リーガルエッセイ
公開 2025.12.10

長時間の取調べについて思うこと

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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これって許される取調べ?

先日、ある県警からの長時間に及ぶ任意の取調べなどで精神的な苦痛を受けたとして、取調べを受けた人が県に対して損害賠償請求訴訟を提起したと報じられました。
その人は、2か月弱の間に、計13回、トータル60時間に及ぶ取調べを受けたとのこと。
その間、任意同行を断ると、その件について同じように話を聴かれている他の人も警察署に来るとの嘘をつかれたり、取調べで、携帯電話のロック解除を強要されたり、供述調書の訂正を求めても応じてもらえなかったりしたとも報じられています。

このように、任意捜査として長時間の取調べがなされたことが問題となるケース、結構あります。

かなり昔のことになりますが、被疑者が、自宅から警察署に任意同行されるにあたり、物理的な強制が加えられたというわけではなくても、その後の警察署の取調べが、朝8時から日付が変わった午前零時ころまでの長時間に渡って行われ、その間、食事の時間の数回の休憩時間しかなかったこと、被疑者としては、通常は遅くとも夕食の時間には家に帰りたいとの意向をもつと思われるのに、被疑者にその意思確認をしたり、自由に退室したり外部に連絡をとったりする機会を与えなかったりしたという事実関係が認められた件で、そのような取調べは実質的な逮捕と認められるとして、その後の勾留請求を却下したという裁判例があります。

また、他にも、被疑者に対し、朝7時36分ころに任意同行を開始してから、約4時間半が経過した午後零時18分ころ、自白したにもかかわらず、そのまま警察署にとどめ置き、午後7時半ころに逮捕状を請求したという事実関係が認められた件で、「遅くとも夕食時には帰宅したいと考えるのが通常である。それにもかかわらず」「意向を確認したり、自由に退室する機会を与えたりせず」「休憩中に外出した際には警察官が同行するなどした」「このような事実上の監視が付いた長時間に渡る取調べは、被告人から、帰宅や退室に関する明示の申し出がなかったとしても、任意の取調べとして社会通念上相当と認められる限度を逸脱しており、遅くとも任意同行を介しした時点から約10時間が経過した午後6時以降の取調べは、違法性を帯びていた」旨裁判所が評価した事例もあります。

このように見てくると、報じられている件についても、それぞれの取調べの行われた時間帯、1回あたりの時間、退室の自由等に関する説明、休憩時の監視状況等事実関係によっては、任意捜査の限界を超えたものであったと評価される可能性はあり得るものと考えます。

また、録取した供述調書について、読み上げられたときに、訂正を申し出たのに、訂正に応じてもらえなかったという事実があるのだとすると、これは、そもそも捜査が任意で許される範囲内か否かという問題以前の問題、というか、全く別の問題性をもってくると思います。
その供述調書には、供述した方の記憶や認識が正しく記載されていないという状態。
それを指摘しても、修正してもらえず、捜査機関にとって好都合な内容が録取され、それを押し付けられているという状態。
そうであれば、そのような供述調書を証拠として用いることはあってはならず、もしこの方が被疑者という立場にあり、その後公判請求されたとして、その裁判の証拠としてその供述調書が請求されるのであれば、弁護人として、それを証拠とすることには同意できないのだろうと思います。

実は、このような話は、私が司法試験受験生だったころは、頻出論点だったと記憶しています。
過去の裁判例も含め、当時いろいろ勉強したものの、当時は、いまいち、そのような長時間の取調べというものについてイメージが湧かなかったり、そのような取調べが供述をする方にとってどのような影響を及ぼすかということについて実感が湧かなかったりしていたように思います。
今は、その問題としての大きさを実感しています。
弁護士として、捜査機関による捜査について、常に緊張感をもちながらチェックする意識を大切にしたいと思います。

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