リーガルエッセイ
公開 2026.05.20

なりすましの先にあるもの

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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なりすましの先にあるもの

先日、塾の教え子になりすまし、実用英語技能検定を替え玉受験して、教え子の大学の推薦入試に利用させ、合格させたとして、元塾講師が私電磁的記録不正作出・同供用と偽計業務妨害の事実で逮捕されたと報じられました。
報道によると、その大学では、入試で、外部の試験結果を利用するという制度のものがあるようで、その外部試験の得点が入試の際に考慮されるようです。
この被疑者は、英語技能検定では、自身の顔写真を使って、教え子受験生の名前で出願して受験。
英語技能検定の受験にあたって使用した自分の顔の写真との違いに気付かれないよう、大学入試では、被疑者と教え子受験生の顔の特徴を組み合わせた加工写真を作って出願させたと報じられています。
まだ何が事実かはわからないため、あくまでも、この報道されていることを前提として少し考えてみたいと思います。

ここでまず問題となるのは、私電磁的記録不正作出・同供用罪。
英語技能検定の合否やスコアは、いまや紙ではなく電子的に管理されるのですね。
本人でない者が、他人の名前で受験して合格データを得ることは、試験主催者の業務システムに虚偽の情報を流し込み、不正な記録を作らせる行為にあたります。
そして、その虚偽の記録を大学入試に利用させた点で、単に不正なデータを作るだけではなく、使ったことにもなる。
法律上、この一連の行為は、不正に電子データを作出し、これを用いた犯罪として評価され得るのです。
また、偽計業務妨害罪も成立し得ます。
大学側は、提出された受験票や成績資料が真正なものだという前提で入試業務を行っています。にもかかわらず、仮に、被疑者が、自分と教え子の特徴を混ぜた加工写真まで準備して、本人確認をすり抜けようとしたという点が事実だとしたら?
これは相手を欺いて業務を誤らせる「偽計」。
大学は、本来、正当な受験者を選抜するために入試を実施していますが、虚偽の資料に基づく出願があれば、選抜作業そのものが歪められます。
入試業務に余計な確認負担を生じさせるだけでなく、場合によっては、本来合格すべき受験生の機会を奪うことにもつながるわけです。
教え子と被疑者との間で、どちらがこの計画をもちかけたのか、二人の間でどのような話し合いがなされ、合格という結果に伴い、何らかの報酬のやりとりが発生したのかなど具体的な事実関係がわかりませんが、事実関係によっては、教え子に対しても、教唆、ほう助などの責任が生じ得ると考えます。
ただ、私は、この犯罪の成否を超えたところにいろいろ思うことがあります。
被疑者自身がどのような思いで塾講師の仕事をされていたのか、外側からはわかるものではありません。
そもそも、まだ捜査は始まったばかり。
何が事実かはわからないため、この報道を少し離れて考えてみたいのですが、塾講師という仕事は、教え子の人生のとても大事な局面で関わる存在であるといえます。
単に勉強だけを教えていればいいというよりは、教え子が、もしかしたら初めて自分で設定したかもしれない目標にたどり着くために、ときに、教え子の心が弱ったり、不安で押しつぶされそうになったりしたときに、精神的な支えになって、教え子に伴走するはずの存在でもあるはず。
うまくいかないことがあったとしても大丈夫。
何度失敗したとしても大丈夫。
受験というものは、人生の一つの通過点に過ぎず、目先の合否自体より、受験までの間自分がどうそこに向けて取り組んだか、何を学び、その通過点を経て、その後どう生きていくのかということこそが大事だという考え方もあること。
だから大丈夫。
そんなことを教え子に感じてもらうことも大切なことなのではないかなとも思うのです。
報道だけからは、まだ事実はわかりません。
でも、もし、本当に、被疑者が、報じられているような行為に及んでいたのだとしたら、被疑者のしたことは、教え子にとって、誤った道を作る側に回ったものとして評価されるのだと思います。
教え子の挑戦を助けたのでなく、教え子が受験過程で学び、挑戦し、受験結果から、成功体験、自分への信頼、さらなる挑戦への原動力、失敗から立ち上がる力などを体得する機会を奪ってしまったともいえるのだと思う。

報道によると、不正の発覚により、教え子のかたは、大学から合格を取り消されたとのこと。
まだ事実関係の全容は明らかではありません。
だからこそ、断定を急ぐより、何があったのかを静かに見つめたいと思います。
その過程で、仮に報じられたような事実があったことが判明したとしたら、何が当事者たちをこのような行為に向かわせたのかということも解明されるべき大事な問題であるはず。
今後の進捗に注目したいと思います。

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