リーガルエッセイ
公開 2025.09.25

リーガルドラマ「SUITS」について

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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SUITSに学ぶ

ここ数年、異業種の知人らから、「弁護士だったら、やっぱりSUITSでやっているような交渉をやることあるの?」とか「SUITSのスピード感あるやりとりが心地いいよね」などと、私が当然「SUITS」なるものを観ていること前提で話を持ち掛けられることが増えたなと感じていました。
その存在は知っていたのですが、メインキャラクターがやり手の男性弁護士だといううわさを聞き、だとすると、全く感情移入ができなさそうだと思ったし、私には、バイブルともいえる「アリー・マイ・ラブ」という弁護士ドラマの存在があったし、仕事を離れてまで今さら弁護士モノのドラマなど観たくもないとも思ったから、SUITSを観たことがありませんでした。
でも、先日、ある知人から、「あなたの好きなタイプからして、あなたは、間違いなくSUITSのマイクに夢中になると思う」と言われ、自分がいったいどんな人物に夢中になると思われているのかを知りたいという興味から、マイクなる人物を見るだけ見てみようと思いました。

いざ観てみたら、完全にストーリーにはまってしまい、今シーズン8がそろそろ終わりそうといったところまで来てしまいました。
どうでもいい話ではあるのですが、私がこういった娯楽のための動画を観ていい時間は厳しく管理されています。
私自身が決めた厳格なルールによって、私が娯楽のための動画を観ていいのは、食事を作っているとき、及び、洗濯物をたたんでいるときのみ。
このルールは、食事を作ったり洗濯物をたたんだりという家事を、さらに自分にとって楽しく、待ち遠しい時間にするため、そして、それ以外の時間を、動画をぼーっと観て過ごしてしまうことを防ぐために定めたもの。
最近では、SUITSを少しでも長い時間観るために、ちょっと時間をかけて手がかかる食事を作ろうとしてしまうなど、わが家の夕食メニュー選定にまで影響を及ぼすレベルでSUITSにはまりつつあるのです。

SUITSは、我が家の夕食のメニューに影響を及ぼしているだけでなく、私自身の思考にも影響を及ぼし始めています。

その中のひとつが、敏腕弁護士ハーヴィー・スペクターが放つ数々の名言。
そのうちのひとつが「相手から銃口を突き付けられたときには、こちらからも銃を向けること、はったりをかますことのほかに、あと146通りの解決法がある」という趣旨のセリフ。
つまり、「もうだめだ」と思われる状況にあっても、まだまだ取り得る解決法があるのだというもの。
知人から、「完全に行き詰っている」とプライベートな相談を受けたときに「ハーヴィーがこう言っていたんだけど…」と言って、「これから一緒に148通り(こちらからも銃を向けること、はったりをかますこと、それ以外の146通り)の解決法を考えよう」と持ち掛けて知人を戸惑わせたりもしました。
わが子に、「ママね、今、こういうことで悩んでいるのだけど、でも、ハーヴィーによればそんなときでも148通りの解決法があるはずだからそれを今考えていて…」などと熱く語り出し、子どもからあきれられたりもしました。

ドラマのセリフに影響されるなんて、自分でもあまりにも幼稚であきれてしまいます。
でも、この発想は、なにかと取り得る選択肢を限定してしまいがちな私にとっては、とても響き、問題に直面する都度、ハーヴィーのセリフが思い出され、「まだまだやれることがあるはず」と思えるようになったような気がしていて、それを周囲のかたに言うかは慎重に検討しつつ、ひそかに自分の中で育てていきたい考え方だと思っています。

それ以外にも観ていておもしろいなと感じることがあります。
そのひとつが、SUITSの登場人物たちが、かなりの頻度で「事実の伝わり方」によって問題をこじらせてしまうという事件が勃発するということ。
たとえば、恋人関係にある弁護士間で、一方が、もう一方に対し、事務所の闇といえるような秘密を隠し、小さな嘘をついたとします。
しばらくして、その嘘がばれる。
実は、嘘をついた弁護士は、嘘をついてしまったことを後悔し、自分から打ち明けようとしていた。
でも、結局、自分から嘘を撤回する前に、他のルートからその嘘がばれてしまって、恋人関係破綻の原因になってしまう。
そんな感じです。
他の場面でも、いったんついてしまった嘘について、自ら打ち明けるかどうか迷う場面で、同僚から「ちゃんと自分から打ち明けたほうがいい。ほかの人から知らされたとき、相手はどう思うか?」というアドバイスを受けたり、逆に、「なんでもかんでもいうべきではない」というアドバイスを受けた際に、「いや、もし、自分が言わずに他の人を通して嘘がばれたら問題はもっと大変なことになるのではないか」と悩んだり。
「同じ事実であっても、それがいかに伝わるかにより、その後の相手の受け止め方が全く違ったものになることがある」「嘘をついたこと自体はどうにもできないが、その後、その嘘を自分から告白できるかどうかにより相手の抱く自分への信頼は全く違ったものになる」などという出来事がかなりの頻度で起きるのです。

ここについて、正直、私自身は、そもそも、というところであまり共感できず。
それがハラハラする弁護士ドラマの宿命だとは重々承知だけど、それにしても、SUITSのみんなは、「とりあえずはったりかます」という場面が多すぎる。
そんなこと万一現実世界でやったら、信頼関係は崩壊でしょう、というレベル。
「とりあえずはったりかます」ことのリスクの大きさを、彼らはいつになったら学んでくれるのか…とやきもきしながら見守ってしまう。
でも、ドラマだから、結局、なぜか、かっこよくまとまってしまうのです。

これをドラマの世界のことだと思って流してしまうこともできるのですが、しばしば繰り返されるこのドタバタ劇を観察しているうちに、考えさせられることも。
当たり前のことではあるのですが、一度ついた嘘は、その後、発覚の危機に直面する都度大きな問題となり、結果として、嘘をつかなかった場合に存在したかもしれないリスクをはるかに上回るリスクとなって必ずどこかで顕在化し、自身の信頼や、そこまで築いていた人間関係に影響を及ぼすということ。
一方で、どんな大きな失敗をしても、それを失敗だと思えたどこかの時点で正面からそれに向き合い、傷つきながらも努めれば、やり直すことができると信じることの大切さ。
プライベートにおける自分の在り方を考えたり、会社の不正を調査し、再発防止策を考えたりするにあたっても、芯になるような、当たり前のようで忘れがちな視点に改めて気付かされるのです。

そうそう、録音問題についても語っておきたい。
登場人物たちは、法廷の外で1対1でやりあう場面で、法に触れる自身の行為を認めた上で「でも、おれは罪に問われないさ。証拠がないから」などと言ってみたり、訴追行為自体が権利の濫用と評価されてしまうような、その背景にある相手への個人的恨みをぶちまけてしまったりすることがあります。
そして、それらの発言はかなりの確率でハーヴィー側(ときには敵側)により録音されており、その録音がきっかけとなり事態が大きく動くのです。そのたびに、私は、その教えがいつか何かの役に立つかもしれないという思いで「1対1の場とはいえ、対立する者同士で話をするときには、すべて録音されていると肝に銘じること。一言一句それが後に証拠になると思って発言するように」と子どもに伝えるようにしています。

友人から「マイクに夢中になるはず」と言われて見始めたこのドラマですが、マイクは危う過ぎて、とてもじゃないですが夢中になる対象にはなり得ません。
こんな危ない男性に夢中になってしまう人間だと友人に思われているのだということを認識できたことは、自己認識と他人から見える自分との間のギャップの存在を知ることができ、ある意味収穫。
私は、仕事ができて、ときに冷酷と思えるジャッジもためらいなくするけれど、大事な周りの仲間への情は厚いハーヴィー・スペクターと、ときに感情的になり過ぎてとんでもない行動に出てしまうこともあるけど、人一倍優しく傷つきやすいルイスが好きなのですが、みなさまはいかがでしょうか。

これまでは、お客様からSUITSの話を持ち掛けていただいても何も語ることはできなかったのですが、ようやく準備が整いました。
お客様と、そんなお話ができるのも楽しみです。

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