リーガルエッセイ
公開 2025.12.09

「フキハラ」について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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「フキハラ」を考える

先日、ある自治体で働く職員が、部下の職員より、業務に必要な質問をするや舌打ちされ、仕事上意見が対立するや「明日休んでもいいですか。顔も見たくないので」と言われ、廊下ですれ違う際には、顔をそむけられるなどしたことにより、動悸等の症状が出て適応障害と診断されるに至り休職することになったとのこと。
復職後、その部下の職員に対し、慰謝料を請求する訴訟提起した件で、部下の職員が3万円を払うことで和解が成立したと報じられていました。

報道を見る限りでは、この件に関して、裁判所が何らかの判断をしたわけではないので、原告が主張した事実が法的にどのように評価されるのかということをこの報道から知ることはできません。

でも、このような事例、意外と身近にありそうだと思いませんか?
報道では、「不機嫌ハラスメント」という言葉を遣い、「フキハラ」などと表現されていましたが、この「フキハラ」と評価されるもととなる行為については、弁護士として仕事をしていると、主に2つの場面でときどき聴くことがあります。
1つめが、家庭内。
もう1つが、職場内で。

「フキハラ」「不機嫌ハラスメント」というと、「不機嫌」という表現がやや抽象的に過ぎるので、このような言葉でくくるのでなく、具体的な言動としてピックアップして考える必要がありそうです。
「不機嫌ハラスメント」とくくられる言動として思いつくのは、たとえば、相手に対する悪感情や相手とは関係のないことを原因とするイライラなどを背景として、「あいさつをされても無視をする」「相手の言動に対して舌打ちする」「相手に確実に聞こえる声の大きさ、かつ、ギリギリ独り言だと言い訳できる声の大きさで、相手に対する不満を言う」あたり。

それが家庭内でなされても、職場内でなされても、そのような言動を目の当たりにした側の人は、言いようもない苦痛を感じそうだなと思いませんか?

その場にいれば、その不機嫌な言動は自分に対して向けられていることは明白だと感じられる。
でも、自分に対して、直接、「~がいやだったから~してほしい」などと言われたわけではないから、その不機嫌な言動を受けて、直接返答などをしにくいわけです。
仮に、「文句があるならはっきり言ってよ」などと言おうものなら、「え?私、あなたに何か言いました?」なんて返ってきそう。
そう言われたら、それに対して明確な反論をすることがとても難しくも思われる。
ただただ、相手のネガティブを自分が引き受けたような感じ。
その気持ちをどこにもっていけばいいのか、何をどうしたらいいのかわからなくなってしまいそう。

そのような「不機嫌な言動」というものが、具体的な言動を伴っていて、しかも、それが録音とか目撃していたかたの供述とか客観的な証拠で明らかにできる状態になっているのであれば、内容によっては、そのような言動が不法行為であるとして、精神的苦痛について損害賠償請求することも可能な場合があるのではないかと思います。
でも、なかなかハードルが高そう。
そして、できれば、そのような問題を、訴訟などという形になる前に、心地よい状態にしていけたらなと思いませんか?
何より、その前に、ちょっと考えてみたいなとも思うのです。
周囲に対してただただ不機嫌な言動をまき散らしているかのように見える人。
その「不機嫌」のおおもとにどんな事情があるのだろう?
それは、特定の相手に対する具体的な不満や怒り、もしかすると妬みの気持ちなのかもしれない。
それは、自分の置かれた環境に対する不満や怒りなのかもしれない。
それは、周囲とは関係なく自分の中にある不安や焦りなのかもしれない。
医療で解決した方がよい問題が隠れているのかもしれない。
もちろん、そういった何かがあったからと言って、それを理由に周囲が不快に思うような言動に出ることが正当化されるわけじゃないはず。
でも、そんなことわかっていても、思うように自分の現状を客観視したり、コントロールしたりできることばかりじゃない。
そういう言動は、もしかすると、周囲に助けを求める声なのかもしれない。
そんなことを考えていったとき、周囲でも、何かできることがあるかもしれない。
そんな風にも思えてくるような気がします。
だれか一人が抱え込むのでなく、それが職場内で起きていることであれば、職場全体で、家庭内で起きていることであれば、家庭内での問題を相談できる機関などを巻き込みながら。
弁護士としてご相談を受けた際も、何ができるのか、お客様と一緒に考えてみたいと思います。

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