リーガルエッセイ
公開 2026.05.07

「オワハラ」という言葉に感じた違和感

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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オワハラ問題

なんでもかんでも「ハラスメント」という言葉を付けることはあまり好きではありません。
こうして「ハラスメント」でくくってしまうと、個々のケースに潜むいろいろな問題をいっしょくたにまとめて語られてしまうような雑さを感じるからです。
しかも、「その行為はハラスメントにあたるか否か」という観点で語られてしまうことにも違和感あり。
大事なのは、「ハラスメントにあたるか否か」という、そのジャッジ自体ではなくて、ある行為によって不快に感じたり、傷ついたりする人がいるという事実を踏まえて、自分は、周囲はどう関わっていけばいいのか、何ができるだろうか、というところなのではないかと感じるからかもしれません。
だから、つい、〇〇ハラという言葉を見聞きすると、「またか」と思ってしまいます。

「オワハラ」という言葉を見たときもそんなふうに思いました。
これは、「就活終われハラスメント」の略称のようですね。
企業が内定・内々定を出した学生に対し、他社の選考辞退や就職活動の終了を強要する行為。
オワハラの被害に遭ったというかたがSNSでその体験を投稿するのを見たことがあります。

厚労省のホームページでは、
・自社の内(々)定と引換えに、他社への就職活動を取りやめるよう強要すること
・自由応募型の採用選考において、内(々)定と引換えに大学あるいは大学教員等からの推薦状の提出を求めること
・他社の就活が物理的にできないよう、研修等への参加を求めること
・内定承諾書等の早期提出を強要すること
・内(々)定辞退を申し出たにもかかわらず、引き留めるために何度も話し合いを求めること
などが「オワハラ」に該当し得る例として挙げられています。

前提として、内々定や内定にはどのような意味があるのか。

採用内定について法的な定義はないし、態様もいろいろ。
一般的には、労働者と使用者との間で、就労の始期と、一定の場合は解約できるという解約権留保を付して労働契約を締結した状態といえるでしょう。
採用内定の状態で、労働者と使用者との間に一定の労働契約が成立していれば、労働者側から内定を辞退することは、契約破棄。
そのやり方が信義に反するといえるような場合は、使用者側が被った損害について損害賠償を求められる可能性もあることは事実。
ただ、採用活動にかかった費用は、そもそも採用活動一般にかかる費用で、特定の学生一人の辞退と因果関係のある損害として立証することは難しいし、内定辞退はある程度予見可能な出来事でもあり、その費用を辞退した学生に転嫁することは難しいのかなとも思います。
採用の内々定については、多くの場合、労働契約を締結したという状態には至っていないと考えられ、その辞退は契約の破棄ともいえず、これが違法として問題になる場合は内定の場合よりも考えにくいはず。

特に内定に関しては、その辞退により法的責任追及がなされる可能性は完全に否定はできないといえ、学生側で、その点も意識して、辞退の際にはできるだけ早期に、丁寧にその意思を伝えることなどは必要になるのだと思います。

しかし、会社側が「オワハラ」にあたる行為をすることは法的に問題。

オワハラは、「道義的にやってはいけないよね」という問題にとどまらず、法律やその下位規範により明確に問題行動として位置づけられています。
いわゆる「若者雇用促進法」に基づく「事業主指針」は、「採用内定又は採用内々定を行うことと引替えに、他の事業主に対する就職活動を取りやめるよう強要すること等青少年の職業選択の自由を妨げる行為又は青少年の意思に反して就職活動の終了を強要する行為については、青少年に対する公平かつ公正な就職機会の提供の観点から行わないこと」と定めており、これは、内定・内々定の段階を問わず、就職活動に伴う強要が不適切であることを国として明示したものといえるでしょう。

「内定を取り消す」などと脅して承諾書を書かせるなど義務なきことを行わせれば、それは強要罪が成立し得ますし、不適切な対応で学生に精神的苦痛を与えれば、民事上の不法行為として損害賠償請求され得ることにもなります。
のみならず、学生が受けた「オワハラ」はSNSや口コミサイトを通じて瞬時に拡散され、法的責任以上に、レピュテーションリスクも深刻な問題。
採用ブランド毀損、優秀な人材の流出という事態を招きます。
心理的強制で引き留めた学生は、入社後もエンゲージメントが低く、早期離職にもつながりがち。
言うまでもなく、来てほしい学生を得るためには、強制ではなく、自社の魅力を高めるほか方法はないといえそうです。

採用活動の本質は、企業と学生が互いの可能性を見極めあう対話のプロセスにあるはず。起業は自社の魅力を誠実に伝え、学生は自分のキャリアに真剣に向きあう。
その相互の真摯なやり取りの中でこそ、いい出会いが生まれるのだと思います。
オワハラかどうか、という線引きに神経をとがらせるのでなく、相手の選択を尊重しながら自分たちの魅力を選んでもらうという姿勢こそが採用活動の出発点に置かれるといいなと思います。

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