リーガルエッセイ
公開 2025.10.27

「わかります」と共感するのは要注意

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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「わかります」の罠

私は、ふだん、プライベートなことについて人に相談することはないのですが、唯一、積極的に人の意見を聴きたいなと思って相談しているのが子どもに関すること。
私は、子どもと接するにあたり、自分が、自分の凝り固まった価値観に基づいて、「こうしなければ」という発想になりがちであることを自覚しているので、そういう発想にがんじがらめになって子どもにかける自分の言葉や見せる態度などが子どもにとってよいものになっていないと感じたとき、早めにいろいろな相談機関に相談をもちかけることにしています。
そのような機会に、相談に乗ってくださっているかたが、「そんな状態だとすると、お母さんとしても~っていう思いになりますよね。わかります。」とか「そういうケースってよくご相談いただくのですが、お母さんとしては、~ですよね。」とか「お母さんとしては、ちょっとゆっくり体を休めたり、お友達とおしゃべりしたりする時間もほしいですよね」などいう言葉をかけていただくことがあります。
きっとそのかたは、弱り切っているように見える私に寄り添おうとしてくださっているのだと思います。
その気持ち、とてもありがたいなとは思うし、ありがたく受け止めなければとも思うのです。
でも、「きっと、お母さんとしては~っていう思い」「お母さんとしてはゆっくり体を休めたい」などのひとつひとつが率直に言って見当違いなことが多々あります。
別に、そんな思いなわけじゃない。
別に、私は体を休めたいとか、友達とおしゃべりしたいとか全然思わない。
たまに、「いや、私はそう思っているのでなくて、~なんです」などと説明しても、「うんうん、そうですよね。~なんですよね」などとさらにかぶせて違う内容をぶつけてくる。
そんなとき、私は、「ああ、話さなければよかった」と思ってしまうのです。
別に、寄り添ってくれる必要なんて全然ないから、とにかく私は、淡々と私の話を聴いて、意見を欲しかった。
ぐちを言ったり、弱音を吐いたりしている時間はないから、とにかく、現状について客観的なアドバイスが欲しかった。
そのことも最初に伝えたつもりだった。
それなのに、アドバイスではなく、ただただ見当違いな共感、寄り添いがなされると、そのかたに対し、不信感を抱いてしまい、そこから先、心を閉ざしてしまう。

そして、いつもそのたびに思うのです。
私も、気を付けなければと。
弁護士として仕事をする上で「お客様に共感することが大事」などと言われることがあります。
この共感、私は要注意だなと思うのです。
お客様のお話をうかがった際、たまに「あ!その気持ちわかる!」と思ってしまう瞬間があります。
でも、そんなときこそ要注意だなと思っています。
だって、そのとき頭に思い浮かべたのは、私自身の経験やそのときの感情。
お客様のそれと全く同じものであるはずもない。
それなのに、ちょっと似通ったシチュエーションがあったというだけで、ついつい、「そうそう、あれあれ!」と私自身の経験や思いと結びつけてしまう。
でも、本当の意味で、寄り添うって、そうことじゃないと思うのです。
そうやって、私がお客様の話を聴いて、自分のストーリーとリンクさせている時点で、私の気持ちは、お客様から離れ、自分の頭の中にある自分自身の経験や思いにいってしまってるからです。
そういった自分自身の経験等と離れて、フラットに、お客様の話を受け止めてはじめて、そのお客様の「こうありたい」を知ることができると思うし、そのための解決策を考えることができるはず。
お客様の思いを徹底的に想像することは必要。
でも、想像することと、その上で、どうお客様の話を聴くかということとはまた別の問題で、決して自分の想像を押し付けてわかった気になるということをしてはいけないのだと思っています。
お客様においても、弁護士が、自分に寄り添っているようで、実は、弁護士の頭にあるのは、弁護士自身の経験や思いであり、まっすぐに自分のことを理解しようとしてくれていないんだなと感じてしまう、といったことがあるのではないかと思うのです。
そんなときに生まれる小さな不信感は、お客様と弁護士がともに解決を目指していこうという過程でとても大きな支障となることがあるように思います。
これは、仕事以外の場で人と接するにあたっても大事なことだなとも思います。
「わかります!」と言われることで、それを好意的に受け止めるかたもいるかもしれない。
だから、これが正解だなどと言うつもりは全くないのですが、私自身は、人の話を聴くにあたって、臨むときの姿勢、受け止め方については、いろいろな考え方があり得ることを想定して気をつけていきたいなと思っています。

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