リーガルエッセイ
公開 2026.05.25

カフェに置いてあるポーションミルクを大量持ち帰り…それって窃盗になる?

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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ドーナツ屋さんでの出来事

週末、子どもと出かけたときのこと。
ちょっとコーヒーでも飲もうかということになり、あるお店に入ったのです。
そのお店ではドーナツやドリンクを売っているのですが、レジから少し離れ、お店のかたからは見えにくい場所に、ポーションミルク、スティックシュガーなどが置かれていて、自分でとっていくシステムになっていました。
私たちは、ちょうどそのポーションミルクなどが置かれた台のそばに並んでいました。
すると、一人の男性がお店に入ってきました。
私の中の違和感センサーが鳴りました。
なんとなくその男性を見ていたところ、その男性は、注文の列に並ばないまま、ポーションミルクなどが置かれた台にあったお店のパンフレットのようなものを手に取り、その場で熱心に読み始めたのです。
でも、よく見ると、その目は、パンフレットの文字を追っておらず、ちらちらとレジにいる店員さんの方を観察しているようなのです。
引き続き私も観察。
すると、その男性は、パンフレットで自分の手元を隠すようにして、台に置かれたポーションミルクをガサっと5個くらい手でつかみ、自分のズボンのポケットに。
そして、またすぐに、手を伸ばして追加で5個くらい手でつかみ、ズボンのポケットに。
その後、今度は、スティックシュガーに手を伸ばし、10本以上をつかむと、またズボンのポケットに。
ポケットはすでにふくらんでパンパンになっています。
最終的にはパンフレットをその場に置き、足早にお店から出ていきました。
お店では何も購入しないままに。

一部始終、目の前で見ていた私と子ども。
ふと、子どもが「ママ、今のって何か問題ないのかな?」と聴いてきました。
私が「どう思う?」と問うと、子どもは、「うーん。だめな気がする。だってこのお砂糖とかは、お店でコーヒー買った人のためのものじゃないの?」と答えました。
私は、「あ、じゃあさ、お店でコーヒーをひとつ買いました。それだったら、ポーションミルクを10個もっていってもいいのかな?」と質問。
子どもは、「たしかに、それはちょっと悩む。私も、ミルクを2つ入れることあるかも。でも10個はちょっと多いんじゃない?おうちで使うために持って帰るとなると話は別じゃない?」と悩みます。

私は、今回目撃した男性の行為は、窃盗罪にあたる可能性があると思います。
まず、ポーションミルクやスティックシュガーは、明らかにお店の所有する財物。
無償提供されているからといって、それがお店のものであることには変わらないはず。
そして、お店は、お店の商品を購入したお客さんが、注文した飲み物に添えて使うことを許諾している。
だから、その範囲であれば、ミルクなどを手に取ることは犯罪を構成しない。
でも、その枠を超えた占有移転にはお店の許諾はない。
お店の商品を買わないのに、それらを持ち去って、家で使う、みたいな利用に関して店側が許諾しているとは考えられない。
だとすると、そのような行為は、窃盗罪にあたるといえるはず。
そのような認識があるからこそ、男性も、お店の人に見られないように警戒しながらミルクなどを急いでポケットに入れていたのだと思うのです。

ちょっと難しいなと思うのは、一応商品は購入しながら、かなりの量のミルクなどを手に取る行為。
どこまでがお店の許諾の範囲内なのかという線引きをするのってなかなか難しいですよね。
そういえば、昔、友達とカフェに行ったとき、その友達が相当な甘党で、「アイスコーヒーにはガムシロップ5個は入れないと飲めないのよ」と言いながら、すさまじい量のガムシロップを入れていたのを見たときに、お店の人に怒られないかとひやひやしたことがあったな。
1杯のコーヒーに砂糖やミルクをどの程度入れるのかということは、人によって常識が違うものだと思うので、「普通は1個。それを超えたら、お店は許諾しておらず、窃盗」というのも少し違うのだと思うのです。
ひとついえるのは、その人にとってその場で使う分だったのかという点がひとつの基準になるだろうということ。
(とはいえ、個数によっては、マナーの問題というのもあるような気はします)
飲み物を購入したからといって、その場で使う分を超えて、「最近は自分で買おうとすると高いしね」なんて言いながら家で使う分として持ち帰るという態様はお店の許諾の範囲を超えているといえるのだろうと思います。

ひとつひとつの金額も大きいとはいえないため、仮に複数持ち去ったことを発見したとして、お店も「それは窃盗です。警察に通報します」という対応をとらないことのほうが多いのだと思います。
でも、お店にとっては深刻な問題であるはず。
毅然とした対応をとりたくても、犯罪とマナーとの境界もややあいまいであるように見えることもあり、なかなかそれが難しい実態もありますよね。
そのような場合、「ドリンクをご購入のお客様のみ、おひとり様1個まで」などという注意書きをそばに掲示しておくのも一案かもしれません。

そういえば、この問題は、スーパーの袋詰めのスペースにある透明のビニール袋(あのロール状になっているもの)にもあてはまる話なのかもしれませんね。
たまに、ガラガラガラガラと店内に盛大な音を響かせながら手慣れた様子で大量のビニール袋を両手に巻き付けてご自身のエコバッグに入れて持ち帰るかたを目撃することも。
以前、あるスーパーで、そのビニール袋のそばに「これは、ひと巻き●●円します。購入した水分を含む商品を入れる際に必要な分のみのご利用にとどめてください。別途このビニール袋を販売いたしますので、お声かけください」というような注意書きがされているのを見たことがあります。

法律の話をあれこれ書いてきたけれど、私には、他の人の意識や物の使い方について物申したり、批判したりする資格もないわけで。
お客さんのこのような行為にいかに対応するかということも、お店が、どうお客さんと向き合うか考え、決めていく問題なのだと思います。
ドーナツ屋さんに入ってきた男性を、警察官のような目線で観察していた自分は、ちょっと意地悪かったなと反省。
結局のところ、私自身が自分基準をしっかりもち、わが子には、実はマナー違反を超えた法律の問題もかかわってくるということを伝えられればいいなというところに着地。
私は、日常生活において、「自分が必要な分だけを使う」「同じ場所を使う人のことを思う。」「お店の好意に感謝しつつ甘えない」そういうことを当たり前にできる人になりたいなと思った出来事でした。

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