リーガルエッセイ

公開 2020.06.03 更新 2021.08.13

裁判所が、勾留決定への準抗告を棄却 ― 京都アニメーション放火殺人事件

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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36人が亡くなった京都アニメーション第1スタジオの放火殺人事件の被疑者として逮捕された男性について、裁判所が勾留決定をしたのですが、これに対し、弁護人が、勾留決定の取り消しを求めて準抗告したというニュースが報じられました。
裁判所は、この準抗告を棄却したとのこと。
結論としては、被疑者の身柄拘束がひとまず10日間続くということになります。

今回は、勾留決定に対する準抗告を取り上げてみたいと思います。

そもそも勾留はどのようなときに認められるの?

準抗告というのは、裁判所が行った勾留決定に対して不服がある場合に勾留決定を取り消してくれと求める手続きです。

準抗告の前提となる勾留というのは、逮捕に引き続き行われる身柄拘束です。
昔、私が大好きだったドラマで、検察官が、被疑者を取り調べた結果、「はい、あなたを勾留します!」と告げるシーンがあったのですが、勾留を決めるのは実は検察官ではありません。
検察官からの「この被疑者については、勾留してください」という請求を受けた裁判官が決定します。

そして、裁判官は、勾留するかどうかを決めるとき、検察官の勾留請求は、勾留の要件を満たしているかを判断しなければなりません。
具体的には、①被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるか②つぎのいずれかの要件にあたるかⅰ定まった住居がないⅱ罪証隠滅のおそれがあるⅲ逃亡のおそれがある③勾留の必要性があるか、という点が検討されることになるのです。

私自身の経験では、この裁判官の判断は、とても緻密に行われるという印象があります。
ですので、検察官として勾留請求するにあたっても、たとえば、単に、「この事件では、被疑者が罪を逃れようと罪証を隠滅するおそれがあります」などという説明を書いただけではとても要件を満たすという判断をしてもらえず、たとえば、「この事件の事実関係を解明して処分を決するためにはこういう証拠の獲得や被疑者の知人である○○の取り調べが必要になる。
しかし、捜査機関は、まだその証拠を発見できておらず、○○との接触もできていない。被疑者は、犯行を否認しており、もし、被疑者が釈放されれば、被疑者が証拠を隠匿したり、○○と接触して口裏合わせをするおそれが高い。
現に、押収したPCを確認したところ、逮捕前に、証拠となるデータを削除していた形跡が認められ・・・」などとして、なぜ本件で勾留の要件を満たすといえるのか、ということを具体的に裁判官に伝えます。

準抗告とは、勾留決定への不服申し立て

裁判官が勾留決定を出したら、勾留期間は原則として10日間です。
会社で働いているかたなどは、1日、2日なら、まだ会社に何らかの説明ができても、10日間となると状況を説明せざるを得ず、その対応で悩まれるかたもいらっしゃいます。
「身に覚えのない事実で勾留されている」と説明しても、これを会社がどう受け止めるか、という心配があるでしょう。
また、仮に犯罪に関わった事実はあったとしても、事実を認めているし、証拠を隠滅しようなどというつもりも全くないし、逃げるつもりもないし、何とか身柄拘束をせずに捜査をしてほしいということもあるでしょう。

弁護人は、依頼人である被疑者から詳しく話を聞いた上で、この事案では勾留の要件を満たさないと判断したとき、裁判官の勾留決定に不服申し立てをします。
これが準抗告です。

弁護人は、罪証隠滅のおそれがあると判断された点に関し、たとえば、「今回の事件で大事な証拠となるのは、被害者の供述。罪証隠滅のおそれというのは、被疑者が被害者に接触して口裏合わせを図ろうとしているおそれがあるということのはず。
しかし、この件は被害者の被害申告によって発覚したと見込まれるところ、被害があったとされる日から本日に至るまで相当期間が経っていることからしても、すでに詳細な取り調べや調書化が完了しているはず。
被疑者は、被害者と面識がなく、名前も住所も連絡先も何も把握しておらず、接触のとりようもないし、そもそも詳細に事実を認める供述をしている被疑者が、被害者に接触して口裏合わせを図ろうとする意味もなく、そのつもりもない」などとして、なぜ勾留の要件を満たさないのか、ということを具体的に裁判官に伝えます。

今回の事件について、弁護人が、被疑者には勾留の理由も必要性もないと主張して準抗告を申し立てたとのこと。
詳しい内容は報道だけからはわかりませんが、事件発生から被疑者が逮捕されるまで約10か月間あったことからすると、その間、被疑者を取り調べる以外の捜査を進めることはでき、今さら被疑者が隠滅できる証拠はそれほど存在していないのではないか、自力歩行ができる状態になく、取り調べも拘置所のベッドに寝た状態で行われているなどと報じられていることからすれば、そのような状態でそもそも罪証隠滅や逃亡を図ることなど現実的にできないのではないか、という問題意識が背景にあるのではないかと思います。

裁判所が、いかなる理由で勾留の要件を満たすと判断したか、詳細は明らかになっていませんが、今後は、おそらく、検察官が、この勾留期間中に鑑定留置を求め、精神鑑定が行われることになるのではないかと思います。
今後もその動きに注目していきます。

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