リーガルエッセイ
公開 2025.10.17

図書館でのわいせつ事件について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら

図書館での卑劣な行為

先日、ある市立図書館で、男性が、小学生の女の子にわいせつな行為をしたとして逮捕されたと報じられました。
報道によれば、男性は、本棚の間の通路で、女の子を待ち伏せ、歩いてきたところに体をぶつけ、両手で女の子の胸を触ったとのこと。
被疑者は容疑を認めている旨報じられています。
事実関係は今後捜査の過程で明らかになっていくことですので、少し、この報道を離れてお話ししてみたいと思います。

図書館でのわいせつ事件。
もしかしたら、犯行場所として意外に感じるかたもいるかもしれません。
でも、このたびの報道以外にも、そのような報道を見聞きしたことがあります。
なにより、私自身、このような報道を見聞きするたびに思い出す出来事があります。
私は小学生のころ、自宅の近所にあった図書館に行くのが好きでした。
小学校中学年にもなると、一人で行っては、読んでみたい本を探すのがとても楽しみでした。
そんなある日、いつものように図書館で本を選んでいたら突然声をかけられたのです。
男性でした。
今でも顔を思い出せます。
小学生の私には、ものすごく巨大な男性に見えました。
「あの…ちょっとトイレまで一緒に来てもらえますか?」と言うのです。
当時、私は、その意味するところを全く理解していませんでした。
ついていったらどうなるか、ということを具体的に何もわかっていませんでした。
でも、本能的に、「怖い!」「気持ち悪い!」と感じました。
恐ろしくなって、言葉が出てきませんでした。
周りには他に誰もいません。
いたとして、助けを求めることもできない状態。
できたのは、ただただ、その場から立ち去ることだけでした。
パッと走って全速力で家に帰りました。
家では、図書館での出来事を親に話すことはできませんでした。
どうしてだったんだろう。
言うのが恥ずかしいとか、言ったら大事になってしまうようで怖いとか、そんな気持ちがあったような気もします。
しばらく、図書館に行くことができなくなりました。
たぶん年単位で。
そして、本当にしばらくして、少しあのときの恐怖が薄れ始めたころ、また図書館に通い出すようになりました。
小学校高学年だったのか、中学生になっていたのか。
ある日、図書館で本棚を見ていたとき、「あの、ちょっとトイレについてきてもらえませんか」と男性から声をかけられたのです。
ぞっとしてその顔を見ると、忘れもしない、あの男性が今度は眼鏡をかけて立っていたのです。
間違いなくあのときの男性。
眼鏡をかけていたけれど、すぐにわかりました。
このときも、何も言わずに、その場を立ち去り、また全速力で家に帰りました。
このときの恐怖は、前回をはるかに上回るものがありました。
数年を経て同じ場所で同じ男性から同じように声をかけられたという事実は、私に、「この男性は、私をねらっていたのかもしれない。何年も図書館に通い続け、探し回っていたのかもしれない」という思いを確たるものにしていました。
それ以降、私は、その図書館には一度も行けていません。
「図書館には職員の方をはじめ、たくさんの人がいるのだし、静かなところなのだから、ちょっと声をあげればすぐに助けは来たのではないか?」そう思う方もいるのかもしれません。
もちろん、それができる人もいるかもしれない。
でも、当時の私にように、できない人も多いのだと思います。
図書館は、比較的近所にあって、親の立場からしても、安心して子どもだけで送り出せる安全が確保されている場ということもあるかもしれない。
来館者は、基本的に、自分が借りる本のことに関心があるのであって、子どもが危険にさらされるといった危機意識をもちにくい場所であるかもしれない。
でも、そのようなイメージがあるからこそ、そこに便乗して犯行を企む存在があることを認識する必要があるのだと思います。
今回も、防犯カメラ映像で犯人特定に至ったと報じられているから、図書館の防犯体制も整備されてきているのだと思います。
子どもたちが安心して大好きな本を手に取ることができるように、宝探しをしているかのようなワクワクした気持ちが犯罪を企む者によって削がれ、その恐怖心により図書館に行けなくなるなどという悲しいことが起きないように。
図書館で気になることを目撃したり感じ取ったりした場合は、職員の方に相談したり、自ら声をかけたり、できることに努めていきたいと思います。

小学生のころ、私は、あの図書館で、何度も何度も借りてくる大好きなシリーズがありました。
「少年探偵ブラウン」というシリーズと「こちらマガーク探偵団」というシリーズ。
どちらも探偵ものでした。
今でも図書館にはこの本たちが置いてあるのかな。
とても懐かしく思い出します。
でも、この本の存在を思い出すとき、ストーリーや挿絵より前に鮮明に思い出されるのは、あの恐ろしい男性の顔と声。
子どもたちにそんな思いを刻む罪の大きさに対し、私は怒りを感じます。

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