リーガルエッセイ
公開 2026.06.19

「付審判請求」について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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付審判請求というものについて

先日、ある報道に目がとまりました。
大阪地検特捜部が手がけた業務上横領事件で、取調べをめぐり告発されながら不起訴となった元検察官について、無罪が確定した元被告人の方が「裁判を開いてほしい」と求めていた、いわゆる付審判請求が、大阪地裁により棄却された、という報道です。請求された側は不服申立ての方針とのことでした。
この「付審判請求」という言葉、法律家以外の方にはあまり馴染みのないものかもしれません。今日は、この制度について、できるだけ平らな言葉で、お話ししてみたいと思います。

まず、出発点として、日本では、刑事裁判にかけるかどうか(起訴するかどうか)を決めるのは、原則として検察官だけです。
検察官が「起訴しない」と判断すれば、その事件は刑事裁判の場に出てきません(検察審査会の話は今回省きますね)。
しかし、当の被疑者が公務員、とりわけ職権の濫用が問われるような事案では、検察官が身内ともいえる相手をきちんと訴追できるのか、という懸念が、どうしても出てきます。そこで、検察官の不起訴処分をチェックする仕組みのひとつとして用意されているのが、この付審判請求です。

対象となる犯罪は、限定されています。具体的には、公務員職権濫用罪(刑法193条)、特別公務員職権濫用罪(同194条)、特別公務員暴行陵虐罪(同195条)など、公務員がその職務に関連して行ったとされる一定の犯罪に限られます(刑事訴訟法262条1項)。今回の報道で問題となった「特別公務員暴行陵虐」も、この枠の中に入る犯罪です。

手続の大まかな流れは、次のとおりです。まず、告訴・告発をした人が、検察官の不起訴処分に不服がある場合、その処分の通知を受けた日から原則として7日以内に、検察官を経由して、事件を管轄する地方裁判所に対し、「事件を裁判所の審判に付してほしい」と請求します。これが、付審判請求です。
請求を受けた地方裁判所は、必要な事実の取調べを行ったうえで、請求に理由があるかどうかを判断します。理由がないと判断すれば「棄却決定」、理由があると判断すれば「事件を裁判所の審判に付する旨の決定」、いわゆる付審判決定をします。今回の報道で大阪地裁が出したのは、前者、すなわち棄却決定であったということになります。

付審判決定が出ると、その事件については、公訴の提起があったものとみなされます。要するに、検察官が起訴しなくても、裁判所の決定によって、刑事裁判が始まる、ということです。そして、その公訴の維持にあたるのは、検察官ではなく、裁判所が指定する弁護士です。検察官の判断を、いわば外側から覆すための、かなり強い制度設計になっているといえます。今回の報道にも登場する、別の元検察官の方が刑事裁判にかけられているのは、こちらの付審判決定がなされたためです。

もっとも、付審判請求が実際に認められる例は、極めて限られています。認容(付審判決定)に至るのは年に数件あるかないか、というレベルの、非常に狭き門であるというのが実情です。それだけ、検察官の不起訴判断を裁判所が覆すというのは、重い判断であるということでもあり、また、それでもなお市民の側にこの道が開かれていること自体に、この制度の意義があるのだろうと、私は思います。

弁護士として日々事件に向き合っていると、刑事手続というのは、検察官という一つの役所の判断に、ずいぶん多くのことが委ねられているのだな、と感じる場面が少なくありません。だからこそ、その判断を、別の角度から問い直すための回路が、細いながらも法律の中にきちんと用意されていることを、弁護士としては、しっかり頭に置いておき、必要に応じてその制度を使う必要があるという当たり前のことを改めて考えさせられました。

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