リーガルエッセイ
公開 2026.06.29

発達障害診断を装った詐欺について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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留学費用名目の詐欺

先日、ある報道に触れ、しばらく言葉を失いました。医師免許を持たない人物が、相談に訪れた中学生の女の子を「発達障害」と診断したうえで、「同じようなお子さんも留学して成功している」などと言葉巧みに語りかけ、その母親から留学費用の名目で2000万円近い金銭をだまし取ったとして逮捕された、という事件。
この報道だけからは、その女の子がどのようなことについて相談を必要としたのか、この人物がどのような経緯で相談先として選ばれたのか、お母様がどのような経緯でこれほど大きな金額を払われたのかということを読み取ることはできません。
ですので、報道されたこの件について具体的なコメントをするべきではないのだと思っています。
私は、この報道から完全に離れ、一般論として「もし、子どもが抱えている発達の課題、日常生活で抱える困りごとに悩む親がいたとして、その親に、『この子を海外留学させると、今の困りごとがなくなって、親御さんもお子さんも生活が一変しますよ』とうその話を持ち掛けて金をだましとろうとする者がいたとしたら?」と考えてみました。
発達に課題があるといっても、その状態は本当にさまざまで、ひとりひとりまったく違うはず。そして、その子自身が毎日の生活で何かに困っているのか、何に困っているのか、そのわが子をどのように見て、感じて、どう向き合っているかという親御さんの思いもまた、ひとくくりにできるものではないと思います。だから、一般化して語ることには慎重でありたいと思うのですが、それでも思うことがあります。
それは、「自分に何かあったときに、この子が困りごとなく、毎日を穏やかに、幸せに過ごしていけるように」という親としての願い。
私は、こう思う。
もし、その海外留学によって、わが子が、今抱えている困りごとが課題などではならなくなるなら、親がいなくても、自立して、不安を抱えることなく、幸せに生きていく力がこの子に身につくのなら、自分の持っているすべてをつぎ込んでも全く惜しくない、と。
自分で、子どもにその力を身に着けさせてあげることができれば一番いいのだけど、私には、そのための専門的な知見があるわけでもないし、そのための十分な時間の余裕があるともいえない。
どこかに信頼して預けることができて、その間にこの子が一生を幸せに生きていくための、まるで魔法のようなスキルを身に着けてくれる場所があるなら。
そこに預けることによって、私自身にも少しだけ時間ができて、子どもに、より穏やかに向き合えたり、自分だけのために使える時間が少しでももてたりするかもしれない。
そう願う気持ちは、私にとって、ささやかな「救い」のようなものになるのではないかと思う。
私が想定した、発達に課題を抱える子を持つ親に近づく詐欺を企てる事業所や個人は、その「救い」を、見透かしたうえで、それを利用しながら犯行に及ぶのだろうと感じます。
「発達に課題を抱える子の留学支援」という看板や「同じようなお子さんも成功しています」という言葉は、知識のない人が思いつきで並べたものではなく、親たちが何にすがりたいと思っているのか、何を言われたら一歩踏み出してしまうのかを、よくよく理解した上で組み立てられているように思える。
だからこそ、私はそのような事案を、単なる詐欺事案として処理してほしくない。
被害金額の大きさだけではなく、長い時間をかけて積み上げられてきた一人の親の祈りのようなものに、土足で踏み込み、それを利用して金銭を引き出している、その構造そのものの悪質さを、丁寧に見て、厳しくその刑事責任を問うてほしいと思うのです。
発達に課題のあるお子さんを育てるご家庭、医療的ケアの必要なお子さんを育てるご家庭、不登校のお子さんを育てるご家庭。
いわゆる「困っているところ」「藁にもすがりたいところ」に向けて、高額な「支援」「プログラム」「教材」「留学」「セミナー」などの形で接近していく事案。
「この子のために」という親御さんのもっとも柔らかい部分に手を伸ばしてくる、という犯罪に対し、私は、許しがたいという言葉では足りないほどの憤りを覚えます。
弁護士としてできることは、起きてしまった被害について、刑事手続の中で正当な処罰を求めること、民事手続の中で支払った金銭の回復を試みることが主なものになるのかもしれません。
でも、私は、被害を防ぎたい。
そのために、わが子を思う親御さんが、悪意をもって者に接近されたとき、一瞬立ち止まって周囲に相談してみようと考えるきっかけを作りたいと思っています。
私は、弁護士としてなのか何なのかよくわからないけど、細々とした活動になるとは思うけど、そのようなお話を、わが子を思い、祈るような気持ちで日々がんばっている保護者のかたにする時間を作っていきたいと思っています。

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