。
そのような中で、企業が人権課題に無関心でいると何が起きるか。
訴訟、行政罰などの法務リスク、ストライキや人材流出などのオペレーショナルリスク、不買運動やSNS炎上などのレピュテーションリスク、株価下落や投資引きあげなどの財務リスクなどにつながります。
つまり、人権課題の放置は、そのまま経営リスクに直結するということです。
人権課題を発見するためには、何が人権課題となり得るか認識しなければなりません。
企業が尊重すべきとされている人権課題としては、たとえば、次のようなものが考えられます。

各種ハラスメント問題

パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント等ハラスメント問題は企業がもっとも直面する機会の多い人権課題だといえるでしょう。

プライバシーの問題

私生活、家族、住居、または通信に対して恣意的、不当、または違法に干渉したり、私生活上の事実情報、非公知情報、普通なら公開を望まない情報をみだりに公開したりすることはプライバシー権との関係で問題となりますし、特に企業にとって顧客の個人情報について、本人の了承を得ずに、取得、保管、公開または第三者への提供を行うことは、情報管理上の問題として深刻な経営リスクになります。

ジェンダーに関する問題

生物学的、社会、文化的な性別役割に基づいて、就職、賃金、労働環境などの待遇において差別または不当な扱いをすることについては、特に、まだまだ基礎的な知識不足も原因となって起き得る人権課題といえそうです。

救済へアクセスする権利の問題

企業が人権への負の影響を引き起こした際に、被害者が救済を受けるための苦情処理メカニズムにアクセスが処理できないという事態が、そのまま人権課題といえます。 
社内における通報、相談システムの未整備、不十分な運用状況などはこの権利との関係で問題になり得ます。

このような話をしてくると、もしかしたら、「なんだ。ハラスメント研修ならやっているからうちは大丈夫だ」などと思われるかたもいるかもしれません。
でも、私は、そもそも、ハラスメント問題、その他今挙げてきたような問題のひとつひとつが、「人権」侵害問題なのであるという認識をもつこと、そして、その認識をもとに人権課題に敏感になることは、目の前の予算達成とともに、というよりも、それ以上に、すべての大前提として企業価値向上のためになくてはならない視点であるという意識をもつ必要があるのだと思いますし、この意識というものが、日々報道されている企業不祥事予防に不可欠のものであると考えています。
少し抽象的な話が続いてしまいますが、この話、もう少し続けていきたいと思います。

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