リーガルエッセイ
公開 2025.10.29

検察官時代にショックを受けたこと

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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ショックを受けたことについて

検察官時代、ショックを受けた出来事がありました。
いつものように、警察に、ある事件の補充捜査について電話したときのこと。
ひととおりの話が終わって、警察官と、ちょっとした雑談になったのですが、私が、「今日は1日忙しかったですか?なかなか電話つながらなかったから」というような話をしたとき、警察官が「いやいや、今日は、〇〇支部の〇〇検事の取調べに立ち会っていたのです。よかったですよ」と言ったのです。
その検察官とは直接の知り合いではなかったのですが、とても仕事ができる検察官として名前を聞いたことがある人でした。
「どんなふうによかったのですか?なかなか人の取調べを見る機会ってないから、こっそり教えてください」と頼んだところ、「取調べがすごいっていうよりは、姿勢がすごかったんです。私が被疑者を連れて〇〇検事の取調室に入っていったら、〇〇検事は、すでにデスクのところでびしっと立って出迎えてくれて、『こんにちは。検事の〇〇です。よろしくお願いします』って頭を下げてご挨拶されたんですよ。私と被疑者に。私も被疑者も、そんな検事さん、なかなかいないので、ちょっとびっくりしたんですが、気持ちよかったですね。被疑者も、この人にはちゃんと誠実に話をしようと思ったんじゃないかな」と言うのです。
私は、他の検察官が取調室でどのようなふるまいをしているのか、わざわざ聞いたことはなかったのですが、少なくとも、そのようなふるまいは、私の中の常識とは全然違うものでした。
私は、といえば、当時まだ20代。
多くの被疑者が自分よりもはるかに年上の男性であることが多く、「若造だとなめられてはいけない」「女だからとなめられてはいけない」という思いばかりが強くありました。
だから、どうすれば、検察官としての貫禄を示せるかとそればかり考えていました。
事件の内容は、被疑者よりも詳しくなくてはいけないと、事前に徹夜で記録を頭に叩き込んで、関係者からも話を聴いて、ということはもちろん。
取調べのときには、デスクにあえて大量の記録をでんと載せてみたり、被疑者が取調室に入ってきたときにも、大きな椅子に座って電話対応をしたままで迎えたりして、いかにたくさんの案件をこなしている検察官かを演出しようとしてみたり。
今思い出すと恥ずかしくて穴に入りたくなるのですが、吸いもしないたばこ(しかも、周りの人たちから、強めのものであるといううわさを聞いた銘柄のもの)をわざわざ買ってきて、デスクに載せたままにしておいてみたり。
意味が分からないと思うのですが、当時の自分の意図としては、これは、貫禄を演出するために必要な小道具だったのだと思います。
なんとお恥ずかしい話。
だから、警察官から、その検事の取調べに臨む姿勢を聞いたとき、自分はなんて見当違いなことをしていたんだろうと猛烈に恥ずかしくなったのです。
見せ方とかではない。
相手に対してどう向き合っているかという内面は、自然とふるまいににじみ出るもの。
私は、当時、とんでもなく傲慢になっていて、その検事のようなふるまいが自然と出るような状態ではなかったのです。
自分は、相手から事実や相手の言い分を聴きだす立場ではあるけれど、それは単なる役割であって、相手に対しては、一人の人として当たり前のこととして敬意をもって相対しなければならない。
上も下もないから、「貫禄を見せねば」なんていう発想なども本来生まれようもないはず。
自分は、なんて浅はかで見当違いなことをしてきたんだろうと、ただただ恥ずかしくなりました。
今思えば、自分の部屋に入ってきた人たちが、立って挨拶をしてきたのであれば、立場など何も関係なく、自分だって、立ちあがって挨拶をする。
これって人としてあまりにも当たり前のことなんだと思うのです。
そもそもびっくりするようなことなんかであるはずがない。
たかだか検事になって1,2年で、その当たり前の感覚を失っていたことが猛烈に恥ずかしく、とんでもなく恐ろしいことに思えました。
それ以降、私が、このときのショックを踏まえて、自分の行動を変えることができたかというとはなはだ疑問。
未熟な私は、ついつい、本来持ち合わせるべき姿勢を忘れてしまうことがしばしばありましたが、今でも当時のショックは私の中でたまに蘇ってきて、姿勢を正すきっかけになってくれることがあります。

年齢、立場、関係性などによって、相手とのかかわり方は微妙に変わってくることもあるとは思いますが、どんな関係性においても、お互い一人の人として敬意をもって向かい合うという当たり前の姿勢を忘れずに、ふるまいを正していきたいと改めて思います。

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