リーガルエッセイ

公開 2023.10.17

弁護士の「勝ち」とは? ドラマ「うちの弁護士は手がかかる」第1話

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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「うちの弁護士は手がかかる」第1話~「勝ち」とは?など~

ムロツヨシさん、ちょっと苦手意識があったんです。
テレビにムロツヨシさんが出てくると、無意識にパッとチャンネルを変えてしまうレベルで。
どうしてなのかなと考えたことがあったのですが、あのそつのなさというか、相手がだれであってもするっとその懐に入り込んでしまう器用さというか、裏で緻密なキャラ設定をして、その設定どおりに完璧に演じている様子というか、そんなところが鼻につくなと思っていたように思います。
だから、ムロツヨシさんの出るドラマを見たことは一度もなかった。
今回も、タイトルに「弁護士」となければ、絶対に見なかったと思うのです。
でも、弁護士ドラマと聞くとやはりちょっと気になってしまい、しぶしぶ見たのですが、ムロツヨシさん、というより、ムロツヨシさんが演じる主人公にすっかり心つかまれてしまいました。
仕事の間、この主人公のような人が、いつも私のことだけを考えていつも私の横にいてくれたら、自分の仕事がどれだけ広げられるだろうか、なによりどれだけ精神的に救われるだろうかと思ってしまいました。
脈絡もなく、大好きな映画「マイ・インターン」でロバート・デ・ニーロ演じるベンを思い出しました。
このドラマを見たときの私自身の心の動きを感じたとき、なぜ私がこんなにも「マイ・インターン」に執着し、大好きで、定期的に見直してしまうのかという理由がわかったようにも思いました。
第1話を見て、なによりも強く私の心に残った気づきが、「私は、こんな、働く上でのパートナーという存在をこんなにも強く必要としていて、求めていたんだ」ということ。
その思いの強さに衝撃を受けたので、長々とした前置きとなってしまいました。

正直、この気づきを単なる気づきで終わらせず、私が私のためにどうやってその思いに応えようか…ということで頭がいっぱいになってしまい、第1話のストーリーにまで頭が回らないのですが、3つだけ、取り上げてみたいと思います。

1つ目は、本当にちょっとしたことなのですが、証人尋問時のスタイルについて。
ドラマの中では、証言台に証人が立ち、弁護士がいすに座ったまま尋問していました。
私自身は、この逆のスタイルしか経験したことがありません。
つまり、弁護士である私が立ち、証人は、裁判官に促され、証言台にあるいすを引いてそのいすに座るというスタイル。
短時間の尋問であるときに、証人が立ったまま証言をしたこともあったように記憶していますが、基本的には、裁判官に促され、いすに座ることが多いように思います。

2つ目は、パワハラの認定基準について。
ドラマの中では、パワハラか否か判断するにあたっては、それが業務上適正な範囲の叱責といえるかどうかという基準が適用されるとして、たとえば、大声で「あんた!なんでこんなこともできないのよ!」と怒鳴った場合は、適正な範囲の叱責としてパワハラにあたらないものの、優しげな声で、相手の体形につき侮辱するような言い方で「自己管理ができていないのよね」と言うことは人格非難としてパワハラにあたるというような説明がされていました。
たしかに、後者は、そのとおりかと。
でも、前者については、これがパワハラにならないと断言することはできないと思います。
大声で相手の意思を制圧するような口調は、相手に強度のストレスになるでしょうし、「なんでこんなこともできないのか」という叱責は、相手が行った業務のどこに問題があると考えての指摘なのか明らかになっておらず、相手にとっても、どこをどう改善していけばいいか認識する手掛かりにもならないものといえ、こんな叱責が業務上適正なものといえるのかどうかは甚だ疑問です。
そもそも、前後の状況、当事者の関係性、これまでにどのような指導が行われてきたか、当該業務の性質等いろいろな要素による判断となるため、一概に、「ここからがパワハラ」とわかりやすい線引きをすることは難しいはず。
このドラマの一部だけを見て、「なるほど、こういう叱責の仕方はパワハラにあたらないんだ」と認識することは危険です。

3つ目は「勝ち」という言葉について。
この点は、今後のドラマの中でも焦点になりそうな予感がします。
「勝ち」にこだわる弁護士に対して、ムロツヨシさんが物申す場面がありましたが、弁護士として、「勝ち」にこだわるのは当然として、要は、何をもって「勝ち」と考えるかということなのかなと思います。
訴訟で勝訴判決をもらうことだけを「勝ち」と考えるのか。
訴訟にならず、交渉で勝負を決めることができたことを「勝ち」と考えるのか。
交渉、調停、和解の場で、勝訴よりの合意ができたことをもって「勝ち」と考えるのか。
クライアントが「最善の方法で解決できた」と振り返れる状態になったことをもって「勝ち」と考えるのか。
いろいろな考え方があると思うのです。
そして、何をもって「勝ち」なのかは、案件によっても、クライアントの考え方によってももちろん都度違うはず。
私自身、自分の中に、無意識の「勝ち」の定義やそこへのこだわりが潜んでいないか、自分のひとりよがりな思いやこだわりが、クライアントにとっての「勝ち」とギャップを生じていないか、ということは都度細やかにチェックしていかなければいけないなと思っています。
今後、この点について、どんな展開があるのか楽しみです。

ただ、やっぱり気になるのは、刑事ドラマ鉄板ネタがここでも繰り広げられていること。

  • 街で偶然接触のあった二人→凸凹バディ爆誕パターン
  • 相棒のふと出た一言が、その後の展開にとってキーになる
  • わざと相手を挑発し、相手にぼろを出させ、それを録音ないし同時放映するなどして決定的な胸スカ勝利に導く

ここらへんが第1話から惜しみなく安定して繰り広げられているこのドラマ。
第2話以降も楽しみです。

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