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借りたものを、返す。
先日、レンタカーを借りた男性が期限を過ぎても車を返さず、横領の疑いで逮捕された、という報道に触れました。
報道によれば、2日間の約束で借りた車を10日ほど乗り回し、最終的には自ら警察に出頭したとのこと。
事実を認めているとも報じられていますが、私はここで、この個別の事件についての評価を述べたいわけではありません。
報道だけからは、その方がなぜ返さなかったのか、どのような事情があったのかを十分に読み取ることはできないからです。
ここでは報道から少し離れ、「借りたものを返さない」という行為が、法律上どう扱われ得るのかを、一般論として考えてみたいと思います。
そもそも、レンタカーを借りるというのは、料金を払って車という他人の物を一時的に預かり、約束した期限に返す、という関係に立つことを意味します。
つまり、借りている間、その車はあくまで貸主の所有物であって、利用者は「他人の物を預かって占有している」立場にあります。
この、他人の物を預かって占有している者が、その物を自分のものであるかのように扱ってしまうこと、それこそが、横領という犯罪が問題にする場面。
期限を過ぎても返さず、連絡にも応じないまま乗り回し続ける、といった行為が、なぜ単なる契約違反にとどまらず「横領」と評価され得るのかというと、そこに、預かっているはずの車を自分の物のように支配・利用してしまっている、という側面が見て取れるからです。
もっとも、ここで大切なのは、期限を過ぎたからといって直ちに横領になるわけではない、という点です。
横領といえるためには、後で改めて触れますが、その物を自分のものとして扱う意思が必要であり、そこが、よくある「うっかり」とのわかれ目になってきます。
そういえば、と少し脱線します。最近、レンタルビデオというものを、私はめっきり借りなくなりました。
昔は、週末になると店に立ち寄り、棚の間を歩きながら、漫画20冊と映画2本くらい借りて、子どもが寝た後、深夜にかけて読み、観るという生活だったけれども、今は、定額制の配信サービスを利用しているため、レンタルビデオ屋さんに行くということ自体が本当に少なくなりました。
でも、先日、私が利用している配信サービスでは観ることのできない映画があって、久しぶりにレンタルビデオ屋さんに行ったのですが、「物として借りて、返す」という行為がなんだかとても久しぶりな気がして、どこか懐かしい感じがしたところでした。
さて、その「借りて、返す」レンタルビデオを、うっかり返しそびれてしまったらどうなるのでしょうか。
借りたディスクは、あくまで店から預かっているものです。
これを自分のものとして扱ってしまえば、理屈の上では横領罪の問題になり得ます。もっとも、横領罪が成立するためには、単に手元に物が残っているというだけでは足りず、その物を自分の所有物のように利用・処分しようとする意思、いわゆる不法領得の意思が必要とされ、かつ、それを認識して行うという故意も必要とされます。
そうすると、「返さなければと思いながら、つい棚に置いたまま忘れていた」というような、いわゆる『うっかり』の場合には、不法領得の意思や故意を欠くと評価される余地が大きく、直ちに犯罪が成立すると考えるのは難しいように思われます。
実際の運用としても、返却を忘れている利用者に対しては、まず延滞料の請求や返却の督促という民事上の対応がとられるのが通常であり、いきなり刑事事件として扱われるわけではない、というのが一般的ですよね。
では、レンタルビデオをめぐって横領罪や詐欺罪が問題になり得るのは、具体的にどのような場合でしょうか。
横領罪が現実的に問題となり得るのは、たとえば、督促を受けても返す意思を明確に示さず、借りたディスクを売却したり、他人に譲渡したりするなど、自分の物として処分する行為に及んだような場合が考えられます。
返す意思がないことが外形的にも明らかになった段階で、不法領得の意思が認められやすくなる、という整理。
他方、詐欺罪が問題となり得るのは、借りる時点から返すつもりがなく、最初から騙して借りようとした場合。
たとえば、他人名義や架空の情報で会員登録をして商品を借り受けたようなケースでは、店をだまして物の交付を受けたものとして、詐欺罪が検討される余地があります。
こうして考えてみると、冒頭のレンタカーの件にも、同じような視点が当てはまるように思います。
レンタカーも、借りて返すという形の点ではレンタルビデオと変わりません。
返却日をうっかり失念していた、というだけであれば、直ちに横領と評価するのは難しい場面もあるでしょう。
ただ、あくまで一般論ですが、車とレンタルビデオが同じように考えられるかというとやや疑問。
車とビデオについて、どちらの価値が高いか、ということではなく、一般的に考えて、その大きさとか用途とか保管にかかるコストとか考えたとき、車の場合は、うっかり返し忘れパターンというものが考えにくいのではないかと思います。
借りたものを返す、という当たり前のことの背後には、相手の物を預かっているという信頼関係があります。
それが守られることが当然という前提が崩れてしまうと、ビジネスとして維持させるために、レンタル料金をより高額なものにしなければならないといったことにもつながるのではないか?とも思う。
そういえば、またまた話はそれますが、ビジネスとは関係ない、プライベートで、物理的な物を貸し借りする機会って本当に少なくなったなと思います。
子どものころは、消しゴムなど文房具の貸し借り、読み終わった本の貸し借りなどが結構あったように記憶しているのだけど、大人になってからはそれ自体少なくなったし、何かをお借りしたときに、貸してくださったかたが「あ、それ、返さなくていいですよ。差し上げます」みたいに言ってくださることが増えたような気がするのです。
子ども時代は毎日学校や近所で会うから、借りた物を返す機会があったけど、大人になると、わざわざ約束して会おうとしないと、返す機会自体がないということも関係しているのかな。
そんな感じで、ふと考えてみると、私は、周囲のかたから、本来お返ししなくてはいけない物をいただいてるような気がします。
法的にそれを返す必要があるかどうかではなく、いただいたご恩をお返ししたり、別のどなたかに恩送りをしたり、そういう意識を大事にしなければ。
レンタカーの横領事案からはちょっと遠いところに着地してしまいました。
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