リーガルエッセイ
公開 2025.10.21

保護責任者遺棄致死か殺人罪か

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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これは殺人罪ではないのか

先日、当時2歳の長女に暴行してけがをさせ、治療を受けさせずに死亡させたとして両親が保護責任者遺棄致死の公訴事実で起訴されたと報じられました。報道によれば、被告人らは長女に暴行を加え、また、十分な食事を与えずにいたとのこと。あごを骨折するけがを負わせて十分な食事をとれなくしたとも報じられています。
被告人らの認否も含め、事実関係がわかりませんので、少しこの事件を離れてお話ししてみたいと思います。

この報道を見聞きしたとき、「それって、殺人罪じゃないの?」と思われたかたもいるのではないかと思います。
今回の事実関係がわからないので一般論で考えると、2歳くらいの子どもに対し、日常的に暴行を加えたり、食事を十分に食べさせなかったりしており、さらには、暴行の結果、顎を骨折させ、さらに食事を十分に食べることができない状態にしたという事実があったとしたら、その他の事実によっては、それって「このままでは、子どもを死に至らせる危険がある」と十分認識しながらあえて、その危険を排除せず、むしろ、その結果発生を意図しているといえるのではないか。
私は、そのような考え方も十分あり得るところなのではないかと思ってしまう。

過去に、殺人罪で起訴された被告人について、弁護人がその殺意を争い、保護責任者遺棄致死罪の成立を主張するという事例もあります。
たとえば、高齢の実父が要保護状態になっていることを認識していたのに、保護措置を講じないままに実父を放置して熱中症で死亡させたという件では、殺意が認定されず、保護責任者遺棄致死罪の成立が認定されています。
判決を読むと、被告人の行為について「客観的には、被害者が死亡する危険性が高く、被告人が、被害者の死を認容していたことと整合するようにも思われる」などとしながら、従前、被害者と被告人との関係が良好で、被告人には被害者の死を望む理由がなかったこと、熱中症が、通常の体調不良と区別がつきにくく、死亡の危険性が一見して明らかと言い難いことなどを理由とし、殺意を認めるには合理的な疑いが残るとされているようです。
一方、当時5歳の長男と二人で暮らしていた被告人が、長男に十分な食事を与えず、衰弱しているのに、適切な措置を講じず、放置して死亡させた事案で、殺意があったとして殺人罪の成立を認めた裁判例もあります。
判決では、その理由について、適切な診療を受けさせるなどしなければ子どもが死亡する可能性が高い状態にあったことが明らかであったなどとしているようです。

それぞれの事件の事実関係により判断がわかれ得るところです。
それにしても、2歳の子が、十分な食事を与えられないまま、一人自宅に残されて両親が不在といった状態が日常的にあったこと、あごの骨が折れるほどのけがをさせられたということなどの報道が仮に事実なのだとしたらと思うと胸がつぶれるような痛みを感じます。
同時に、そんな状況から一刻も早く子どもが救い出される機会はなかったのだろうかとも。
被告人らの刑事責任がどのようになるのか、というところに注目は集まるのだと思います。
もちろん、それ自体は当然として、子どもを救い出すことができなかった要因がどこにあったのか、関わったかたたちが何をどうすれば救い出すことができたのかということが徹底的に検討される必要があるのだと思います。
同じような状況に置かれた子どもたちが今もなおいるはず。
あわせて、そのような危機感をもって、どうすればその子どもたちを今すぐに見つけ出すことができるのかを考え、動く必要があるのだと思います。

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