リーガルエッセイ

公開 2023.09.26

あだ名が原因で転校。教員の「かわいがっているつもりだった」は通用するのか? 

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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「かわいがっているつもりだった」は通用するのか

先日、ある中学校で、教員が、男子生徒に対し、あだ名をつけて呼んだところ、男子生徒は、自分がクラスの笑い者になったと感じて精神的に追い込まれ、最終的に転校したという出来事が報じられていました。
市教育委員会や学校側は、保護者に対し、「悪気はなかった。かわいがっているつもりだったが申し訳なかった」と謝罪したなどと報じられています。

この報道を見て思い出したことがありました。
もう数十年前のことですが、私が小学生のころ、全校生徒が集まる朝礼で、読書感想文コンクールで受賞した私の名前が校長先生により呼ばれたのですが、その際、「麻理」という名前が「あさり」と呼ばれたのです。
それを聴いた生徒たちは、私のクラスの子たちを中心に大笑い。
というのも、当時、「あさりちゃん」という漫画が流行っていて、そのあさりちゃんは、こう言ってはなんですが、とてもガサツで、いつもちょっと下品で突拍子もないことをやらかしてしまってはお母さんやお姉さんに怒られてしまう、そんな女の子だったんです。
私が、「あさり」と呼ばれたことで、漫画のあさりちゃんと結び付けられ、「そういえば、こいつ、あさりちゃんみたいだな」などと笑われる始末。
その後、クラスに戻っても、「なあ、あさり…あ!まちがった!」などと言われてからかわれたり、先生にまで「あさりさん」と呼ばれたりして、しばらくは、クラスで「あさりちゃん」というあだ名で呼ばれることになりました。
きっかけとなった校長先生の名前の読み間違いを心底うらみました。
とにかく恥ずかしくて仕方なくて、万一、また朝礼で名前を呼び間違えられたら恐ろしいと思い、その後、しばらくは、朝礼の時間になるとお腹が痛くなって、保健室で横にならせてもらうこともあった…そんな大昔の思い出がよみがえってきたのです。
(なお、私自身が徐々にそのあだ名に慣れ、「なあ、あさり」と呼ばれたのに対し、「せめてちゃん付で『あさりちゃん』って呼べ」と返したりするようになったので、全く深刻なものではなかったことも併せて思い出しました)

この報道を見たとき、もしかしたら、「あだ名くらい…」と思うかもしれません。
「あだ名は、親しみの気持ちがあるからこそ付けられるわけで、気にする必要もないだろう」などと思うかもしれません。
でも、「かわいがっているつもりだった」は通用しないと思います。

あだ名の内容によって、また、そのあだ名を呼ばれた側がどう受け止めるかによって、あだ名で呼ぶこと自体が相手にとって大きな傷になることもあります。

いじめ防止対策推進法で、いじめとは、「児童等に対して、当該児童等が罪責する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう」と定義づけられています。
そして、「いじめの防止等のための基本的な方針」では、個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は、表面的・形式的にすることなく、いじめられた児童生徒の立場に立つことが必要であり、いじめには、多様な態様があることに鑑み、法の対象となるいじめに該当するか否かを判断するに当たり、「心身の苦痛を感じているもの」という要件が限定して解釈されることのないよう努めることが必要とされています。

このように、対象となった子側の心身の苦痛を基準にいじめ該当性を判断することになる以上、あだ名で呼ぶことが、いじめに該当するという場合もあり得ます。
あだ名で呼ぶ側が「そんなつもりじゃなかった」としてもです。

教員の場合は、いじめの定義からして、それがいじめ防止対策推進法でいういじめには該当しませんが、個別事情によっては、生徒を当該あだ名で呼ぶ行為が不法行為と評価されることもあり得るといえるでしょう。

そもそも、それが法的に不法行為と評価されるかどうかというところはおくとしても、教員が生徒をあだ名で呼ぶことに関しては、生徒同士であだ名を呼ぶという以上の慎重な配慮が必要だと思います。

小中学校で、生徒にとって、教員はちょっと特別な存在であることが多いように感じます。
「先生がお話しすること」のもつ影響力の大きさを、教員側が自覚する必要があると思います。
あだ名で呼ばれた生徒の立場からすると、そのことを先生が言ったということが重くのしかかることもあるかもしれませんし、また、他の生徒たちも、そのあだ名をつけたのが先生であること自体をおもしろがったり、影響力をもってあだ名が拡散したりすることもあるかもしれません。

そして、このことは、必ずしも学校生活に限った話ではないと思っています。
職場においても、こちらとしては距離の近さ、親愛の情を示すものとして呼んでいるあだ名について、相手はどう受け止めているのだろうか…その想像力や配慮はとても大切なものだと感じます。

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