リーガルエッセイ

公開 2023.09.20

不適切保育報道を見て思ったこと

刑事_アイキャッチ_346
記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら

不適切保育報道を見て

先日、愛知県の認定こども園で、複数の保育士が園児に対し暴言を吐くという不適切な保育があったことが判明したと報じられました。
子どもを園に通わせていた保護者が園内でのやりとりを録音した音声をもとに園に調査を求め、結果、暴言が認められたとのこと。

小さな子が、初めて親と離れて過ごす園での時間。
その時間が楽しくて仕方ないという子もいるかもしれませんし、大好きな親と離れることでいつも不安を感じながらも小さな体で懸命にがんばっていた子もいるかもしれません。
そんな子たちが、暴言にさらされていたというのは、あまりに惨い話で、子どもたちの心の痛み、見守る親の感じた胸の痛みを思うと、つらい気持ちになります。

私自身がわが子を保育園に預けていた日々のことを思い出したとき、私が思い悩んでいたことのひとつが、子どもの話を聞いていて、ふと、保育園側の対応に不安な気持ちを抱いたときに、その不安を保育園の先生にお伝えすべきなのか否かということでした。

私にとって初めての子育て。
未熟で、人一倍心配性な私の感覚で不安に思ったことのすべてを保育園にお伝えすることは、先生方にご迷惑だと思えたし、「神経質な親だな」などと思われてしまい、モンスターペアレンツとして認定されてしまったらどうしようという不安もありました。
いったん預けている以上は、その時間は保育園の方針にお任せしているわけだから、あれこれと私が口を出してはいけないのだという思いもありました。

一方で、子どもの曇った表情を見ることはつらく、どんな小さなことであっても、子どもの顔を曇らす要素を自分が取り除いてやりたいという思いも。

そんな中、そもそも、本来あるべきでない不適切保育というものはどういうものなのか、という基準を認識しておくことは重要なのだと思います。

この点、こども家庭庁による「保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン」では、虐待の定義を明らかにした上で「虐待等と疑われる事案」と説明されています。

少し細かい話になるのですが、「不適切な保育の未然防止及び発生時の対応についての手引き」(令和3年3月株式会社キャンサースキャン)の中では、不適切な保育の行為類型をもう少し具体的に示しています。
その手引きでは、不適切保育というのは、保育所での保育士等による子どもへの関わりについて、保育所保育指針に示す子どもの人権・人格の尊重の観点に照らし、改善を要すると判断される行為であるとし、全国保育士会の「保育所・認定こども園等における人権擁護のためのセルフチェックリスト~「子どもを尊重する保育」のために~」(以下「保育士会チェックリスト」)を参考に、

  • ①子ども一人ひとりの人格を尊重しないかかわり
  • ②物事を強要するようなかかわり・脅迫的な言葉がけ
  • ③罰を与える・乱暴なかかわり
  • ④一人ひとりの子どもの育ちや家庭環境を考慮しないかかわり
  • ⑤差別的なかかわりを不適切な保育の具体的な行為類型として示しています。

でも、こども家庭庁のガイドラインでは、この5つの行為類型は、あくまでも、保育の振り返りをするチェックのためのツールであり、この5類型にあたれば直ちに不適切保育にあたるというものではないと説明しているようです。

その上で、このガイドラインでは、不適切保育とは、「虐待等と疑われる事案」だと捉えることとしています。
そして、その不適切保育の具体例などは言及されていません。

結論として、「不適切保育とは何か」の問いに対し、国において具体的な回答が準備されているようには思えません。

もっとも、たしかに、不適切保育を言葉で明確に定義すること自体に本質があるわけではないことを考えると、不適切保育の定義づけが不明確であることはあまり大きな問題ではないのかもしれません。

必要なのは、このような事案をきっかけに、子どもとの関わりはどうあるべきなのか、ということを保育施設側でも、保護者の側でも、取り巻く自治体を始めとする社会においても考え、子どもとの関わりをそれぞれが振り返ることなのだと思います。

そう考えてくると、「不適切保育とは何か」という定義づけはいったん措いておくとして、子どもの人権を尊重するという観点から作られた保育歯科医のセルフチェックリスト項目は、ある具体的な保育の在り方を振り返るにあたって参考になるものなのだと考えます。

たとえば、言うことを聞かない子どもに対し「こうしないと、今日の給食は食べさせないよう」と脅すことなどは❷や❸にあたり得る行為といえるでしょう。
このような行為が認められた場合は、保育施設に相談し、子どもとのあるべき関わりについて話し合いをするということが考えられると思います。

このような事例が続き、保育施設側に話し合いを求めても、それに応じてもらえないなどの事情があれば、市区町村の窓口や都道府県の福祉サービス運営適正化委員会などに相談するという選択肢も考えられると思います。

子どもとの関わりについては、唯一の正解がある訳でもないと思いますし、「このようなことを保育園に相談してもよいものか」と不安になることもあると思います。また、相談しようと思っても、なかなか自分一人ではうまくその思いを伝えられないということもあるかもしれません。
同じ保育施設に通われているかたに意見を聴いてみるのもひとつ。自治体などの相談窓口に相談してみることも選択肢。また、内容によっては、弁護士がお力になれることもあるかもしれません。

お子さんに関わる大事な問題です。
お一人で抱え込まず、必要なサポートを受けられるように考えてみてください。

弁護士へのご相談予約で、
初回相談60分無料 ※ ご相談の内容によっては、有料となる場合もございます
些細なご相談もお気軽にお問い合わせください
弁護士へご相談可能な時間帯
平日:10:00~最終受付18:00 /
土日祝:10:00~最終受付17:00

こんな記事も読まれています

CONTACT

法律相談ご予約のお客様
弁護士へのご相談予約で、
初回相談60分無料 ※ ご相談の内容によっては、有料となる場合もございます
些細なご相談もお気軽にお問い合わせください
弁護士へご相談可能な時間帯
平日:10:00~最終受付18:00 /
土日祝:10:00~最終受付17:00
弁護士へのご相談予約で、初回相談60分無料 ※ ご相談の内容によっては、有料となる場合もございます
弁護士との初回面談相談60分無料 ※ ご相談の内容によっては、有料となる場合もございます