リーガルエッセイ

公開 2023.09.28 更新 2023.11.20

「私人逮捕」について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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SNSでよく見る私人逮捕ってなに?

先日、SNSを見ていたら、トレンドワードに「私人逮捕」とあったので、何事かと確認したら、ある人が、アイドル関連チケットを不正転売していた女性を私人逮捕した旨のメッセージとともに、車に乗り込もうとする女性の肩や手をつかんだり何やら大声で怒鳴ったりしている様子の動画が投稿されていました。

その投稿にはいろいろなコメントが寄せられていましたが、「私人による逮捕なんて認められないだろう」というものも。

今回は、私人逮捕を取り上げてみたいと思います。

まず、逮捕にはいろいろな種類があるのですが、通常逮捕というのが、裁判官による令状をとって行うものです。
そして、この通常逮捕ができる人は、検察官、検察事務官、司法警察職員に限られています。
だから、それ以外の人が、裁判官に「あの人が犯罪を犯した疑いがあるから、令状を出してください」などとお願いして人を逮捕することなどできません。

逮捕の中には、このような通常逮捕以外に、現行犯逮捕というものがあります。
法律では、「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者」を現行犯人と呼びます。
また、法律では、一定の場合(ある人が犯人として追跡等されている場合や身体等に犯罪の顕著な痕跡がある場合など)に、状況的に、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるときも、現行犯人とみなすことになっています。
このような現行犯人については、「何人でも」逮捕状なくして逮捕することができますよ、と法律が明記しています。
つまり、法律で定める現行犯人に該当するなら、検察官、検察事務官、司法警察職員以外の人であっても、逮捕することができるということ。
これが私人逮捕というものです。

私人逮捕を考えるときに気を付けるポイントが2つあると思います。

1つ目は、私人逮捕といえるためには、一定の条件があるということ。
私人逮捕ができるのは、現行犯逮捕のケースですが、現行犯逮捕といえるかどうかという点は評価を伴います。
「現に犯行を行い」とか「現に罪を行い終わった」とか、それ自体から、明確にこういう場合であるとイメージすることって難しいですよね?
果たして、ある人が犯人として追呼されているというケースとは、具体的にどういうケースなのか?ということもいまいちよくわからないと思いませんか?
(そもそも、「追呼」なんて言葉、日常的に使わない!少なくとも私はかつて一度も使ったことがありません!)
これが現行犯逮捕に該当するのか?ということに一定の評価が必要になるということは、つまり、私が、「これは現行犯逮捕だ」と思って、法律で認められた私人逮捕をしたつもりでも、実は客観的には私人逮捕の要件を満たさないということもあり得るということです。

2つ目は、私人逮捕だと思ってやったことそれ自体が犯罪と評価されてしまうリスクもあるということ。
過去の裁判例で、現行犯逮捕をしようとする場合に、現行犯人から抵抗を受けたときは、逮捕をしようとする者は、警察官であると私人であると問わず、その際の状況から見て社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力を行使することが許され、たとえその実力の行使が刑罰法令に触れることがあるとしても、刑法35条により罰せられないと説明するものがあります。
刑法35条というのは、法令や正当な業務による行為は罰しないというもの。
つまり、私人逮捕にあたり、逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の行為については、それが、相手の身体をつかむなどの通常暴行罪に該当するような行為であっても、法令又は正当な業務による行為として暴行罪などに触れないものの、その行為が、逮捕のために必要かつ相当な範囲にとどまらないと評価される場合は、暴行罪等の刑罰法令に触れ、別途犯罪が成立し得るということです。

この観点から、SNSで見た「私人逮捕」をどう評価できるか?
私は、この動画だけでは、そもそも、女性が、「現行犯人」といえるのか?そして、投稿者の行為が現行犯逮捕と評価できるのかの判断ができません。
どのような事実をもとに「私人逮捕」と言っている行為に及んだのか、この動画だけからはわからなかったからです。

また、動画だけからは具体的に女性がどのような行動に出て、それに対し、投稿者がどのような行為に及んだのか、明確にはわかりませんが、仮に、女性が現行犯人と評価できるという前提に立ったとしても、その体の一部をつかむなどの行為が、逮捕のために必要かつ相当な範囲を超えていると評価される可能性は十分にあります。

その場合は、暴行罪、逮捕罪などに該当する可能性があります。
たしかに、捜査機関による逮捕を待つ猶予のない事態はあり得ます。
私人逮捕というものが、一定の条件のもとで法律で認められていることも事実。
ただ、私人逮捕と認められるか、そして、その逮捕行為が法令または正当な業務の範囲内であると評価されるについては、必ずしも一義的に明確なわけではなく、評価を伴い、ときに判断が難しいものであることについては認識する必要があると思います。

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