リーガルエッセイ
公開 2025.10.09

取調べで生い立ちを聴く意味について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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取調べで生まれてからのことを聴く意味について

先日、ある捜査中の事件に関し、「取調べでは、被疑者の生い立ちなどについて話を聴いている状況」などと報じられるのを見ました。
これを見て、「肝心なのは、この被疑者が今回何をしたかであって、なぜわざわざ生い立ちを聴く必要があるのか」などと思う方もいらっしゃるかもしれません。
今日は、取調べで被疑者の生い立ちについて聴く意味について思うところをお話ししてみたいと思います。

生い立ちなどについて聴いた内容を録取した供述調書を「身上調書」と呼んだりします。
出身地、今に至る学歴、職歴、家族構成、犯罪歴など。
たばこを吸うか否か、趣味、得意なこと、そんな話が書かれていることもあります。

私は、被疑者の生い立ちを聴くことには、いろいろな意味があると思っています。

1つめは、関係性構築。
席について、「さあ、今回嫌疑がかけられている犯罪についてだけど、やったのか、やっていないのか」などと話し出したとして、果たして、真実を聴きだすことができるのだろうか、ということ。
取調べをする側が、相手が今に至るまでどのような人生を歩んできたのかということを把握できていること、すべてを把握しようとすることは難しいとしても、少なくとも、相手の人生を知ろうとしていることを示すことは、その後、真実に迫っていく上でとても大事な意味をもつと思うのです。

2つめは、被疑者自身の振り返りになり得ること。
ふだん、自分がこれまで生きてきた道のりを振り返って言葉にする機会ってあまりなかったりしませんか。
「私は、〇〇県で生まれました。小学校は、自宅の近くにあった〇〇小学校。〇年生のときに〇県に転校することになりました。」などと話しているとき、その頭には、当時の情景や感情のようなものがふわっとよみがえったりするように思います。
そうやって振り返りをすることは、自分にかけられている嫌疑とどう向き合うかという場面で被疑者自身にとって必要になることもあるんじゃないかなと思っています。

3つめは、動機の推認材料になり得ること。
被疑者が犯人であった場合、その動機を解明することは重要な課題。
動機は通常人の心の中にあるから、客観的に明らかにするということがなかなか難しい。
被疑者が、「私は~という理由で~しました」と供述している場合でも、果たしてそれが真実かたしかめることが必要だし、動機について何も供述されない場合は、客観的な事実関係をもとに動機を推認していくことになるわけです。
その過程で被疑者の生い立ちというものが一つの材料になり得るということ。
ただ、ここは慎重になる必要があるなと思っています。
生い立ちを聴いて、「なるほど、生い立ちのこういうところがこの犯行にこんな形で影響しているのだろう」などと取調官が勝手にストーリーを作り上げてしまうのは危険。
なんとなくそれっぽいストーリーを作り上げてしまうと、そのそれっぽいストーリーから推認されるそれっぽい動機をもとに、そもそも被疑者が犯人なのかといったところで誤った評価をしてしまう可能性もあるし、仮に犯人であるとしても、誤った動機は、量刑に不当な影響を及ぼしてしまうかも。

4つめは、捜査に必要な情報を得ること。
3つめと少し重複しますが。
被疑者の周りにはどんな人がいるのか、今回の嫌疑に関し、事情を聴けそうな人はいるのか、仮に裁判を終えて社会に出たときに被疑者を支えてくれそうな人がいるのか、その他、出身地や経歴がともに捜査対象となっている共犯者との接点になりそうか…などいろいろな観点で捜査に必要な情報となり得ます。

ほかにも、生い立ちに関し供述していた内容について裏付け捜査をしたら虚偽であることが判明したりして、被疑者が取調べに臨む態度、供述の信用性を疑わしめる材料になったりすることも。

これ以外にも、いろいろな場面で被疑者の生い立ちに関する供述が意味をもってくると思います。
そして、これって、弁護士としても大事にしたいなと思っているところです。
ここに書いてきたことは、あくまでも捜査側の立場からのお話ですが、弁護士として刑事事件に関わるにあたっても同じことはいえるだろうな。
刑事事件に限らず、分野を問わず、お客様のことを知る、知ろうとすることは、ご依頼のあった案件について最善の解決をするにあたって大事になってくることもありそうです。

改めて、そのような意識ももちながらおひとりおひとりと向き合っていけたらなと思っています。

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