傷害罪

傷害罪とは?

「人の身体を傷害した」場合、刑法204条に規定される傷害罪で罰せられる可能性があります。
「傷害」とは、人の身体の生理的機能を害する行為、すなわち、人にけがをさせる行為などを指します。

刑法204条
人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

傷害罪の刑罰

傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっています。
傷害罪の公訴時効は10年です(刑事訴訟法250条3号)。傷害結果(けがなど)が発生したときから10年の間、検察から起訴されなかった場合には公訴時効が成立し、以後当該傷害事件については起訴されず、罪に問われることはありません。

なお、傷害事件の犯人が国外にいる場合や、逃げ隠れていて起訴状の送達などが有効にできない場合には、その期間は時効の進行が停止されます(刑事訴訟法255条1項)。

傷害罪の刑罰

どのようなケースが傷害罪になるか?

相手の身体を「傷害」したのであれば、骨折など全治数か月のものから全治1~2週間の擦り傷程度のものまで傷害罪の適用を受ける可能性があります。
また、「傷害」には、けがをさせた場合のほか、下痢や嘔吐を引き起こすこと、精神的ダメージを与え頭痛や睡眠障害などを引き起こすことなども含まれます。

なお、暴行罪もけがをさせる可能性のある行為を伴いますが、傷害罪との違いは、傷害結果の有無にあります。
すなわち、暴力行為の結果として、被害者がけがをすれば傷害罪、けがをしなければ暴行罪が基本的には成立することになります。

傷害事件の逮捕率

令和3年版犯罪白書によると、検察庁既済事件に占める身柄事件(警察などで被疑者が逮捕されて身柄付きで検察官に送致された事件および検察庁で被疑者が逮捕された事件)の被疑者人員の比率(身柄率)は、平成13年以降、30%程度で推移しています。

令和2年度における「傷害」の身柄率は49.9%であり、警察などで逮捕されたが釈放された者を含むと、逮捕率は55.2%となっており(令和3年版 犯罪白書 第2編/第2章/第3節 (moj.go.jp))、傷害事件の半数以上は逮捕されることとなります。

傷害事件で逮捕されてしまった

本人が犯行を認めている場合

逮捕

逮捕には、「逮捕の理由」および「逮捕の必要性」の逮捕要件を満たしている必要があります。
つまり、「罪を起こしたことを疑うに足りる相当な理由」(刑事訴訟法199条)および「被疑者が逃亡する虞」や「罪証を隠滅する虞」(刑訴規則143条の3)があることが求められます。
逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれは、被疑者の年齢や境遇、犯罪の軽重や態様など、諸般の事情に照らして判断されます。
司法警察員が逮捕した場合、身柄拘束が継続した状態で48時間以内に検察官に送致されます。

勾留

勾留には、「勾留の理由」および「勾留の必要性」の勾留要件を満たしている必要があります。
勾留の理由として、①住居不定、②罪証隠滅のおそれ、③逃亡のおそれが刑事訴訟法60条1項各号に定められています。
また、勾留の必要性は、勾留することが相当である場合に認められ、具体的には、勾留理由の程度や事案の軽重などに照らして、勾留による公益と勾留される被疑者の不利益とを比較して判断することになります。

検察官は、被疑者の身柄を受け取ってから24時間以内、さらに、逮捕から計72時間以内に、勾留要件を満たしていると判断すれば勾留請求をします。
裁判官による勾留決定がされると、最大10日間(延長を含むと最大20日間)勾留されることになります。

起訴不起訴

勾留期間中に、検察官が起訴・不起訴の決定をします。
犯罪の成否を認定するだけの証拠が存在しないことが明白な場合(嫌疑なし)、犯罪の疑いはあるが、犯罪の成否を認定するだけの証拠がそろわなかった場合(嫌疑不十分)、犯罪の疑いは十分に認められるが、被疑者の年齢や境遇など諸般の事情を考慮してあえて起訴しないこととする場合(起訴猶予)には不起訴処分となり、前科が付くこともありません。
ただし、不起訴の場合であっても、捜査機関から犯罪の容疑をかけられて捜査の対象になった「前歴」はつきます。

早期釈放

釈放とは、逮捕勾留などによって身柄拘束された者の拘束を解放することをいいます。
早期釈放を実現するためには、逮捕後勾留決定までの72時間以内という短期間で働きかけを行わなければなりません。
犯罪が軽微、定職がある、家族など身元引受人がいる、被害者と接触するおそれがない、罪を認めている、示談交渉をしているなどの事情がある場合には、釈放される可能性が高くなるといえます。

執行猶予

執行猶予とは、有罪判決を言い渡される際に、刑の執行を1年から5年の間で猶予し、その期間中に再度犯罪を起こさないことで、刑の言渡しの効力が消滅するものをいいます。
期間は、懲役刑の期間と比較して1.5倍から2倍程度で定められることが多く、懲役刑の期間より短く設定されることはほとんどありません。

執行猶予を付すことができる事件は、3年以下の懲役もしくは禁固または50万円以下の罰金を言い渡す場合に限られており、例えば暴行罪は、法定刑が2年以下の懲役もしくは30円以下の罰金であるため、執行猶予の対象となり得ます。
執行猶予を付すかは、犯罪の性質(悪質か否か)、前科の有無、示談の有無、反省の有無、被害者の処罰感情の程度などを考慮して、裁判官の裁量によって決定されます。

本人が犯行を認めていない場合(否認事件)

否認事件とは、被疑者が犯罪を行ったことについて認めていない事件のことをいいます。
捜査機関による取調べにおいて、その意のままに調書が作成されたり、身柄拘束下における精神的負担から冤罪の危険性もあったりするため、被疑者や被告人がどのような対応をとるべきかという弁護士のアドバイスが重要となります。
我が国の刑事司法制度では、一度起訴されてしまうと約99%の確率で有罪となってしまうため、迅速な対応が求められます。

また、実際に犯罪を行っていない場合でも、証拠との関係で被疑者などに不利な状況となるおそれがある場合には、身柄拘束や刑事処分を避けるために、示談をすることも考えられます(否認示談)。

傷害事件の弁護のポイント

傷害事件の逮捕率は約55%と半数以上であり、一度逮捕されると身柄拘束が20日以上に及ぶ可能性もあります。
また、起訴された場合にはほぼ確実に有罪判決が下され、前科が付き、刑罰に服することとなります。
そのため、逮捕勾留の身柄拘束を回避することおよび前科を回避することが、弁護活動をする上で重要となってきます。

傷害事件で前科をつけないため

前科とは、有罪判決を受けた経歴があることをいいます。
我が国の刑事司法制度上、起訴後の有罪率は約99%であるため、前科を付けないためには不起訴処分を得るしかないのが現状です。

不起訴処分となるためには、逮捕前から弁護士による早急な対応を行い、被害者と示談を行うことが重要です。
示談があれば、被害届が取り下げられる可能性や、検察官に示談を評価されて不起訴処分となる可能性が高まります。

なお、執行猶予期間が経過した場合には、前科自体は残存しますが、刑の言渡しの効力は消滅することとなります。

傷害事件の示談について

傷害罪は、けがなどを生じさせるものであるため、暴行罪と比べて示談金の額も高くなると思われます。
けがの程度によって大きく左右されるため、傷害事件の示談金額は10万円~100万円を超える程度まで幅があります。
また、傷害結果の程度だけでなく、被害者の処罰感情、被害者の落ち度の有無なども考慮して判断されることになります。

示談は両当事者の話し合いのうえ、示談書を作成し、加害者が被害者に対して示談書の内容に従って金銭を支払うことによって成立します。
ただし、被害者の多くは加害者に連絡先を知られることを拒むため、当事者間で話し合いを行うことは困難です。
弁護士に依頼すれば、被害者が交渉に応じてくれる可能性が高まり、謝罪の伝え方なども経験に基づいて適切に行うため、示談交渉を速やかに進めることができます。

示談が成立したからといって、必ずしも警察の捜査が終了するというわけではありませんが、捜査初期の段階であれば終了する可能性もあります。
また、起訴前であれば不起訴処分を受ける可能性もあります。

起訴後に示談が成立した事実は、量刑や執行猶予の有無において被告人にとって有利な事実として作用しますが、それでも有罪判決のおそれは免れません。
そのため、示談は起訴される以前に行う必要があるといえます。

傷害事件の慰謝料と治療費・被害弁償について

慰謝料とは、被害者の精神的損害に対する賠償のことをいいます。
傷害事件の慰謝料の相場といえる金額は、傷害の程度や被害者の社会的地位などによって大きく異なるため、10万円から100万円を超える程度までと幅があります。

また、傷害事件の場合は、被害者にけがの治療費や後遺症が発生したり、被害が大きく会社を休む必要があるというような事態も生じたりする可能性があります。
そのため、治療費や入通院費、休業損害、逸失利益などの損害賠償請求をうけるおそれがあります。
このことから、損害賠償額は、傷害の程度によって30万円から200万円を超えることもあるなど、ケースごとに大きく異なります。

なお、示談を行う場合には、慰謝料や治療費などは示談金(の一部)としての役割を担います。

傷害事件、なるべく早く弁護士に依頼するほうが良い理由

刑事事件は、逮捕から勾留決定が最大72時間以内に行われ、勾留が開始すると最大20日間身柄を拘束されることとなります。
その後、起訴された場合には約99%の確率で有罪となり、前科がつくことによって社会生活上様々な不利益を被ることとなってしまいます。

身柄拘束されずに今まで通り通常の社会生活を送り、また、不起訴処分を獲得してこれからも通常の社会生活を送るためにも、できるだけ早く弁護士に依頼するのがよいでしょう。
有罪判決となる可能性が高い場合でも、早めに弁護士の助言を受けることで、必要以上に不利益な刑罰などを防ぐこともできます。

傷害事件のよくある質問

Q.駅で喧嘩になった相手に殴られたので、殴り返してしまいました。自分は被害者だと思うのですが、傷害罪になるのでしょうか?

A.喧嘩であっても、自己の意思に基づいて殴った結果として相手がけがをした場合には、傷害罪が成立すると考えられます。
しかし、両当事者が暴行ないしは傷害の加害者であるため示談のハードルが低いと考えられることや、相手方にも落ち度があることなどから、不起訴処分や情状面での有利な結果を得ることができる可能性はあります。
なお、相手方から急に殴られ、身を守るために攻撃してしまったというような場合には、正当防衛に当たる可能性もありますが、喧嘩の場合に正当防衛が認められるとは言い難いでしょう。

Q.相手が示談に応じてくれません。どうしたらいいですか?

A.相手方に示談に応じていただけない理由としては、示談金の額に納得できない、処罰感情が強いといったことが考えられます。
事件直後の被害者は恐怖心や憤りを強く感じ、示談交渉をすることができない心理状態になっていますが、時間の経過とともに冷静さを取り戻すこともあります。また、弁護士を介して交渉を申し出ることで、加害者と直接対峙するよりも被害者の交渉に対するハードルが低くなります。
あまり時間が経過してしまうと、示談が成立する前に起訴されてしまい、有罪となる可能性が非常に高いため、速やかに弁護士に相談することをおすすめします。
なお、被害者の処罰感情が揺るがない場合や、被害者が示談金を不当に引き上げようとしている場合は、示談が不成立のまま起訴されてしまうこともあります。その場合には、供託や贖罪寄付を行うことで反省悔悟の姿勢を裁判官に示し、情状面で有利となるよう働きかけることが考えられます。

Q.相手から高額な慰謝料を請求されています。提示された金額を支払わなければなりませんか?

A.被害者に対して後ろめたさがある、早急に解決したいとの一心で、相手方の不当請求に応じてはいけません。
傷害事件の加害者であるとしても、社会的に相当な範囲で罪を償うべきであり、不当請求を認めることで被害者からの要求をさらにエスカレートさせる要因にもなりえます。
そのため、裁判例や法的根拠を示して、妥当な賠償額になるよう交渉することが大切です。
また、被害者という立場を利用した高額な慰謝料請求は、場合によっては脅迫罪や恐喝罪にあたる可能性もあるため、警察に相談することも手段の一つでしょう。
いずれにしても、知識と経験を有する弁護士に相談することで、迅速かつ適切な解決を図ることができます。

ご家族が傷害事件を起こしてしまったら

ご家族の逮捕前に弁護士を介した示談を行うことで、被害者が被害届を出すことなく解決する可能性がありますし、逮捕された場合であっても弁護士によるはたらきかけによって不起訴処分など有利な結果を得る可能性が高まります。

当事者同士で話し合いをすることも手段の一つですが、加害者と被害者の関係であるため、円滑・円満な解決を期待することは難しいと思われます。
また、弁護士から助言を得ることで、今後の流れやご家族にできることを理解し、冷静に対処することもできます。
そのため、事件後は速やかに弁護士に相談するのがよいでしょう。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(大阪弁護士会)
大阪弁護士会所属。一橋大学法学部法律学科卒業、一橋大学法科大学院修了。大学卒業後、一般企業に就職。業務を通して種々の法的トラブルに触れる中で、法的問題を解決することで社会に貢献したいという強い思いから弁護士を志す。離婚や相続といった家事事件のほか、労働問題、不動産法務、企業法務など、様々な案件を取り扱う。
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