リーガルエッセイ
公開 2025.06.12

将来への不安

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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将来への不安

またリーガルでないお話を取り上げてみたいと思います。
最近、わが家のホットトピックは、「将来への不安」です。
子どもが、自分の将来が不安だと言うのです。
将来どんな仕事に就くか明確になっていなくて不安。
だから、進路も明確にならなくて不安。
だから、今、目の前のことを心から楽しめる心境になれなくてしんどい。
最近、子どもからひんぱんにそんな言葉が漏れます。

そんな話があるたびに、そういえば、私自身は高校時代どんなことを考えていたかなと思い出すのです。
すると、恥ずかしいほどに全くと言っていいほど何も考えていなかったことが思い出されます。
目の前のテストで一番になること以外何も考えていなかった日々。
なんのためにテストで一番になりたかったのか。
そこには、深い考えもなくて、ただただ、順位がつくレースで高順位を獲得できることが心地よかった。それに尽きます。
将来の夢が全くなかった私は、その場に合わせた適当な嘘をつくこともありました。
英語の授業で将来なりたい仕事を英語で発表しましょうというときには、なんとなくそう言ったらかっこよさそうという理由だけで「I want to be a stewardess(※今はこんな呼び方しないですよね) in the future.」と言っては、友達から「飛行機乗れないじゃん」と言われたり、いまいち点数の伸びなかった物理の先生に取り入るために、「私、先生みたいな物理の先生になりたいです」と言っては、「君はあまり物理的センスがないし、先生という職業にも向いていないと思う」と言われたり。
とにかくまともに将来のことなんて全く考えていなかったし、悩むこともなかった。

だから、子どもが、あれこれ悩んでいるのを見ると、「私は、高校生のとき、なあんにも考えていなかったよ」と言うのですが、そう言ったところで何のアドバイスにもなっていない様子。
そこで、私なりに、今の私は子どものこの悩みについてどういう考えを示せるのか考えてみました。

すると、私の答えは、「とりあえず、目の前のことにだけ向き合っていればいいんじゃない?」ということ。
もちろん、具体的な夢があって、そこに向けて突き進みたいと思えるものがあるなら、その夢に向かって、ひとつひとつやるべきことをやっていけばいいと思うのです。
でも、それがないなら、とりあえずは、今日1日に集中するのがいいのではないかと思うのです。
たとえば、わが子は絵を描くのが大好き。
だったら、今日、1枚の絵を一生懸命描いてみる。
そして、それをいろいろな人に見せてみる。
SNSに投稿してみてもいい。
そんなことを繰り返しているうちに、そこで味わった感情が、将来やっていきたいことにつながるかもしれない。
もしかしてもしかすると、その絵がだれかの目に留まって、いつか絵を描くお仕事につながるかもしれない。
絵を描くためにこれまで行ったことのない場所に行ってみたら、その場所が思いがけず自分にとってこれから先住みたい場所になって、その土地に根付くことになり、今は想像もつかないような仕事に就くかもしれない。
進路を考える中で、手あたり次第、いろいろな学校等に足を運んでいる中で、「これだ!」と思える進路と出会うかもしれない。
明日学校で先生とお話ししている中で、先生のある一言がきっかけになり、今まで興味もなかったことに興味が湧いてきて、もっと深く知りたいと思い、その思いが次の行動に結びつき、そんな行動の積み重ねが、もしかしたら、いつか一生かけてやってみたいこととの出会いになるかもしれない。
我ながらちょっと抽象的かな。
でも、私は、そんなもんじゃないの?と思うのです。
たとえ、今は、これがやりたい!と思っていることがあっても、そういう思いだって、せいぜい10数年生きてきたというとても限られた世界で抱いた思いなわけであって、これからいろいろな人と会い、いろいろなことを知ったりしていく中で、その考えが全く違ったものになることだってあるはず。
だから、今、将来についてしっかり決めねばという思いにとらわれてしまうことはあまり意味がないように思えるし、さらにはその不安から、今に集中できなくなるなんて、かえって可能性の生まれる機会を少なくしてしまうような気がしてならず。
何も難しいことを考えずに、「今日出会う人やものが、もしかしたら、後で振り返ったときに、将来につながる大事な出発点になっていたなんてこともあるかも」とわくわくしながら、とりあえず目の前のことを全力で楽しめるといいのではないかなと思うのです。
そんな私なりの思いを子どもに伝えたのですが、私の熱い思いばかりが空回りして、ちゃんと届いていない様子。
子どもと話しながら、とはいえ、子どもの「将来について不安を感じずにはいられない」という思いを受け止めて何かできないかということも考え、子どもと話し合い、毎日夜30分くらい、一緒に、将来についてあえて考えてみる時間を作ることにしました。
専用のノートも作り、そこに、ある日は、自分の好きなことを書き出してみたり、別の日は、「こういう場所に住んでみたい」を書き出してみたり、世の中には、高校卒業後に進む学校としてどんなものが存在するのかを調べてみたり。
そんな作業を通し、少しずつ、ただの「将来の不安」の正体が見えてきて、具体化されてきた不安について考えたり、先生や相談機関に相談したりといったことができてきているようにも思います。
将来への不安というものをどう捉え、どう対応するかについては、いろいろな考え方があり得るところ。
私だけでなく、先生も含め他の大人や先輩方にも考えを聴いてみることを勧めてみました。

そんな話を子どもにしていて思ったのは、これって、別に子どもたちの進路に限った話でもないよな、ということ。
私も「何年か先の自分の在り方」みたいなものを頭の中で考えながら不安や焦りでいっぱいになることがあります。
そんな不安や焦りから、今やるべきことから注意がそれてしまいそうになることも。

たしかに、私は、子どもと全く同じように考えることはできないのだろうとも思うのです。
目の前のことだけでなく、今まで歩いてきた道のりを振り返り、今の立ち位置を確認しつつ、少し先を思い描き、そこにたどりつくために今したいことというものを考えるという視点ももっていたいと感じます。
でも、やっぱり、何歳になっても、「今夢中になっている目の前のことがこの先どんな線を描いてどこにたどり着くのかわかるのは、もう少し先になって振り返ってからのお楽しみ。まずは目の前に点を打ち続ける」というconnecting the dotsマインドを中心に据えておきたいという思いは変わらず。
今目の前にいてくれる人、仕事を大事にしながら、ときどき後ろを振り返っては数歩先を眺める、たまにちょっと先の将来を想像する。
これからも、そんな毎日を積み重ねていきたいなと思っています。

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