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「数分の遅刻」から見えるもの
先日、ある市の職員が、勤務開始時間に数分ほど遅れて出勤していたにもかかわらず、システムの管理者権限を使って“遅刻ではない出勤時間”を自分で入力していた、という報道を目にしました。回数は月に一度から数回、遅れた時間も一分未満から数分程度。処分は戒告にとどまったようですが、私はこの記事を読んで、ふと立ち止まってしまいました。
勤怠のごまかしについては、いろいろな会社で起きている話を聴きます。
出勤していないのに出勤したことにする、といったものであれば誰もが「これはまずい」と感じるのでしょうが、数分単位の話になると、「それくらい」「目くじらを立てるほどでもない」と、あまり重く受け止められないことも少なくないように感じます。
けれども私は、こうした小さなごまかしこそ、大きな不正の入り口なのではないかと思うのです。
そもそも、勤怠の不正とは何なのか、と改めて考えてみます。
決められた時間にきちんと働くことを前提に給与が支払われている以上、働いていない時間を働いたことにして記録するというのは、本来なら遅刻として控除の対象にもなり得た時間を、働いたことにして受け取ることを意味します。
つまり、勤怠のごまかしは、突き詰めれば給料の不正な受給という側面を持つ、と整理できるのだと思います。数分だからといって、その性質そのものが変わるわけではありません。金額の大小の問題ではなく、「働いていない時間を働いたことにする」という構造そのものに問題があるのだ、と考えられます。
では、そもそもなぜこういうことをしてしまうのか。おそらく本人の中には、「これくらい他の人もやっているだろう」「自分は普段から会社に貢献しているのだから、これくらいで責められる筋合いはない」「どうせ数分のことだからばれない」といった思いがあったのではないかと想像します。これらは、不正を語るときによく用いられる「不正のトライアングル」でいうところの、「正当化」や「機会」の要素にほかならないように思います。自分を納得させる理屈があり、権限やシステムといった不正を実行できる環境が揃っているとき、人は思いのほか簡単に一線を越えてしまうのだと思います。
そして厄介なのは、こうした「正当化」と「機会」は、いったん機能し始めると、そこにとどまってくれるとは限らないという点です。
「数分だから」で許された感覚は、やがて「十数分でも」「一時間でも」へと、いつのまにか基準をずらしていく。
今回の件そのものは小さく見えるかもしれませんが、より深刻な不正へとエスカレートしていく土台は、十分に備わってしまっているのではないか、と私は感じます。
だからこそ、入り口の段階で立ち止まることに意味があるのだと思うのです。
では、どう対応すればよいのか。ここで「厳罰に処せばよい」で終わらせるのは、少し違う気がしています。
まず、記録の改ざんを可能にする権限の設計を見直すこと、勤怠のチェックが特定の個人の裁量に委ねられすぎないようにすることといった、「機会」を減らす仕組みづくりは欠かせません。
あわせて、「これくらいなら」という「正当化」の芽を、組織の中で放置しないことも重要。
具体的には、何をすればいいのか。
まず思いつくのって、小さなごまかしを、小さいからと見過ごすのではなく、なぜそれが問題なのかを言葉にして共有していく、つまり、コンプライアンス研修的なものを実施することなのだと思います。
でも、私は、そのようなことは、やらないよりはやったほうがよいけど、やったとて、結局その効果がどこまであるかというと、まったくもって足りず、経営側の表面的な満足で終わるだけの話だと思う。
それがいかに問題かなんてことは、やっている本人だって、頭で理解している場合がほとんどだから。
それなのに、「こういう行為は、~だから問題なのです」などと言われても、「ああ、またきれいごとか。また形だけ整えようとしやがって」となるだけなのではないか。
私は、そのような研修を繰り返すだけではなくて、経営側において、「頭で考えれば悪いことだとわかるようなことを、この従業員にさせたその原因はどこにあるのか。組織内に、この従業員に『これくらいやったっていいんだ』と思わせる原因となる正当化要素が潜んでいるのではないか」と考える必要があるのだと思います。
一従業員に帰責させることは簡単だけど、それを繰り返していても、組織内の問題があぶり出されることはないはず。
私は、勤怠不正は全然小さい不正だと思わないけれど、一見、小さいとも捉え得る不正が起きたことをきっかけに、将来の大きな不正を防ぐことができるなんて、会社にとってこれを逃してはいけない大事な機会なのだという受け止め方ができるのかどうか。
数分のごまかし。
その数分に何が表れているのかを丁寧に見ていくことは、決して大げさなことではないのだろうと、私は思っています。
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