リーガルエッセイ
公開 2026.06.08

刑事ドラマあるある場面についての考察

リーガルエッセイ_アイキャッチ_509
記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら

刑事ドラマあるある場面についての考察

刑事ドラマのあるあるを語るのが大好きです。
今日取り上げたいと思うのは、だれかの悪事を暴こうとしている主役側の人物が、犯人と思しき危険なだれかの家に、その留守を見計らって忍び込む、というあれです。
まあ、鍵は、家の前の植木鉢の下とか、ドアの上の枠のところとかにあるので、それを使うか、あるいは、ピッキングの腕がプロ並みだったりして、その侵入にはそこまで時間は割かれることなく、いとも簡単に中に入るわけです。
家の中に入ると、ほどなくしてデスクの上のパソコンを発見。
もちろん、ロックがかかっている。
そこで主人公は、画面を前にしばし考え込み、相手の誕生日らしき数字を入れてみたり、配偶者の名前を入れてみたりするのだけど、それらは、ことごとくはじかれる。
じわじわとBGMが緊迫した感じに。
そして、主人公は、部屋の中をぐるりと見回します。
そんなとき、棚の上の写真立てとか、机の引き出しの奥にしまわれた古い手紙とか、そういう「この人にとって、きっと特別なはずのもの」が目に入る。
もしくは、以前交わした会話が頭によぎる。
ハッとした顔で、もう一度キーボードに向かい、おそるおそる打ち込むと、ピロンと軽い音が鳴って、画面がすっと開く。
この流れで画面が開く確率100%。
私レベルで刑事ドラマを見てきた人であれば、ここで、「あ、来るな」と思うはず。
主人公が、USBメモリを差し込み、目当てらしきファイルをずるずると吸い出し始めたり、自分のメールアドレスにファイルを転送したりし始め、そうだな、そのデータ転送がだいたい50%を超えたあたりで、家主が予定外の帰宅という流れ。
そのサインは、車のエンジン音が駐車場あたりで聞こえるとか、玄関のほうから、こつこつと足音が聞こえてくるというもの。
そして、がちゃ、がちゃ、と鍵を回す音。
主人公の顔が、ハッとこわばる。
データ転送は、その時点で90%。
がちゃっ、とドアノブが回り、カメラは家主の視点に切り替わって、ゆっくりと部屋の中に向けられる。
しかし、そこにはもう、侵入者の姿はないのです。
あれだけぎりぎりだったのに。
あのタイミングで90%でしょう?
どうでもいい話ですが、アップデートのときとか、90%の壁ありません?
90%から100%になるまでって、「本当にこれ10%分の時間?」って思うことありませんか?
しかも、靴ってどうした?
玄関で靴脱いで家にあがったはずでしょう?
靴回収する時間あった?
そんな野暮なつっこみは絶対にしてはいけないのです。
こんなにもギリギリの状況でも、絶対に、絶対に、鉢合わせにならない。
それは、刑事ドラマのルールだから。
次のシーンは、たいてい、少し離れた路地で停めてあった車に飛び乗って、「あぶなかったー」とハンドルを握りながらつぶやいて走り去る場面に切り替わります。
まれに、ギリで外に逃げ出すパターンでなく、家の中のクローゼットの奥とか、ベッドの下とかに身を潜めて、家主が出ていくのをじっと待つパターンもあるのですが、もうあれは、心臓に悪すぎて、私はタイプではない。
最終的に絶対鉢合わせにならないのだから、ここらへんで無駄に時間と精神的な負荷をかけることは、「見せ場をもう一つ作る」という目論見が透けて見える気がして、視聴者の興ざめを招くリスクすらあると思っています。

さて、弁護士として、機会があれば、絶対に言わねばと思っていたことがあります。
ドラマの中では、絶対に刑事事件化しないので、もしかしたら、「これ、ありなの?」と思い、万が一にも子ども立ちが主人公にあこがれて真似してしまってはいけないと思うので言っておきたいのですが、主人公が、怪しい人物の家に無断で立ち入る行為、あれは、住居侵入罪です。
正義の側だろうが、家主の承諾もなく、人の住居に立ち入れば、それは立派に住居侵入罪が成立します。
「悪いやつの家だから」「証拠を押さえるためだから」というのは、刑法上の違法性を消してくれる魔法の言葉ではありません。
テレビの中ではなんとなくうやむやになって、そのまま正義が勝つ流れに乗っていきますが、現実の世界では、入った時点で、もう一線を越えているのです。
次に、パソコンの話。
他人のパソコンを勝手にいじる、という行為についても、実はけっこう論点があるところ。
不正アクセス禁止法違反に該当する可能性があるのです。
この犯罪は、簡単に言うと、ネットワークを通じて、アクセス制御されたコンピュータに他人のIDやパスワードを入力して使える状態にしてしまう行為。
なので、パソコンログイン後、社内サーバにつないで業務ファイルを開いたり、メールサーバにIDパスを入力してログインし、メールなどを閲覧したりすれば、不正アクセス禁止法違反に該当する可能性があります。
プライバシー権侵害にも該当しそうですね。
そのほか、家の中で何かを持ち出していれば窃盗罪。
デスクの引き出しのカギ部分を壊してこじ開けていれば器物損壊。
これら刑事ドラマのルールともいえる主人公の一連の行為は、ひとつひとつ法律のフィルターにかけていくと、もう、なんというか、罪状の見本市みたいなことになってしまうのです。
そして、私がもうひとつ、画面に向かって言いたくなることがあって。
人が、ついさっきまでその場所にいた、という気配って、絶対に部屋に残るものですからねということ。
勝手に動かされた椅子の位置。
わずかにずれたマウスパッド。
閉めたつもりでぴったり閉まりきっていない引き出し。
空気の流れ。
なんとなくのにおい。
自分の家であれば、ほんの少しの違和感でも、「あれ、なんかいつもと違う」と気づくもの。しかも、主人公は、さすがに指紋をふき取る余裕はなかったはず。
髪の毛なんて、簡単に数本落ちますしね。
電源を入れた形跡。
ログインの履歴。
転送先のメールアドレス。
デジタルの世界の足跡まで含めれば、もう、これでもかというほどの証拠を残して帰っているわけで、現実だったら、その日のうちに足がついているわけです。
ここら辺について、「これまで目をつぶってきたけど、そろそろルールもリニューアルして違和感解消に向けた対策を講じてほしい」と思っている人も多いのではないでしょうか。
リニューアルの提案といえばもうひとつ。
捜査側が、ようやく重要参考人を特定して、事情を聴くためにその人の自宅にたどり着く、という場面。
扉に手をかけると、100%、鍵が開いています。
「あ、開いてる…」と顔を見合わせる捜査関係者たち。
ゆっくりとドアを押し開ける。
その手には拳銃が握り占められている確率90%。
部屋の奥のほうで、その重要参考人が、すでに事切れている。
呆然として拳銃を構えた手を下す。
これも、もう本当に、そろそろリニューアルしませんか?
鍵が開いていた時点で、みんな、「あ、これは生きていないやつだ」と察してしまう。
私レベルになると、重要参考人が判明し、その写真が画面に映った瞬間、人相を見ればわかってしまう。人相というか、その重要参考人をどのような俳優さんが演じられているか次第というか。
そろそろ、鍵が開いていたからおそるおそる入ったら、本人がのんびりお茶を飲んでいて「あら、どうぞ」と言われる、くらいの肩透かしがあってもいいのではないか。
それくらい期待を裏切ってもらえると、こっちのモチベーションもあがるというものです。
もちろん、ドラマはドラマであって、そこに目くじらを立てて法律論をぶつけたり、自分があの場にいることを勝手に解像度高く想像し、少しでも違和感がある部分を嬉々として語ったりするのは野暮の極みであることは、重々承知しているのです。
フィクションの世界に自ら入り込んでいって、荒らして回るようなことはわれながら大人げないなとも思う。
ただ、おもしろみに欠けるやつだとか、融通の利かないやつだとか、だから友達がいないんだろうだとか言われても、それでも私は言いたいのです。
ああいう場面を「かっこいい」「正義のためなら仕方ない」と当たり前のように受け取り続けていると、現実の世界でも、「目的が正しければ、多少のルール違反は許される」という感覚が、知らず知らずのうちに、私たちの中に染み込んでいきはしないだろうかと。
正しいことをするためには、正しい手続きを踏む必要がある。
遠回りに見えても、令状をとり、手順を守って、証拠を積み上げていく地味な作業こそが、最後に真実を支えてくれる。
そんな当たり前のことを、ドラマのスリリングな場面の裏側で、一人でぼそぼそとつぶやいている弁護士が、画面のこちら側に一人いる、という話でした。

弁護士へのご相談予約で、
初回相談60分無料 ※ ご相談の内容によっては、有料となる場合もございます
些細なご相談もお気軽にお問い合わせください
弁護士へご相談可能な時間帯
平日:10:00~最終受付18:00 /
土日祝:10:00~最終受付17:00

こんな記事も読まれています

CONTACT

法律相談ご予約のお客様
弁護士へのご相談予約で、
初回相談60分無料 ※ ご相談の内容によっては、有料となる場合もございます
些細なご相談もお気軽にお問い合わせください
弁護士へご相談可能な時間帯
平日:10:00~最終受付18:00 /
土日祝:10:00~最終受付17:00
弁護士へのご相談予約で、初回相談60分無料 ※ ご相談の内容によっては、有料となる場合もございます
弁護士との初回面談相談60分無料 ※ ご相談の内容によっては、有料となる場合もございます