リーガルエッセイ

公開 2020.06.12 更新 2021.07.18

被害者情報提供は、実行犯より罪が軽い?

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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被害者情報提供者の罪は軽い?

先日、一人暮らしの女性宅に押し入って現金300万円を脅し取ったとして6人の男女が強盗の被疑事実で逮捕されたと報じられました。
その報道によれば、女性宅には、その被害の前に、息子をかたった詐欺の電話がかかってきていたとのこと。
そして、逮捕されたうちの1人が、別の強盗事件について、被害者の自宅、資産に関する情報を、ある者から伝えられていてそれに従って犯行に及んだと供述していることから、今回逮捕の理由となった犯行についても、誰かが被害者に関する情報を提供したのではないかと見てその人物に関する捜査が進んでいるというのです。

この事件に関しては、まだ捜査中なので、そもそも、本当に情報提供者がいたかどうか、そのような者がいたとして、具体的にどのような役割を担っていたか、今後捜査が進んでいくものと思われます。

ただ、一般的に見ても、ある家に侵入して現金などを奪ってくるという場合、実行役に、その家の家族構成、資産状況などの情報を提供して侵入すべき家を選ぶ役割を担う人物がいることはよくあります。
そして、そのような情報提供者が逮捕されたとき、「自分はよくわからないままに住所などを教えただけ。ほかの実行役と一緒になって犯罪をやってやろうなどという気持ちはなかった」などと弁解することがあります。
被害者に関する情報を提供しただけで、自分は現場にも行っていない、ましてや被害者に直接暴行を加えてもいないという者については、被害者の家に侵入して現金を奪ってきた実行役よりも罪が軽いのではないか、と感じるかたもいるのではないでしょうか?
今回は、共犯者間の罪の重さなどの話をとりあげます。

正犯か?幇助か?

複数の者が犯罪に関わるという場合、その関わりかたによって、正犯(せいはん)、幇助(ほうじょ)、教唆(きょうさ)というものがあります。
そして、犯行の現場に行かずに何らかの形で犯行に関わったという立場の者がいた場合によく問題となるのは、その者が「共謀共同正犯」なのか「幇助犯」なのかという点です。
なぜよく問題になるかというと、共謀共同正犯と評価されれば、量刑が、実行役と同等か役割によってはそれ以上になるところ、幇助犯ということになれば、量刑が、実行役と比べて軽くなるからです。
共謀共同正犯というのは、自分が直接手を下してはいないものの、何人かで「こういう犯行をやってやろう」と合意し、その合意に基づいて、合意に加わった誰かが実行する場合に成立します。
幇助犯というのは、実行役の手助けをしたという場合に成立します。
この説明だけだと、共謀共同正犯か、幇助犯かの区別がなかなか大変だと思いませんか?
被害者となる人の情報を実行犯に教えたという場合、共謀共同正犯にあたるともいえそうだし、幇助犯にあたるともいえそうです。
ここで評価をわける大事なポイントは、その者が、ある犯罪を「自分の犯罪として」実現する意思があるかという点なのです。
そして、自分の犯罪として実現する意思があるかどうかは、①犯行の動機があるのか②犯行による分け前があるのか、あるとしてどの程度か③実行役との関係④果たした役割の大きさなどの要素を個別に評価していくことになります。
たとえば、被害者の家族構成や資産状況などについて調べ、2人の実行役に情報提供した者が、犯行が成功した場合の分け前を自分が6割、実行役2人が2割ずつと決め、その条件で実行役をSNS上で闇バイトとして募った経緯があるとか、事前に3人で犯行を合意したものの、当日犯行に及ぶかどうかの最終決定権が情報を提供した者にあったとか、そのような事情があれば、情報提供者が、単なる手助けとして犯行に加わったのでなく、むしろ指示役として実行役とともに自分の犯罪を実現する意思があるものとして共謀共同正犯と評価されることが多いといえるでしょう。

実際の捜査では、全員が逮捕されたとしても、情報提供をした者と実行役とで供述に食い違いがあることが多いです。
情報提供をした者は、自分の刑事責任を軽くするために、自分は、分け前をもらっていないとか、実行役が家の中で何をするのかもよくわからなかったなどと供述することがあるのです。
そのような場合、関わった者の供述を丹念に取り調べ、供述の信用性を検討することになります。
ただ話を聞くだけでなく、関係者の間でやりとりされたメールの内容、電話の着信履歴、お金の動き、関係者がどのような接点で結びついた人間関係なのかなどを丁寧に捜査していく必要があるのです。
たとえば、犯行直後に実行役が、情報提供をした者に電話している履歴があれば、それは、実行役の「被害者の家を出たら、すぐに状況を報告するように言われていたから電話しました」という供述の裏付けになる場合があります。

このように、被害者に関する情報提供をしたという者が、自分の犯罪として犯罪を実現したといえるのか、という点は、量刑を大きく左右する重要な点なので、慎重な捜査が必要となるところです。
今回冒頭にあげた事件では、そもそもそのような情報提供をした立場の者が存在したのか、そして、そのような者がいたとして、その者は犯罪全体を通し、どのような立場でどのような役割を果たしたのか、引き続き注目していきます。

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