リーガルエッセイ

公開 2023.10.19

「ティッシュが間に合わなかった」という故意否定について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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「ティッシュが間に合わなかった」の法的意味

先日、2年前の事件に関し、男性が器物損壊罪の被疑事実で逮捕されたと報じられました。
報道によると、男性は、今年7月、駅で女性の下半身を触ったとして迷惑防止条例違反の被疑事実で現行犯逮捕されたようなのですが、その際、2年前の事件への関与が浮上したとのこと。
2年前の事件というのは、朝の通勤通学ラッシュの電車内で、女子学生のスカートに体液をかけてスカートを汚したというものと報じられています。
この報道を見る限りでは、2年前、スカートに体液をかけられる被害に遭った女子学生が、当時、被害申告をしており、その際、スカートに付着した体液から検出されたDNAが、このたび迷惑防止条例違反の被疑事実で逮捕された男性のそれと合致したという経緯で2年前の事件が浮上したと思われます。
この件、器物損壊の被疑事実で逮捕された男性が「ティッシュやハンカチが間に合わなかったため体液がこぼれてしまったのではないかと思う」と供述している旨報じられており、この点を報じたニュースに対しては、SNSなどで「いや、そういう問題では…」「弁解するのはそこなのか?」などというコメントが寄せられているようです。
たしかに、そのような感想をもつのはもっとも。
ただ、その男性の供述は、報じられているとおりなのだとすれば、法的に一定の意味をもつことになります。
それは、器物損壊罪に関し、故意を否認するという意味です。
器物損壊罪は、過失犯処罰規定がありません。
ですから、わざと犯行に及ぶ必要があります(わざとでなかったとしても、結果発生の可能性を認識しつつ、あえてそうなっても構わないという意思で犯行に及ぶ場合も故意があったものと認められます)。
「本来は、ティッシュ等で体液を受け止めるつもりであり、外部にとばすことなど全く考えてもいなかった」という供述は、器物損壊の故意の否定を意味します。
 
では、このように故意を否定すれば犯罪が成立しないのか。
必ずしもそうとはいえません。
まず、その供述が信用できるのか、というところを客観的事実関係から評価することになると思います。
その評価にあたっては、電車の混雑状況、周囲の人との距離関係、体液をとばした際の行為態様などが考慮されるでしょう。
また、仮に、器物損壊罪が成立しないと評価されたとしても、迷惑防止条例違反の罪が成立するとして処分されることもあり得ます。
迷惑防止条例には、「人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること」を禁じ、これに反した場合の罰則も規定されています。
男性がどのような行為に及んだかによっては、それ自体が「卑わいな言動」と評価され、迷惑防止条例違反の罪で処分される可能性もあると思います。

そういえば、先日、新たに製造される鉄道車両内に防犯カメラの設置を義務付ける省令が施行されたと報じられました。
電車内での事件は、被害に遭われたかたにとって、電車に乗ること自体が恐怖となってしまうことも。
防犯カメラの設置が卑劣な犯行の抑止力になってほしいと思います。

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