リーガルエッセイ

公開 2023.09.22

他社で人権侵害が生じている場合、すぐに取引停止すべきなのか?

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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他社で人権侵害が起きたら直ちに取引停止をすることが求められているのか

ジャニーズ事務所における性加害問題をめぐり、ジャニーズ事務所所属タレントの起用方針を見直した企業の対応について議論されている報道を目にします。

他社の人権侵害事例を踏まえ、どう対応すべきかという点につき取り上げてみたいと思います。

まず、考える前提として参考にすべきガイドラインがあります。
経済産業省が「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」を設置して検討を重ねて策定された「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」です。
これは、国連指導原則、OECD多国籍企業行動指針及びILO多国籍企業宣言をはじめとする国際スタンダードを踏まえ、企業に求められる人権尊重の取組について、日本で事業活動を行う企業の実態に即して解説されているものです。

このガイドラインによれば、他社で人権侵害が生じているとき、取引停止は最後の手段として検討され、適切と考えられる場合に限って実施されるべきであると記載されています。
なぜなら、取引停止は、自社と「人権への負の影響」との関連性を解消するものではあるものの、負の影響を解消するものでもないし、取り巻く企業が取引を停止することにより、他社内で起きている負の影響への周囲の中止の目が行き届きにくくなったり、その企業の経営が悪化し、負の影響が深刻化する可能性があるためです。
では、どうすればいいのか、という点について、ガイドラインでは、「まずは、サプライヤー等との関係を維持しながら負の影響を防止・軽減するよう努めるべき」としています。

仮に、最終的には取引停止をすることが適切だと考えられる場合にも、たとえば、取引停止を検討するきっかけとなった「人権への負の影響」について自社が把握している情報を提供する、「~までに〇〇の対応がなされない場合には、~以降、取引を停止する」などと、予告期間を設け、また、取引停止を避け得る手段としてどのような対応をとることで負の影響解消に努めることができるかを議論の上、その解消措置の進捗を見守るなどという対応が考えられると思います。

ガイドラインには、取引停止に向けてとるべき動き方に関し、以下のような例が挙げられており、参考になると思います。

(例)サプライヤーが、技能実習生に技能実習に係る契約の不履行について違約金を定める契約の締結を強要したり、旅券(パスポート)を取り上げたりしている不適切な状況が確認されたことから、そのサプライヤーに対して事実の確認や改善報告を求めたが、十分な改善が認められなかったため、実習先変更や転籍支援を行う監理団体に対して連携・情報提供するとともに、そのサプライヤーからの今後の調達を行わないこととする。
(責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドラインp23より抜粋)

単に自社のみを切り離せば足るということではなく、関わった企業が、自社が認識した人権への負の影響を軽減するための積極的な行動をとることが求められているということだと思います。

そのように考えてきたとき、ジャニーズ事務所との取引を停止することを決めた企業において、取引停止を告げる前に、自社がいかなる点をもって人権への負の影響があると考えているのか、それに対し、いつまでにいかなる措置をとることが負の影響の解消、軽減につながると考えているのかなどということがどのように議論され、伝えられてきたのかという点は重要であると考えます。

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