リーガルエッセイ
公開 2025.10.15

マニュアルの存在と趣旨の浸透について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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マニュアルはあるけれど

先日、ある認定こども園で、2歳の子が通園バスの車内におよそ1時間置き去りにされていたことがわかったと報じられました。
報道によれば、朝、職員が2歳の女の子の姿が見えないことに気付き捜したところ、通園バスの座席で見つかったとのこと。
私が気になったのは、このこども園の通園バスには、エンジンを切るとアラームが鳴り、運転手が車内の見回りをした上で、最後部にあるボタンを押して音を消すシステムが導入されていたとのことでした。
このシステムがある以上、当時運転をしていたという園長が、エンジンを切った後、鳴り出したアラームを消すために、バスの最後部まで行く過程で、座席にいた2歳の子を発見することができたはずなのです。
でも、それがなぜできなかったのか。
報道によれば、園長が、アラームの解除をしていたからだというのです。
つまり、後部座席のアラームを消すボタンのところまで行くという工程を省くための行動をとったことが原因。
さらには、職員による出欠確認も不十分だったとも報じられています。

この報道を見たとき、私は、いくつかの企業不祥事の事例を思い出しました。
法令や社内マニュアルは存在する。
でも、短期的な収益優先のため、マニュアルを無視することが慣行となっており、品質不正を防ぐことができなかった事例もあります。
マニュアルはあるけれど、それが、そのときどきの事情で守られてみたり、守られなかったり、そもそも守らないことが常態化していたり。
そのマニュアルが、完全に、なんとなく会社としての形を整えるためだけのものとして存在し、それが作られた目的が何ら考えられていない。

今回報じられた件も、同じ状況だったのではないかと思わざるをえません。

1つ目に、組織内でそのルール、マニュアルの存在を周知するとともに、都度、なぜそのようなルール、マニュアルが存在するのかを確認しあうことが必要だと思います。

2つ目に、「マニュアルどおりに運用しましょう」と言っても、やはり、目の前で起きるさまざまな事情によってその運用に甘さが出ることはあります。
どんなときでもマニュアルが守られる仕組みづくりが必要です。
今回の例でいえば、アラーム解除の手段がある以上、その手段を用いようとしてしまう人が出てくるかもしれないことを想定し、アラーム解除を独断で行えないよう、解除のためのシステム稼働を2人以上のチェックで行うようにしておくことなど。

3つ目に、マニュアルが万一守られなかったときのことを想定した仕組みづくり。
今回の例でいえば、運転手がバスから降りてきた後、万一にでもアラーム解除または不十分な確認のもとアラームを消すボタンを押してしまったときに備え、直ちに別の職員がバスに乗り込み、内部を確認するようにしておくこと。
バスの様子をカメラなどで職員室から確認できるようにしておき、バス到着後に別の職員が車内の様子をチェックできるようにしておくこと。
バス到着後、直ちに、到着した園児の人数を確認し、その日の欠席連絡と照らし合わせてからその日の活動に入ること。
朝のあわただしい時間に、それらの作業を専属で担当する役割のメンバーを決めておくこと。
たとえばそのような手段も考えられるかもしれません。

マニュアルを定めたらほっと一安心、ではありません。
そのマニュアルの存在と趣旨の浸透。
そして、それが守られるための仕組みづくり。
万一守られなかったときにも機能し得る仕組みづくり。
何層にもわたり、起きてはいけないことを起こさないための仕組みを作る必要があるのだと思います。
会社でも子どもを預かる施設でも必要なことは同じはず。
この報道を機に、今一度自社の体制を見直す必要があるかもしれません。

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