リーガルエッセイ
公開 2025.10.24

「ちゃん」付けはハラスメント?

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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「ちゃん」付けはハラスメント?

先日、女性が、年上の同僚男性からセクハラを受けたとして550万円の損害賠償を求める訴訟を提起していた件で、判決が出たと報じられました。
判決は、男性が22万円を支払う義務があるというものだったとのこと。
報道によれば、男性が女性を「ちゃん」付けで呼んだことや、体形に関する発言が違法なハラスメントにあたると判断されたとのことです。

私自身、判決を読んだわけではなく、報道の限りでしか認識していませんので、この報道された事案を少し離れてお話ししてみたいと思います。

「ちゃん」付け問題について。
いろいろな考え方があると思います。
厚労省で公表している資料の中に、セクシャルハラスメントに関する「セルフチェック」項目があり、そこに、「女性社員を〇〇ちゃんと呼ぶのは親しみの表れであり、他意はない」という項目があります。
そして、そこにチェックがついた場合の解説として、「女性だからという理由で『〇〇ちゃん』と呼びかけるというのは、会社で共に仕事をする人として尊重していない意識が背景にあることがあります。そのような意識はセクハラにつながることがあります。また、自分では親しみをこめたつもりであっても、呼ばれた方は不快に感じていることもありますので注意しましょう。」との記載があります。
そう、まさにそうなんだろうなと思います。
「ちゃん」付けで呼ぶということの問題は、
① そのような呼び方をする者の背景に、相手を仕事のパートナーとして尊重していない意識が隠れている可能性がある場合がある
② 呼ばれた相手が不快に感じる場合がある
というところにあるのだろうと思います。

逆に言えば、そのように呼び、呼ばれる二人の間で、互いに仕事を共にするパートナーとしての信頼関係があり、また、呼び名に関しても、互いに心地よいものとして認識しあえているのであれば、問題とはならないのだろうと思うのです。
ただ、この「互いの認識」というところが、「きっと相手も心地よく思ってくれているだろう」という一方の思い込みであることがしばしばあるところで。
もしかしたら、呼ぶ側の方は「不快なんだったら、すぐに言ってくれればいいのに」と思うのかもしれない。
でも、呼ばれる方が、その立場上、または、性格的にも、自分の不快な思いを伝えられないということもしばしばあり得るところ。
だから、「もしかしたら、相手は自分と全く違った考え方、受け止め方をしているのかもしれない」という想像力が必要なのだと思います。

でも、これって、「ちゃん」付けだけの問題じゃないはず。
私も、何の考えもなしに、自分よりも年下の男性を「くん」付けで呼んでしまっているけれど、これも、よく考えなければいけないことなんだろうな。
自分としては、なんとなく、これまでの自分の生きてきた世界の常識で、自分より年下の男性に対しては「くん」で呼び、年上の男性に対しては「さん」で呼ぶのが当たり前になっていたけれど、もしかしたら、それが、相手にとっては、共に働く仲間として尊重が欠けるものだったかもしれない。
「いやだな」と感じる人がいるかもしれない。

あだ名などもそう。
私自身は、なんだか恥ずかしくて、人をあだ名で呼ぶことができないのだけど、あだ名というのも、使われ方によっては、または、そのあだ名を呼ばれる側がどう受け止めるかによっては、やはりとても不快なものになり得るのかもしれない。

今回の報道を見て、ただただ「ちゃん付けはハラスメント」という言葉が独り歩きをするのはちょっと違うのかな。
そのもとになる人間関係を見たとき、自分には、相手に対する敬意をもてているか。
年齢や経験なんていうもので、優劣の目をもってしまってはいないか。
自分の相手に対する敬意は、きちんと齟齬なく伝わっているか。
相手は、自分をどのような存在として見ているか。
相手との関係性に鑑みたとき、どのような呼び方をするのが、共に働く相手への敬意、感謝、親しみとして相手に受け止めてもらえそうか。
そのようなことを客観的に、丁寧に見つめ直す必要がありそうだなと思いました。

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