リーガルエッセイ

公開 2024.03.15

「クソ野郎」は名誉棄損にならないのか

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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「クソ野郎」について

先日、ある衆院議員のかたが、元記者の方に関し、SNSで「クソ野郎」などと投稿した件に関し、この元記者の方が名誉を傷つけられたとして損害賠償請求を起こしていた裁判の高裁判決が言い渡されたと報じられました。
1審は名誉棄損が成立するとして22万円の支払を命じる判決だったというところ、高裁は、1審判決を取り消し、元記者の方の請求を棄却したとのこと。

私は、1審判決も、高裁の判決も確認できていないので、具体的なコメントをすることは難しいのですが、一つだけ気になったことがあったので、この話題を取り上げてみたいと思います。

それは、このニュースを報じるネットニュースに対するコメントの中に「『クソ野郎』と投稿することについて、裁判所がお墨付きをくれた!これからどんどん使っていこう!」などというものがあったこと。

冗談だとは思うのです。

でも、私は、冗談が全く通じない人間なので、大真面目にとりあげてみたいと思います。

結論として言いたいのは、投稿の中で「クソ野郎」と表現することが常に名誉毀損にならないというものではないということ。

このたびの判断は、ある最高裁の判断と同じ枠組みでなされたものと考えます。

その最高裁の判断というのは、ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、その意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、その行為は違法性を欠くものというべき、というもの。

ですから、事案により、論評が公共の利害に関する事実に係ること、論評の目的が専ら公益を図るものであること、その前提としている事実が重要な部分において真実であることの証明があるか、または、真実と信じるについて相当の理由があること、という要件を満たさないと評価されれば、名誉毀損が成立する可能性があります。

また、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものであるか否かという評価については、わかりやすい線引きがあるわけではなく、その評価は個別事情に基づく総合的なものになるはずです。
判断要素として、その表現の内容自体は当然として、たとえば、表現者側の事情として、どの程度執ようだったかという点などが考慮され得ますし、対象者側の事情として、対象者の社会的立場、対象者が、その表現行為前にどのような行為に及んだかなどというものが考えられます。

こういったいろいろな検討を踏まえ、このたび報じられたケースでは、「クソ野郎」を含む投稿が名誉毀損とはいえない旨の評価がされたというもの。

「クソ野郎」という単語が独り歩きして、「『クソ野郎』は法的にセーフなんだ!」と捉えるのは問題です。
名誉毀損には当たらないとしても、名誉感情の侵害、侮辱といった意味での不法行為に該当することもあり得ます。
今回の報道を見て、一部だけ切り取って理解したつもりになってしまうのは少々危険、という話をしてみました。

最後に全然関係ない話。
ちなみに、私は、他人に対して「クソ」などと言うことはありません。
でも、ここだけの話、どうにも感情が高ぶってしまったときに、今、部屋に自分しかおらず、だれの耳にも聞こえないことを確認した上で「クソむかつく」などと吐き捨ててしまうことがあります。
たいてい、自分の不始末で、せっかく入力したデータが保存されないままどこかに消えてしまったようなときにやってしまいます。
そんな言葉を言うことで、一瞬スカッとする気がするのです。
「言ってやった」みたいな気分になるんです。
でも、直後に、耳に残ったその言葉が自分の中にこだましてしまい、後味の悪い思いになります。
本題とは全然関係ない話なんですが、自分が耳にして気持ちの良い言葉を遣っていきたいなとふと思いました。

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