リーガルエッセイ
公開 2026.06.03

生命保険社員らによる不適切行為の件

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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生命保険社員らによる不適切行為の件

先日、ある生命保険会社において、元社員を含む営業社員4人らが、顧客約30人に対し投資やもうけ話をもちかけ、不適切な金銭のやり取りをしていたことが判明したと報じられました。
被害金額はあわせて1億2030万にのぼるとのこと。

不正について考えるとき、いかに予防するか、いかに発見するか、発見された事象にどう対応するかという切り口があり得るところですが、今回は、予防を主軸にとりあげてみたいと思います。

まず、今回報じられた件は、複数の営業社員らによる顧客資金の不適切な受領が1億2000万円をこえる規模に及んだという点で、単なる個人の逸脱としてでなく、企業統治の問題として受け止められる必要があると思います。
特に、被害が顧客約30人に広がり、さらに会社が280万人の顧客を対象とする調査を要すると判断しているという事実は、不正が発生したときの損失が金額にとどまらず、顧客基盤と信用そのものに及ぶことを示していると思います。

不正の予防を考える上で有効なのが、不正のトライアングルという考え方。
不正は、動機、機会、正当化の3要素がそろったときに起こりやすいという考え方です。
つまり、不正は、「悪い人がいたから起きた」と片付けるのではなく、どのような要素が不正を生みやすくしたのかを見る必要があるのです。

本件に関し、一般論で考えると、まず、動機としては、営業成績へのプレッシャー、金銭的な誘惑などが想定されます。
営業現場では、成果が強く求められるほど短期的な数字を優先する空気が生まれやすいし、また、顧客との接点が多く、密になり、顧客の資力を把握し得る立場で、金銭的誘惑が生まれることも。
この動機の観点から予防の第一歩を考えるとすると、それは、過度に成果だけを重視する評価体制や数字を追うことを厳しく求める体制を見直し、行動の適正さや顧客対応の透明性なども評価対象に含めたり、相談しやすい環境を整えたりすることになるかと考えます。

機会の面では、顧客とのやり取りが、特定の担当者個人に集中し、会社の目が届きにくい構造などが想定されます。
金銭の受領や投資の勧誘が個人の裁量にゆだねられ、外から見えいにくい状態になると、不正は起きやすくなるし、その発見が難しくなる。
したがって、顧客からの金銭受領を明確に禁止するとともに、担当者と顧客のやり取り自体は密な一対一のものになるとしても、それをモニタリングする仕組み、顧客が担当者とのやり取りで抱いた違和感や不安を担当者以外の者に相談できる仕組みなどを検討する必要もあるのではないかと思います。
内部通報制度が十分に機能するようにすることも機会の観点から必要といえるかも。
内部通報制度は、現場の違和感を早期に把握し、不正を継続させないための装置。不正の機会を減らす役割を果たすといえるからです。

正当化を防ぐことも重要。
不正は、本人が、自分の行為を「顧客のため」「会社のため」「後で埋め合わせれば、一時的な金銭授受であれば問題なし」「給与が稼働に見合っていないのだから、顧客から直接金銭授受しても許される」などと正当化することで心理的なハードルが下がることで起きやすくなります。
ここは、行動規範を具体的に定め、違反があれば厳正に処分するという方針を明確に示すことが必要になるのだと思います。

もっともどれだけ予防を尽くしても不正を完全に予防することは難しい。
だからこそ、発見と対応の仕組みも必要になります。
早期に発見するためには、内部通報制度が実効的に運用される必要があるし、現場の違和感が経営層にまで届くようにしなければならない。
また、発覚後は、事実関係の迅速な確認、証拠の保全、被害拡大の防止、顧客等への説明と再発防止策の公表等を進めていく必要がある。

予防、発見、対応、いずれの段階についても、企業が、通常業務を遂行しながら十分な対応をしていくことは難しいものです。
どの段階における課題についても弁護士がお力になることができます。
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