リーガルエッセイ
公開 2025.11.26

AI生成画像を無断複製で書類送検

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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AI生成画の無断複製について著作権法違反で書類送検

先日、生成AIで作られた画像を無断で複製したとして、著作権法違反の疑いで事件が検察庁に送致されたとの報道を見ました。
あくまでも、事件が検察庁に送致されたというだけなので、その被疑者の有罪が確定したというわけでは全くありません。

報道によれば、Aさんが、画像生成AIを使ってある画像を制作したところ、Bさんがそれを複製して自身が販売した書籍の表紙として使用していたとのこと。
このBさんの行為について、著作権法違反の疑いがあるとして、検察庁に送致されたというのです。
この事実関係に関しても、報道の限りですので、明らかとはいえません。

ただ、この報道を読んだとき、もしかすると、生成AIで作られた画像が、著作権法による保護の対象になる著作物といえるのだろうかと違和感を感じたかたもいるかもしれません。

著作物とは何か。
著作権法では、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定義づけられています。
ここから導かれる要件は、
❶思想または感情を内容とするものであること
❷創作的であること
❸表現したものであること
❹文芸、芸術、美術または音楽の範囲に属するものであることを満たすものであること。

そう考えたとき、❶との関係では、「思想または感情というのは、前提として、人の思想または感情と考えられるところ、果たして、生成AIが作り出したものはこれに該当しないのでは?」、❷との関係では、「人による創作性があるといえるのだろうか」などという疑問が湧いてくるところ。

この点に関して、文化庁のHPでは文化審議会著作権分科会法制度小委員会による「AIと著作権に関する考え方について」というものが公表されており、その説明が参考になると思います。

ここでは、まず最初に、生成AIに対する指示の具体性とAI生成物の著作物性との関係について、著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、AI生成物に著作物性は認められないと説明されています。
また、「AI生成物の著作物性は、個々のAI 生成物について個別具体的な事例に応じて判断されるものであり、単なる労力にとどまらず、創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されるものと考えられる」とも説明されており、その判断にあたっては、❶指示・入力の分量・内容❷生成の試行回数❸複数の生成物からの選択行為の有無等が要素となり得ることも示されています。

報道によれば、このたびの件では、AIに対する指示が2万回以上だったとか、詳細な指示を踏まえて作り出された画像を確認しながら指示の修正も繰り返していたとかいう点に触れられており、これらが事実だと認められれば、著作物性の総合評価の中で、肯定する方向に働き得る要素になるのかもしれません。

なお、仮に、著作物性が否定されたとして、その画像を制作した人が何らの財産的損害を被っていた場合にその救済の余地はないのか、というと、ここは民事的な救済の余地があり得ると思います。
生成AIに関するものではありませんが、「人が費用や労力をかけて情報を収集、整理することで、データベースを作成し、そのデータベースを製造販売することで営業活動を行っている場合において、そのデータベースのデータを複製して作成したデータベースを、その者の販売地域と競合する地域において販売する行為は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するもの」であるとして、そのような行為は不法行為に該当し得ると評価した裁判例もあります。

このたび報じられた件に関し、検察、裁判所がどのような判断をするのか。
今後も引き続き注目していきたいと思います。

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