リーガルエッセイ
公開 2024.08.21

「私はこういうことができます」と周囲に伝える大切さについて

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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「私はこんなことができます」と伝えることの大切さに気付いた話

私は、ある経営者交流会に所属しています。
そこに所属するメンバーは、月1回集まって経営に関する勉強をしたり、その後開催される懇親会に参加したり、地元のお祭りにお店を出すなど有志でいろいろなイベントを企画したりしています。
参加は任意ですし、メンバーの皆さんが本当に温かい人たちなので、人との交流があまり得意でない私も、たまに勉強会や懇親会などに参加しています。

ここ1か月くらいの間に、たまたまこの経営者交流会に所属するメンバーのうち3人から、それぞれ別の機会に連絡をもらいました。
それぞれ、法的トラブルに直面しており、アドバイスをもらえないだろうかというのです。
もちろん、話を聴いて、私にできるアドバイスをさせてもらいました。
今回取り上げたいと思ったのは、その際、3人が全員同じことを言ったということなのです。
3人が3人とも、私に連絡してきて、最初に言った言葉がありました。
それは、「麻理さんに相談していいのかどうかわからなかったのだけど、もし見当違いだったら言ってください」「相談するのに、費用はどれくらいかかるものなのでしょうか」ということ。
思い返すと、今回、たまたま立て続けに3人から相談を受けたために特に気になっただけで、これまでにも、個人的な知り合いから相談されるときには、このような前置きがあったように思います。

私は、この3人の話を聴いて、これまでの自分の在り方を少し反省しました。
私は、所属する経営者交流会で、メンバーの皆さんに自分が弁護士であることについては伝えていました。
でも、それは、自己紹介をするときに、自分がどんな仕事をしているのか、ということを軽く話した程度。
弁護士として、具体的にどんな仕事をしているか、とか、このコミュニティに所属する経営者のかたが直面するであろうどんな場面でお役に立てそうか、というような話はほとんどしたことがありませんでした。
どうしてかというと、メンバーのみんなに「高橋のやつ、おれたちから仕事を獲得しようとしてこのコミュニティに入ったのか」と思われたくなかったからです。
経営者交流会と一言で言っても、いろいろな性質のコミュニティがあるでしょうし、メンバーによって、何を目的に入会するかもさまざまであるはず。
私自身は、「住まいの近くで、娘ともどもお付き合いできるようなお仲間を作りたいな」「できれば、法曹界の人ではなく、ふだん接することのない異業種の方々と触れ合う機会がほしいな」という思いで入会したので、にもかかわらず、営業目的だなんて思われたら悲しいなと思ったのです。
実際所属する皆さんも、営業目的で近づいてくるかたなんて皆無。
そんな中、私が目をぎらつかせながら仕事を獲りに来たと思われるのは嫌でした。

でも、今回相談してくれた3人の話を聴いて、少し考えが変わりました。
もし、私が、ふだんから「私は、こんな相談に乗れますよ」とか「ご相談いただく際はこんな料金体系になりますよ。ここらへんまでは無料でご相談に応じることができますよ」などとお伝えしていたら、3人は、もっと早く相談してくれたかもしれず、ということは、もっと早く3人の心を曇らせていた心配事を解決することができたはずなのです。
実際、相談してくれた3人は、「相談できてよかったよ。ようやくすっきりした」と言ってくれました。
私が「営業目的で近づいてきたやつと思われるんじゃないか」と妄想していたために、3人の問題解決を遅らせてしまったことに気づいたのです。
しかも、よくよく考えたら、とても失礼な話だなとも思いました。
私が、「営業目的で近づいてきたやつと思われるんじゃないか」と警戒していたということは、私が、自分ができることを伝えたりしたら、コミュニティの皆さんは、きっと「営業目的の高橋」という目で私を見るだろうと勝手に決めつけていたことになり、それって、いつもすごく温かく親交の機会をもってくれている皆さんを全く信頼していないとても失礼な発想なんじゃないかと思ったからです。
改めて考えると、私が知っているこのコミュニティの皆さんは、誰かが助けを必要としていたら、我先に手を差し伸べようとする人たちばかり。
そんな人たちが、「こんなときには私を頼ってください」という私からの発信を、どうして「こいつ、金目的だな」なんて捉えるというのか、そんなはずないじゃないかと思いました。

そこで、私は、先日、コミュニティの全メンバーとやりとりできる場にメッセージを送り、私ができることを詳しくお伝えしました。
その際は、具体的なメンバーのお仕事や人間関係を思い浮かべながら、こんなトラブルに直面するかもしれないと思われることをできる限り具体的に列挙し、こういう場面で私はお役に立てますよ、ということを記載しました。
また、料金についても、大まかな目安を記載しました。
私にとっては当たり前である、たとえば、相談をしたり、相談後依頼の際の見積もり提示を求めたとしても、予算に合わないなどの事情で依頼をしないことも何も気にする必要はないことも丁寧に記載しました。
さらには、トラブルの内容によっては、知り合いである私に相談しづらいこともあるだろうと思われたので、そんなときは遠慮なくその旨おっしゃっていただけたら、私以外の信頼できる弁護士におつなぎできるということも記載しました。

超長文のメッセージを送り終わり、ちょっとドキドキしながら反応を待ったところ、皆さんが「すごく心強い!」「実は、私も知り合いから相談されたことを麻理さんに相談したいけど、してよいものかどうか悩んですでに数か月経っていた。近いうちに相談させてもらう!」「このメッセージ、永久保存版として、どこかに保存しておこう!」などととても温かく受け止めてもらえました。
やっぱり発信してよかったなと思いました。

「私はこういうことができます」と周囲に伝えることで、マウントとかお金目的とか捉える方ももしかしたらいるかもしれず、もちろん、お相手や場を選ぶ必要はあると思います。
でも、それを伝えることで、身近な方の抱えている問題の解決を早める可能性もある。
そう考えると、今後は、自分ができることを周囲に伝えることがお相手の悩みを解決するかもしれないという視点も大切にしたいなと思いました。

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