リーガルエッセイ
公開 2026.09.17

ベッド転落と、階下への騒音

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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ベッド転落事件と階下への騒音

最近、就寝中にベッドから転落する事件が発生しました。

深夜のことです。

突然、ものすごい音とともに、体が床にたたきつけられる衝撃。

何が起きたのか一瞬わからなくなったのですが、ベッドから転落したことがわかったときに感じたみじめさといったら。

翌朝は、昨夜の転落を思い出しつつも、「てへ、やっちゃった」というような軽い感じで乗り切ることとし、すぐに、そのみじめな転落事件を記憶から抹消したのですが、翌々日あたりに、両腕や腰に謎の大きな青あざができていることに気付き、それに伴い、腫れと痛みも生じ、起きた出来事の重大性に気付かされたのです。

そして思ったのは、「私の体がこんなにも大きな衝撃を受けたのだとすると、階下のかたにはとんでもない迷惑をかけたのではないか」ということ。

だって、深夜寝ていたら、突然頭上で50キロもの重い塊が落下したという事象だったはずなのです。

もしかすると、地響きみたいなものもあったのではないか。

居てもたってもいられなくなり、「50キロの塊が床に落ちた場合、階下ではどの程度の騒音レベルになるか」と検索。

当たり前ですが、その建物の構造によるとのこと。

そして、私の住まいの構造から想像するに、私の転落により階下に生じた騒音は、50㏈程度であった可能性がありそうということが判明。

環境省の騒音にかかる環境基準には、夜間45㏈以下という数値もあるらしい。

もっとも、地域や測定方法による話であり、単発の落下音にそのまま当てはめられるものでもなさそうです。

それでも、丑三つ時に50キロの塊を落とした側としては、楽観してよい話でもありません。

とんでもない事態です。

騒音被害に関し、不法行為に基づく損害賠償請求をするという場合、その騒音が、受忍限度を超えているかという評価をすることになり、その受忍限度の範囲内か否かの評価は、音の大きさ、音質、発生時間帯、頻度や継続時間、加害者が防音対策をしているか、回避可能性がどの程度あったかなどという要素を考慮して行うことになるのだと思います。

私の場合、発生時間帯は丑三つ時のころ、そして、音量としては、おそらく50㏈程度、音質としては、すさまじい衝撃音。

でも、その夜転落したのは1回きりだったし、衝撃音は短い、継続性のないものではあったはず。受忍限度を超えていたとは言いにくいはず。

そもそも、故意や過失もないといえるのではないか。

ただ、この点に関し、われながら不利だと思う点も。

実は、数週間前にも一度就寝中転落前科があるのです。

そうなると、故意はともかく、過失の有無については急に雲行きが怪しくなってくるのだと思います。

しかも、そのときは、反省したり落ち込んだりするどころか、あろうことか、周囲に、「ベッドから転落しちゃったちょっと間抜けなところもある私」をあざとくアピールをするなど、到底真摯に受け止めたとはいい難い態度でその事件に臨んでしまったのです。

もちろん、なんら回避措置も検討していなかったし、そもそも階下の方へのご迷惑など頭をよぎりもしなかった非情さ。

そのような件を経ての今回となると、今回の件もあわせて2回ということが「頻繁」であるとか、「継続していた」とかなどと評価されることはないにしても、強く非難されるべきことだと思うし、二度とご迷惑をおかけしないように何か対策を講じるべきなのだと思います。

直ちに、今回転落した床部分に毛布を何枚か敷き詰めてみました。

これで仮に転落しても音は和らぐはず。

転落を防止するために、柵のようなものを設置することも要検討。

さらに、それでも柵を乗り越えたり、柵ごと転落したりというリスクもぬぐえないとなれば、そもそも転落しないように、当面、ベッドでなく床で寝るという根本的な対策も必要になるのかもしれません。

あわせて、当然のことですが、遅ればせながら階下のかたには、状況と再発防止策も含め報告し、お詫びする必要もあると思っています。

その必要性をわかっていながら、それがあまりにも恥ずかしく、なかなか実行に移せずにいますが、自分が逆の立場だったら、丑三つ時の衝撃音に、何事だろうと不安になってしまうだろうし、もし睡眠を妨害されていたらそのことに猛烈に腹が立つと思う。

もはや、恥ずかしいなどと言っていられない事態。

ベッド転落による騒音事案というものがどの程度あるのかはわかりませんが、近隣の音によるトラブルというものは、ときに刑事事件にも発展することのある深刻な問題です。

音については、人によってその感じ方に大きく差があるところだと思います。

また、それぞれの人が置かれた環境、たとえば、自宅にいることが多く、一人で静かに過ごすことが多いかたと、あまり自宅にいることがないかただったり、たくさんのご家族と、常に音がしているにぎやかな環境で生活しているかただったり、そのような環境の違いによって、同じ音でも受け止め方は違うはず。

だからこそ、音を発生させてしまう側で、自分が加害側になり得るという意識をもちづらいところだと思うし、そのことが、トラブルを深刻化させてしまうこともあると思います。

多くの方にとって安心できる場であるはずの住まいが、法的トラブルの舞台となるのはとても苦しいことです。

自分が立てている音というものや、それが他人にどう受け止められる可能性があるかということについて、ときには振り返ってみることが大事なのかもしれません。

以上、再発防止策を講じるべき騒音源より、大いに自戒を込めて。

後日談。

この話を、かつて通っていた高校で数学を教えてくれていた大好きな先生にお話ししたら、「E=mghなので、hが重要だと思う」という謎メッセージとともに、「いずれにしても何か事件を起こしたときは、必ず再発防止策をきちんと相手に説明できるようにしなくてはならない」というお言葉もいただく。

「それ、なんの暗号ですか?」と返信しようとして、この先生は、考える前に質問してくることに厳しかったことを思い出す。

一応調べてみようと思い、リサーチ。

すると、「E=mgh」とは、位置エネルギーなるものを算出するための公式であると知り、先生が、かつて理系科目の勉強に苦戦していた私に、30年ぶりに改めて勉強するようにと言ってくださっているものと理解。

ベッドの高さは67センチ。

公式にあてはめると、位置エネルギーは328.3J(「ジュール」なる単位だそうです)。

算出してはみたものの、その位置エネルギーが意味するところが全くわからず、いったんAIに投げかける。

すると、「このエネルギーは、5キロのボウリングの球を2.2メートルの高さから落としたときの衝撃とほぼ同じであり、階下にはズシーンまたはドスンと重い低音と大きな振動を与えた可能性が高いです。階下には強い不快感を与えた可能性が高く、トラブル発生不可避であると考えます。早期の対策が求められます」という恐ろしい忠告が表示される。

やはり思っていた以上に深刻な事態のようです。

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