リーガルエッセイ

公開 2023.09.14

相談窓口の在り方

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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機能した相談窓口の在り方から学ぶ

現役の中学校校長が、過去に勤務していた中学校における中学生に対するわいせつ行為を撮影した画像等データを保管していたとして、いわゆる児童買春・児童ポルノ禁止法違反の被疑事実で逮捕されたと報じられました。

ふと、我が子が通う中学校では、2学期が始まったこの時期、これまで以上に先生方が朝の校門に立って元気に生徒たちを迎えてくださったり、細やかにお声をかけてくださったりしていることを思い出しました。
長期休み明けのこの時期って、きっとどの学校も、少し不安定な精神状態で通学してくる子を想定し、学校全体で、そんな生徒たちをどうやって落ち着いて学校生活が送れる体制を整えようかと懸命に取り組まれている時期だなあと思い至ったのです。
今は、そんな時期なのです。

逮捕事実では、このデータが保管されていた場所が、逮捕された校長の勤務する中学校校長室であったと特定されているとのこと。
とすれば、警察官らがこの中学校の校長室につき捜索をすることになったはず。
この学校でも、もしかしたら、学校全体で、生徒たちの気持ちを落ち着かせていくかが会議の話題になったり、多くの先生方が家庭とも連携しながら対応されていたりしたのではないかなと思うと、そのような中で、現役校長がわいせつ事犯で逮捕され、学校に警察官らが来て捜索が行われるなどという事態に学校全体が大きく動揺しているのではないかなどと想像します。

そのようなことに思いを巡らせていたとき、この報道された記事のある部分が気になって仕方なくなりました。

それは、この件がどのようにして発覚したかという端緒についてです。

報道によると、かつて被害に遭った女性が、匿名で東京都教育委員会の相談窓口に相談したことがきっかけとなり、その後、何度も相談が重ねられ、面談による相談が実現し、最終的に被害女性が警察に被害申告したとのこと。

私は、この記事の範囲でしか、具体的にどのような対応がなされたのか知り得ませんが、さらっと書かれていたこの部分、実は、とても大きな意味があると感じました。

まず、この被害女性が、この相談窓口にたどりつくことができたということは、きっとその相談窓口が、窓口を必要としているかたにきちんと届くようにその存在が周知されているのだということ。

そして、これは想像するとわかると思うのですが、自治体が、「性被害の相談はこちらに」などという事務的な説明とともに窓口の電話番号を形ばかりHPなどに記載しているだけでは、被害に遭われたかたが「ここに相談した場合、ちゃんと話を聞いてもらえるのかな。秘密を守ってもらえるかな。大騒ぎされて、勝手に大ごとにされてしまわないかな」などという気持ちから、相談をためらってしまうはず。

こんな不安を打ち消すような細やかで力強いメッセージが相談をためらっているかたに伝わる必要があるのです。

この被害に遭われたかたが相談された窓口が具体的にどこなのかはわかりません。
でも、東京都教育委員会の性被害に関する相談ができる窓口を検索してみたところ、SNSを通じて相談できる窓口があったり、教員からの性被害について、電話、メール、書面投函等の方法で匿名相談できる窓口があったりし、秘密が守られること、相談したことで不利な立場に立たされることはないことなどの説明があったりしました。

さらに、小中学生となると、そもそも自分がされたことが相談すべき性被害なのかどうかの判断がつかないために、気持ちがもやもやするのだけど、どうしたらいいのかわからないという子も多くいるはず。

そのような場合も想定し、「『おかしいな、もやもやするな、いやだな』と感じたら周りの信頼できる大人に相談」というメッセージを添え、具体的にどんな場合に相談したほうがいいのかということをわかりやすく説明するポスターなども公開されています。

もちろん、このような周知がなされるだけでは相談窓口が十分機能するわけではなく、勇気を出して飛び込んだ被害女性に対し、丁寧で心ある対応がなされたからこそ、被害女性は相談を重ね、直接面談にも応じ、最終的に警察署に被害申告するという行動に出られたのだと思います。

性被害、特に、教員による性被害は、本来、加害者になどなり得ない教員に対する信頼が裏切られたという絶望、もし被害申告したら、教員の話のほうが信用されてしまうのではないかという不安、学校を敵に回したことになり、将来何か不利益を受けるのではないか、学校に通うことができなくなってしまうのではないかという恐怖などから、その被害を口にすること自体がとてもとても難しいもの。

身近な家族には知られたくないという思いが働く可能性もあり、そのような中で、自治体の相談窓口がもつ意味はとても大きいものです。

詳しい内容を知らない中、想像だけで軽率なことを言えません。
また、もちろん、具体的な被害女性のプライバシー保護がもっとも重要で、それ以上に守るべきものはありません。
でも、このような相談窓口については、よく「相談したにもかかわらず、その対応が悪く、窓口として機能しなかった」などと批判の対象になることは多いのですが、窓口が機能した点に注目した取り上げられ方をされる機会はあまりないように感じますので、このたびの東京都教育委員会の相談窓口の事前周知、相談後の対応を振り返り、窓口として大きな役割を果たすことができたと評価できるのであれば、要素を抽出し、自治体間で共有される必要があるのではないかと思いました。

また、これは、犯罪被害相談に限った話ではなく、企業不祥事予防のための通報窓口とも共通する要素があります。
社内の相談、通報窓口に関わる業務を担うかたにとっても注目すべき報道なのではないかと思います。

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