リーガルエッセイ
公開 2025.07.22

ミスが発覚したときの対応について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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ミスが発覚したときにどう対応するか

先日、プライベートで、役所に書類を提出する必要がありました。
提出後まもなく、その役所のご担当者から電話連絡があり、一部提出物に漏れがあるとの指摘を受けたのです。
私は、たしかにその提出物を提出したという記憶があり、「おかしいな。たしかにそれを同封したと記憶していますので、再度ご確認いただけますか?」とお伝えしたのですが、やはり、見当たらないとのこと。
私は、事務手続きがとてもとても苦手です。
だからこそ、ひとつひとつの作業には人一倍時間をかけながら、ミスがないように気を付けているつもり。
「おかしいな」と思いつつも、お相手がないというのだから、ここで、「私はたしかにちゃんと提出した!」と言い張っていても以降の手続きが進まなくなるのは不毛だなと考え、また、私の確認に漏れがあった可能性は否定できないなと考え、指摘を受けた書類を改めて提出するということにしたのです。

そんなことがあってしばらく経った今日、そのご担当者からまた電話がありました。
その方は、「大変申し訳ありませんでした。私が確認ミスをしていました。実は、やはり高橋様がおっしゃったとおり、最初の時点でちゃんとすべての書類をお送りいただいていました。私の確認不足があり、高橋様に一部書類について再度追加提出をお願いしてしまい、余計なお手間をおかけしてしまったことがわかりました。高橋様から、ちゃんと送ったはずとおうかがいしていたのに、確認不足のまま、再度の提出をお願いしてしまい大変申し訳ありませんでした」とおっしゃったのです。
私は、そんな連絡をいただいたことにとても驚きました。
私は、すでに、追加で書類を出し終えていました。
だから、役所の事務処理上、この確認ミスについてご連絡いただかなくても、何か具体的な支障があったわけではないと思うのです。
そのご連絡をいただかなければ、私は、その方の確認ミスを知ることもなかったはず。
黙っていることだってできたはずのミスだったと思うのです。
しかも、その方にとって、私にこの連絡をすることって、とてもハードルが高かったはず。
私は、その方から最初の電話をいただいた際、「ちゃんと送ったはず。もう一度確認してもらえないか」と何度か言い張っていました。
私は、正直自覚は皆無なのですが、普段から、あまり穏やかな語り口ではなく、特に電話だとぶっきらぼうで、あたかも怒っているかのような口調になりがちだという指摘をしばしば受けてしまうような面倒な相手だったのです。
そんな私に対して、再度送る手間をかけた書類が、実は自分の確認ミスですでに受領済みだったと報告したら、私が「やっぱり!」と怒り出して、なんだかんだ文句を言うことも想定されたはず。
それなのに、ちゃんと連絡をくださった。
そう考えると、私はとても驚いたし、その誠実さに心動かされました。
ご担当者の方には、「私の中でも『送ったはずなのにな』という気持ちがなんとなく残っていたところだったので、やはりちゃんと送っていたことが確認していただけてとてもすっきりしました。そして、確認ミスがあり、書類が見つかったということ、私が本来送らなくてよかった追加提出をすることになったということって、〇〇さんがだれにも言わず隠してしまうこともできたことだったと思います。それなのに、こうして連絡をいただき、説明をしてくださったことをとてもありがたく思います。ありがとうございます」とお伝えしました。

そんな電話を終えた後、ふと思ったことがありました。
ミスに気付いたときの対応と、その対応を受けた側の受け止め方ってとても大事だなということでした。

今回のご担当者の方は、ご自身のミスに気付いたとき、それを隠しておくこともできた。
それ自体はとてもささいなことのようにも見えます。
でも、もしかしたら、自身の手元に2つの同じ書類が存在することについて、周囲のかたに指摘され、その説明に窮して、何か事実とは違う説明をする必要に迫られることが出てきてしまったかもしれない。

2つの同じ書類が存在することに気付いた他の職員の方が、状況を知らないままに、私に連絡をしてきて、そこで事態が発覚することもあったかもしれない。
もし、そんなことになったら、そのご担当者にとって、「ミスを隠そうとした」という評価がされる可能性もあって、仕事をする上での信頼に関わる事態になったかもしれない。
今回のケースに限って言えば、たいしたミスじゃないので、ここまで考えるのはちょっと大げさかも。
でも、逆に、今回このように事後的に誠実な対応をしてくださったことで、私は、その方の誠実さに心から感謝できたし、もっと広く、役所の方のお仕事というもの自体への信頼も高まった気さえしています。

また、ご担当者の方から連絡を受けたとき、私が、「ほらみたことか!私に再度書類を提出させる手間をかけたこと、どう落とし前つけてくれるんだ!」などと烈火のごとく怒ったりしたら?
私がもしご担当者の方だったら、次に同じような場面に直面したとき、「あのときのように面倒なことになるかもしれない」という不安が頭をよぎり、ミスを報告するという行動に一瞬ためらいが生じてしまうこともあるかもしれないと思うのです。
逆に、冷静な対応を受けたら、「ミスはきちんと報告する」という方針を今後も貫き続けるきっかけになるということもあるのかも。

これは、私自身が弁護士として働く上でも肝に銘じなくてはいけない点だと思いました。
弁護士としてミスすることは絶対に許されない。
でも、その思いの強さゆえ、万一ミスをしてしまったときに、それを隠せるものなら隠さねばという発想になってしまう弱さが自分にもあるのではないか。
周囲のだれかのミスを打ち明けられたとき、「その受け止め方が、『不正の芽が小さいうちにあがってきやすい組織風土』を作る」という発想を忘れて感情的になってしまう傾向が自分にはあるのではないか。

弁護士としての自分の在り方を考えるにあたっても、会社の不祥事対応業務をする上でも大事にしたい視点を、役所のご担当者の方の対応から改めて学ばせていただいた気がしています。

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