リーガルエッセイ

公開 2023.10.12

埼玉県議会、子ども放置は虐待という条例案について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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子ども放置は虐待であるという条例案について

先日、埼玉県議会に提出されたある条例改正案が福祉保健医療委員会で可決され、本会議で成立見込みである旨報じられました。
もっとも、その後その条例案については多くの批判を受け、取り下げになったとも報じられています。

報道によれば、いったん可決された条例案については、具体的には、保護者などに対し、子どもを自宅などに残したまま外出したり放置したりすることを児童虐待と位置付けて禁止することとし、小学3年生以下の子どもについてはこの放置の禁止を義務付け、小学4年生から6年生までについては努力義務としていたとのこと。
虐待の通報義務も新設されたと報じられています。

この改正案、そもそもは、子どもが放置されたことによるいたましい事件が起きたことをきっかけとしているようです。

この条例案の内容については、SNS上でも、反対意見が多く寄せられています。

子どもだけでの登下校や留守番などを虐待と認めるのは現実的ではないのではないか。

留守番などは、学童保育にも入所できず、シッターサービスを利用する経済的余裕もない現状で、やむを得ずにしていること。では、いったいどうすればいいのか?

私も同じような疑問をもちます。

放置をせずにすむために、具体的場面で、保護者は、どう行動すればいいのか?という現実的な答えを示さずして、放置は虐待だと指摘することは、ただただ保護者を追い詰めることにつながり、本来の目的である、いたましい事件の発生抑止にはつながらないように思います。

この点、「現実的な答えを示す」ということが重要で、抽象的に「保育施設や学童に入れない子どもたちをなくすための対策を講じる」と言ったところで、保護者がとるべき現実的な答えを示したことにはならないと思うのです。

たとえば、学童に入所していたとしても、子どもが、学校で少し嫌な気持ちになることがあって、放課後、学校の敷地内にある学童で時間を過ごしたくない、一刻も早く家に帰り、安心空間の中でほっと一息つきたいという気持ちでいっぱいになることがあります。
親としては、「大丈夫、帰っておいで」と言いたい。
でも、子どもが帰宅したとしても、自分はすぐに仕事を切り上げて自宅で子どもと一緒にいてあげられるわけではない。
子どもをひとりで留守番させることになる。
それは虐待になるから、親としては「やっぱりどんな理由があっても、ちゃんと学童に行きなさい」と伝える選択をしなければならないか。
いや、そもそも、そうやって、子どもが帰りたいと言ったときに、自宅で迎えてあげられない自分は、子どもを大事にできていないのか。
私だったら、そんな結論に達し、苦しい思いに押しつぶされてしまいそうな気がします。

シッターサービスを手軽に利用…というけれど、そのようなサービスを利用するためには、サービス利用のための入会手続きとして、住所登録、連絡先登録、子どもに関する情報登録、利用した場合の料金引き落としのための口座情報登録…そんな山のような手続きがあって、さらに、「今すぐ子どもを少し家に置いて自分が外に出なければならない」という事態に直面したとき、外出準備と併せ、利用可能シッターの方を探し、子どもに関する引き継ぎをし…などという対応をしている時間的猶予などないことがほとんどであるということなども認識されているのでしょうか。

こういう具体的な場面でどうしたらよいのだろうか、という保護者の疑問に答えることができていないとしたら、保護者をただただ不安に陥れ、気持ちを追い詰めるルールというものが、果たして、子どもをいたましい事件から守るという目的に適合しているのかと疑問に思います。
そもそも、なくさなければいけないいたましい事件は、どのような背景のもとで起きているのかというもう少し根本的なところを見ていかなければならないはず。

「子どもを放置する」ということについて、その危険性の認識をもつ必要があるということは事実なのだと思います。
直接的な暴行等と違い、子どもを放置することについては、「仕方ないじゃないか」と正当化する気持ちが働きやすく、その放置の状態がエスカレートした場合、子どもたちを危険な目に遭わせることは間違いない。
また、現実的に、子どもをひとりで留守番させなければならない時間が生じるとなった場合、どうしたら、その時間を短くできるか、たとえば、各地域で、急な事態に、ここに子どもを連れて行けば、少しの間、安全な環境で子どもを見守ってもらえる場所を作るとか、やむを得ずひとりにさせてしまう時間ができてしまうとして、どうしたら子どもを危険から守れるか、たとえば、子どもが手にしたときに危険なものを子どもが手に届く範囲から排除することとか、その間、訪問者があった際の対応について子どもとしっかり話し合っておくこととか、不安なことがあった際に、すぐに連絡すべき先はどこであるということを子どもに伝えておくこととか…そういったことからスタートされる必要があるのではないか、などと思います。

私の中でも結論の出ないところですが、他の地域での無関係な出来事…としてでなく、子どもにとっても親にとっても安全で安心できる環境を整えるということについて、自分なりに考えてみたいと思わされる報道でした。

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