リーガルエッセイ

公開 2024.03.08

「頭ポンポン」はセクハラになるのか

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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「頭ポンポン」とセクハラについて

先日、町長だった男性について、第三者調査委員会が、女性職員に対する99件のセクハラ行為を認定したと報じられました。
その調査報告の中で、元町長の行為として「頭をポンポンと触る」行為が回数として多く見受けられたこと、またその行為が職場環境に重大な支障を与えていたとしてセクハラに当たることが認定されています。

この件に関する報道を見たかたからは、「たしかに頭ポンポンは不快だ」というものから「頭ポンポンがセクハラになるのか?」というものまで、いろいろなコメントが発信されているように見えます。

「頭ポンポン」に関しては、個人的にとても他人事とは考えられない問題だと思っています。
もう10年以上昔のことになりますが、弁護士になったばかりのころ、他業種のかたがたと飲食する機会がありました。
お酒も入った席でした。
何人かで集まって、「今、何に一番興味があるか」というような話題で盛り上がっていたときのことです。
「ゴルフかなあ」とか「今、自己啓発本にはまっていて」とかいう話が繰り広げられる中、ある男性が、「私は、高橋さんに心を許してもらうために、頭をいつポンポンするかというタイミングをいつにすべきか、ということに興味がある。タイミングを常に見計らってます」と言ったのです。
そのかたは、初対面ではなく、これまで仕事で関わることもあったのですが、ネガティブな印象など全くないかたでした。
むしろ、安心してコミュニケーションをとれるかただと感じていました。
でも、その発言を聴いたとき、ぞっと寒気がしてしまいました。
その場にいたみんなが「お前はあほか」などと言う中、私は、真顔で「そのタイミングは一生こないです。本気でやめてほしいです」と言ってしまいました。
すると、その男性が、心底驚いたような顔になり、「え?女性って頭ポンポンされるのが好きってよくいわれているから、てっきり、そうすれば、もっと距離感を縮めることができると思っていました」と言うので、私は、「他のかたがどう思っているかは知りません。私自身ということでいえば、お相手と状況によって、頭をポンポンされたことをうれしく感じることがあるかもしれません。でも、今、〇〇さんがおっしゃった言葉を聴いて、とてもいやな気分でした。だからやめてください」と伝えました。

私は、ふだんから、空気を読まずにはっきりものを言ってしまう傾向があり、また、周囲にいたかたがたはそんな私の未熟さを認識くださっていたかたがただったので、みなさん「もうちょっと別の言い方があるだろうに」と思われていたであろう中、「たしかに、その行為ってちょっと誤解して捉えられていることがあるかもね」などという話になりました。
そのお相手も、「いやあ、全然悪気なかったので驚いたけど、ごめんなさい。全然わかってませんでした」とおっしゃり、私も、「二度と頭ポンポンのタイミングを見計らわないでくださいね」とにっこりして、その話題は終わりました。

でも、私は、根に持つタイプなので、私の中では、そのお相手がそんなことを言ったという事実は消えず、その後、そのかたと話をする際には、必要以上に気を張ってしまい、仕事の話をするのも憂鬱だなという気持ちになってしまいました。

私の中で印象的だったのは、このときのお相手が、心底「女性は、頭ポンポンされるのが好き」でそのような行動に出れば、女性と自分との距離感がぐっと縮まるのだと信じている様子だったことでした。

このケースの場合、私は、お相手の男性と職場は違いましたし、仕事でどうしても関係をもつ必要があるようなかたでもなかったので、距離を置くことは容易でした。
ですので、幸い、仕事への影響は全くありませんでした。
でも、これが、職場での出来事だったら、私自身、そのかたと関わる仕事に苦痛を感じてしまっていたかもしれないなと思います。

職場におけるセクハラには、職場で行われる性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件について不利益を受けるという類型のもの(対価型セクシュアルハラスメント)と性的な言動により労働者の就業環境が害される類型のもの(環境型セクシュアルハラスメント)があります。

ここにいう「性的な言動」のうち、性的な行動には、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触ること、わいせつな図画を配布することなどが含まれるとされています。

「労働者の就業環境が害される」とは、どういう状態を指すのかも少しわかりにくいですよね。
一般的には、労働者の意に反する性的な言動で、労働者の就業環境が不快なものとなったために、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、労働者が集合する上で見過ごすことができない程度の支障が生じるに至った状態を指します。
このような状態か否かの評価は、いろいろな要素によって変わってくると思いますが、厚労省が示している典型的な例としては、事務所内で、上司が労働者の腰、胸などにたびたび触ったために労働者が苦痛に感じて就業意欲が低下していることなどが挙げられているようです。

いわゆる「頭をポンポン」という行為とは少し違うのかもしれませんが、裁判例の中には、職場において、男性が、帰宅を促す形で、女性の頭に2回ほど軽く触ったという行為に関して、結論として女性の人格権を侵害した違法なセクハラ行為に当たると認めたものがあります。
この認定の過程では、必要もなく身体的な接触をする行為は、相手に性的不快感を抱かせ得るものであること、従業員に退社を促す際、身体に接触する必要は全くないといえること、女性が男性より20歳ほど年下で、かつ、男性は女性にとって直属ではないものの上司に当たる立場であったこと、上司と部下という関係以上に、両名の間に個人的に親密な関係がなかったことなどという要素を踏まえ、そのような前提のもとでは複数回にわたって頭に軽く触るという行為によって女性が性的不快感を抱いたことはうなずけることだという旨の評価がされているようです。

また、別の裁判例において、相手の頭をなでるという行為に関し、たとえその回数が1回であったとしても、職場における不適切な行為としてセクハラに当たり得るという評価に触れたものもあります。

こういった裁判例やこのたびの報道を見て、「頭ポンポン」はNGなんだな、で終わらせてしまうことは、セクハラというものの捉え方が表面的になり過ぎてしまっていると思えます。
不必要な身体的接触がNGという最低限の知識は抑えた上で、自分と相手との関係性や、相手が自分の言動をどう感じるかということについて、自分が勝手な思い込みでとんでもない見誤りをしているかもしれないという認識をもつことは必要だと思います。

そして、なんだか被害者面して、10年以上前の出来事をあれこれ書いてしまいましたが、そんな私自身も、人と接するときに、「相手はどう受け止めるかな」の想像力を働かせるよう気を付けているつもりでも、その想像力は、所詮、私自身の立場からのそれであって、必ずしも、正しく想像が働いていないことが多々あるのだということを肝に銘じないと、やはり勝手な思い込みで加害者になり得るのだと感じています。

これって、セクハラの問題に限らず、パワーハラスメントや今社会的に注目を集めている性加害問題においても共通する視点なのではないかと思います。
男女雇用機会均等法には、事業主が、職場におけるセクハラを防止するために、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない旨が明確に定められています。

具体的には、トップが、セクハラに対する社内の厳しい方針を明確にしたり、社内での周知、啓発をすることなどが求められます。

このたびの報道を見て、「どこかの町長が、独自の感覚をもっていたために起きた驚くべきこと」として受け止めるのでなく、自社でも起き得ることとして受け止め、その予防のために自分がすべきこと、会社全体として予防するための体制づくりについて検討する必要性を認識することが重要だと思います。
内部通報窓口の機能向上、セクハラ等ハラスメント研修の実施等弁護士においてお力になれることがありますので、ぜひお気軽にご連絡ください。

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