リーガルエッセイ

公開 2024.03.13

「ギフトコンプライアンス」について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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贈答、接待饗応をめぐるコンプライアンス

私が検察官になってすぐに指導されたのが、国家公務員として贈答、接待饗応を受けることのリスクについてでした。
刑法上の収賄罪については勉強してきたものの、それ以外については無知だった私は、国家公務員には、国家公務員倫理規程というルールがあり、利害関係者から贈答、接待饗応を受けることが固く禁じられているということを頭に叩き込まれました。
当初、検察官が贈答など受ける機会なんてないのではないかと思っていましたが、意外にもありました。
検察庁に被害者のかたを呼び、話を聴く機会は多くありましたが、そのような際に、被害者のかたが「私が申告した被害について調べていただいてありがとうございます」などと仰って、お菓子などをもってきてくださることがあるのです。
その場合は、お気持ちだけとてもありがたくいただき、ルールによっていただくことができないということを丁寧に説明していました。
お持ちいただいたものが、保管できるものだとまだいいのです。
受け取りをお断りしても、その後、どなたかへの贈答の際再利用することができるのではないかとか、ご自身で少しずつ召し上がっていただくとかできるのではないかと思えるからです。
でも、保管がきかないものだと、本当に心苦しくなっていました。
当事者の方がお持ちくださるものとして意外に多かったのがシュークリームやケーキなどの生菓子。
殺伐とした取調べの毎日。
食事もまともにとれないことが多い中で、とてもおいしそうな生菓子を見ると、喉から手が出るほど食べたい欲求にかられますし、なにより、たくさんお持ちいただいた生菓子をお持ち帰りいただくことは、「もしかして無駄になってしまうのではないか」という思いもあり、本当に心苦しいものでした。
それでも毅然とお断りをしなくてはいけなかったのです。
「ルールがあります。そして、私も、未熟な人間なので、皆さまからいただくご厚意により、仕事のどこかに甘さが出てしまい、最終的に、事実を見る目が曇るといけないので、大変申し訳ありませんがいただくことはできません」と趣旨も含めてお伝えしていました。

公務員に対する贈答、接待饗応の問題って、受け取る側の公務員と、あとは、仕事の上で有利な取扱いをしてもらおうと下心をもって公務員に賄賂を差し出す企業独自の問題、と受け止められがちであるように思います。
「うちは官公庁と関わる仕事なんてないから、汚職なんて、うちには無縁の問題」とお考えの会社もあるのではないかと思います。
でも、そのような意識でいるととても危険。
贈収賄が問題になり得る公務員って、当たり前の話ですが「私は、公務員の〇〇です」って現れるわけではありません。
とはいっても、この人は国会議員の〇〇さん、あの人は市議会議員の〇〇さん、と言われれば、「この人たちは公務員だから、贈収賄には神経質にならなくちゃ」とわかりやすいと思うのです。
問題は、「いかにも公務員」というわけではない人たち。
「みなし公務員」という存在をご存じでしょうか?
たとえば、国立大学法人法にはこんな条文があります。
「国立大学法人の役員及び職員は、刑法その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。」
国公立大学の教授や準教授などに対して賄賂を受け取らせた場合、刑法上贈賄罪が成立する可能性があるということです。
この点、民間会社が、自社製品の開発研究に関して、専門家である国立大学教授と個人契約を結び、技術指導を受けて技術指導料を支払ったことに関し、この技術指導料が賄賂に当たるのではないかということが争点となり、民間会社で技術指導料の支払いを決裁する立場にあった人への贈賄罪の成否が問題となった裁判がありました(一審では有罪判決が言い渡されましたが、控訴審では無罪判決が言い渡されました)。

また、このように、「公務員とみなす」という趣旨の条文がなくても、法令で特別に贈賄罪が定められている例もあります。
たとえば、「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律」という長い名前の法律があります。
これは、いわゆる「JR会社法」と呼ばれる法律で、改正を経て、今は、北海道旅客鉄道株式会社、四国旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社が適用対象となっている法律です。
この法律には、「会社の取締役、執行役、会計参与、監査役又は職員が、その職務に関して、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、3年以下の懲役に処する。」とした上で「(その)賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。」とする条文があります。
ですから、日本貨物鉄道株式会社の役員などに賄賂を受け取らせれば、JR会社法の贈賄罪が成立するのです。

このように、たとえ、相手がわかりやすい公務員という立場でなくても、いろいろな法令で、公務員とみなされる人がいたり、公務員としてみなされる立場ではないものの、その人に対して贈答、接待饗応を行うことが個別法令で贈賄罪となることが定められていたりすることがある。
この意識に欠けていると、思いがけず法令違反その他重要なコンプライアンス上の問題を招くことになりかねません。

取引をしたり、その前提で関係性を構築するにあたっては、前提として相手方の属性というものを確認すると思います。
その際、思いがけず贈賄者としての立場に立ってしまうことがあり得るのだという視点をもち、個別法令のチェック等確認をすることも重要です。

では、相手が公務員や公務員とみなされるような立場の人でなければ、贈答、接待饗応に問題はないのか。
民間企業等に対する贈答、接待饗応についてもまたの機会に考えてみたいと思います。

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