リーガルエッセイ
公開 2026.06.30

ノンアルコールビールでも飲酒運転になる?

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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「ノンアルだから大丈夫」は通るのか

私は、20代のころは、かなりお酒を飲んでいた方だけど、今ではお酒は年に一度飲むか飲まないかという程度で、飲むとしてもごく少量です。
そんな私がノンアル飲料を口にすると、仕組みは全くわからないけれど、まるでお酒を飲んだかのようなふわっとした気分になるのです。
本物のお酒を飲んでいる人と比べても、だれよりも陽気になる自分に、自分でもびっくりする。
人の話がおかしくておかしくて、涙を流しながら笑ってしまったり、笑いながら、そのハッピーな感情を一人では処理しきれなくなって、隣に座る人の肩を強めな力でバシバシ叩いたりしてしまう。
とにかく雰囲気に流されやすい性格に起因するのかもしれません。
私は車の免許をとうの昔にうっかり失効させていて、運転センスも壊滅的で再取得も100%無理なので、その点で無関係な話ではあるのだけど、もし免許を持っていて運転できる立場だったとしたら、飲んだものがノンアル飲料だったとしても、その日は絶対運転してはいけない人間だろうな、と思っています。

先日、ある報道に目が留まりました。
未明に車を運転していた人が、ふらつき運転を警察官に見つかり、呼気検査の結果、呼気1リットルあたり0.25ミリグラム以上のアルコールが検出されて、酒気帯び運転の疑いで現行犯逮捕された、という事案です。
ご本人は「ノンアルコールビールを4本飲んだ。飲酒運転になるとは思っていなかった」と否認しているとのこと。
この「ノンアルだから飲酒運転になるとは思わなかった」という弁解は、果たして通用するのか。
この事案については、報道されている以上の事実がわからないので、具体的なコメントを避け、この事案を離れた一般論として考えてみたいと思います。
まず、出発点として、酒税法上の「酒類」の定義。
酒税法は、「酒類」とは「アルコール分1度以上の飲料」をいうと定めています。
ここでいう「1度」とは、アルコール分1%(容量比)と同じ意味。
酒税法上の「アルコール分」は、温度15度のときにおいて原容量100分中に含有するエチルアルコールの容量(度数)とされていて、要するに度数=容量パーセントという理解でいいのだと思います。
市販のお酒のラベルに「アルコール分5%」「5度」と並んで書かれているのは、このため。
つまり、法律上「酒」とそうでないものを分ける線は、アルコール1%というわけ。
ここで注意したいのが、世にいう「ノンアルコール飲料」の中身。
日本では、酒税法上の酒類に当たらない、すなわちアルコール分1%未満の飲料であれば、「ノンアルコール」「ノンアルコールビール」などと称して販売することができます。
裏を返せば、「ノンアル」と銘打たれていても、0%とは限らず、0.5%、0.9%といった、ぎりぎり1%未満のアルコールを含む商品も存在するということ。
完全にアルコールを含まない「アルコール分0.00%」表記の商品もあるけれど、これは商品ごとに表示を確認しなければ分からない。
したがって、「ノンアルと書いてあったから、アルコールはまったく入っていないと思った」という弁解は、それ自体としてはかなり危うい前提に立っているといえるでしょう。
「ノンアル=ノーアルコール」ではないから。
だから、アルコールを口に入れてないよ、と言うには、単に、「ノンアル飲料だと思った」じゃなくて、「その日飲んだものは、『アルコール分0.00%』であることを確認したよ」とか、「お店の人にそれを確認したよ」という説明しないと意味をなさないのだと思います。
検査の結果、呼気1リットル中0.25ミリグラム以上の数値が出たとしたら?
これは、酒気帯び運転の基準である0.15ミリグラムを大きく上回る水準で、感覚的にもそれなりの量を飲んだことがうかがわれる数字。
仮に本当にアルコール分0.00%のノンアル飲料しか口にしていないのだとすれば、理屈の上ではこの数値はまず出ないはず。
じゃあ、酒類には該当しない、1%未満のアルコールを含む飲料だったとしたら?
この点、専門家でない上に数学が人一倍苦手な私が机上で計算したところによれば、たとえば1%近いアルコールを含む「ノンアル飲料」を中ジョッキ程度のグラスで何杯も重ねていけば、純アルコール換算では、通常のビールを1本程度飲んだ場合と同じくらいの量を体内に入れている計算になる気がする。
そうすると、個人差や体格、飲むペース、空腹具合といった条件次第では、酒気帯び運転の基準である呼気1リットル中0.15ミリグラムに達することは十分にあり得るし、0.25ミリグラムに届く可能性も、理屈の上ではゼロとは言い切れないということになるのでは?
もちろん、ここはあくまでも机上の計算であって、実際の数値は商品ごとのアルコール濃度や本人の体質によって変わってくると思います。
それでも、ここから言えそうなのは、「ノンアルだけしか飲んでいない」が事実だったとしても、その商品が0.00%でない限り、酒気帯びの基準を超え得る場面はあり得る、ということ。
そうなると、次に問題になりそうなのが、故意の有無です。
酒気帯び運転の故意については、自分の体内にアルコールが残っている可能性の認識があれば足りるとされていて、呼気中のアルコール濃度が具体的に何ミリグラムかまでを認識している必要はないと考えられています。
そうすると、「ノンアルだからアルコールはまったく入っていないと思っていた」と本気で信じていたといえるかが、故意の認定の分かれ目になってきそう。
もっとも、すでに見たとおり、「ノンアル」と銘打たれた商品にも1%未満のアルコールを含むものがあることは、それなりに知られた話。
そうした前提のもとで、0.00%であることを確認しないまま「ノンアル」だけを根拠にアルコールゼロだと思い込んでいた、という説明が、どこまで通用するか。
ここはなかなか難しいところで、結局のところ、商品の選び方、確認の仕方、飲んだ量、運転までの時間といった具体的な事情を一つひとつ積み上げて評価していくことになるのだろうと思います。
いずれにしても、捜査機関の側も、「本当にノンアルしか飲んでいないのか」「同席者の飲み物と取り違えていないか」「店内の防犯カメラやレシート、注文履歴はどうなっているか」といった点を、詰めていくことになるはず。
つまり、「ノンアルしか飲んでいない」という前提自体が、客観的な裏付けの対象になるということです。
以上を踏まえると、「ノンアルだから飲酒運転になるとは思わなかった」という弁解が、そのまま免罪符として機能するわけではないのだと思っています。
もっとも、ここまでは法的なラインの話。
私がもう一つ、強調しておきたいのは、その手前のリスク予防の話。
冒頭で書いたとおり、アルコール分0.00%の完全ノンアルであっても、その雰囲気や味、飲む場の空気だけで、気分が高揚して、普段はしないような発言や判断をしてしまうなんてこと、ありませんか?
私だけなのでしょうか?
仮に、私以外にも、0.00%のノンアル飲料で、酔ったような状態になるという自覚がある方がいれば、法的にどうかということではなく、気を付ける必要があるのだろうなと思います。
「法的にはぎりぎりセーフかどうか」という発想で行動を組み立てると、その「ぎりぎり」の線を一歩でも踏み外したとき、失うものはあまりに大きい。
免許、職、社会的信用、そして場合によっては人の命。
だから、「ノンアル飲料」と「車のキー」は、そもそも同じテーブルに乗せないほうがよい、という考え方もあるのではないかと私は思います。

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