リーガルエッセイ

公開 2024.04.02

小林製薬の「危機対応」について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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小林製薬の危機対応に思うこと

報道を見ていて感じるのは、「なぜそんな商品を売っていたのか」という批判ではなく、「なぜ、健康被害を疑わせるような情報があがってきてすぐにそれを公表しなかったのか」という批判が圧倒的に多いなということ。

問題となっている「健康被害」の実態はまだ明らかになっていないようです。
だから、自主回収となった製品に関し、どのような事実があったのか全くわからないという前提でお話せざるを得ないと思います。
そして、問題となった製品に関する調査に時間を要することはやむを得ないのだと思います。
問題は、なぜ、消費者の健康にとって重大な意味をもつ情報をすぐに公表しなかったのかという対応。
この対応に対する批判に関しては、どの企業においても危機対応に関する問題として考えるべきところがあると思います。

公表に至る経緯については、今年1月中旬ころから、会社に、患者を診察した医師からの問い合わせが相次ぎ、それを踏まえて社内で原因究明のための検証を実施していたところ、3月16日に至り、一部製品に「意図しない成分」が含まれる可能性を把握し、その後、社内で緊急対策本部を開いた上で同月22日に記者会見を行い、事態を公表し、自主回収の方針を発表したなどと報じられています。

対象となるサプリは、機能性表示食品であるとのこと。
機能性表示食品は、事業者の責任で、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品のことです。特定保健用食品(いわゆるトクホ)と違って、消費者庁長官が個別に許可をしたものではなく、販売前に、安全性、機能性の根拠に関する情報などが消費者庁長官に届け出られたもの。
機能性表示食品について調べてみたところ、これに関しては、「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」というものがあって、そこには、機能性表示食品に関し、消費者庁長官に対する届け出をした後に寄せられた健康被害情報にどのように対応すべきか、ということの説明があります。

ガイドラインでは、その対応に関し、「届出者は、消費者等より健康被害情報を入手した際、情報提供者が医師以外であり、医師による診察が行われていない場合にあっては、事業者の責任において、医師への診察を勧める等適切な対応を行う。また、健康被害の発生後も届出食品の摂取が継続されていることが判明した場合は、摂取を中止させる。その後、医師の診断結果等も健康被害情報に付加し、当該健康被害情報の評価を行う。」としています。

そして、その評価の結果、届出食品による健康被害の発生や拡大のおそれがある場合は、消費者庁に速やかに報告することとしています。

ガイドラインによっても、一定の「評価」のプロセスがあることは想定されているとはいえ、このようなガイドライン記載の対応が求められている趣旨に遡って考えると、健康被害情報が寄せられた場合、そのような被害を食い止めるための迅速な対応が求められているといえるはず。

そして、医師などの医療機関から、複数、健康被害を疑わせる情報が寄せられたのであれば、同種情報がさらに相次ぐかもしれないとの認識をもって、速やかにその情報を公表する必要があったのだと思います。

小林製薬の対応に関する報道を目にしたときにすぐに頭に浮かんだのは、以前こちらの記事(※1)でもとりあげた「タイレノール事件」をめぐるジョンソン・エンド・ジョンソンの危機対応です。

「事件の一報を全国的に発表する前に、自社に落ち度があったのかどうかを評価してから、自社には落ち度がないこととセットでこの事件を発表したい」「外部の犯人により起きた事件で、被害はこれ以上拡大しないという見通しとあわせて発表することで商品の回収は避けたい」などという判断もあり得たかもしれないのです。
でも、ジョンソン・エンド・ジョンソンのCEOは、「まず考えるべきは顧客をどう守るか」と判断して、すぐに新聞、テレビ等を通じてタイレノールを服用しないよう消費者に伝え、商品を回収するための手続も開始した対応は、「クレド」に沿った的確な危機対応であったとして語り継がれているところ。

小林製薬のグループ企業行動憲章には、「お客様・取引先に対して、製品・サービスに関する適切な情報提供、誠実なコミュニケーションを行い、信頼の獲得と満足の向上を図ります。」と定められています。
自社製品に関し、健康被害情報が寄せられた場合、具体的にどう対応することが、ここでいう「製品・サービスに関する適切な情報提供、誠実なコミュニケーション」なのか、という点について、平時に想定されていたのか、また、危機発生時、寄せられた情報を踏まえてどう対応するかが社内で検討されるにあたって、この行動憲章に掲げられた理念に立ち戻ったらどうあるべきかという議論がされたのか。
このたび報じられている危機対応に関し、「自社であればたとえばどんなリスクがあり得るか」「自社が危機に直面した際、自社の理念に沿った対応とはどんなものであるべきだろうか」と、自分事にして考えることが大事なのだと思います。
今後もこの報道に注目します。

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