傷害致死罪

傷害致死罪とは?

人の生理機能を侵害する行為を行ったところ(「傷害」)、被害者が死亡してしまった場合には、刑法205条の傷害致死罪が成立します。

刑法205条
身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。

例えば、殴る・蹴るなどの暴力暴行を加えた結果、それが原因となって死亡してしまう場合がこれにあたります。

傷害致死罪が適用されるには、暴行(刑法208条)や傷害(刑法204条)の故意で傷害を与える必要があります。
殺人の故意(殺意)がある場合には、傷害致死罪ではなく、刑法199条の殺人罪が成立することとなります。
また、暴行や傷害の故意もなく、たまたま衝突した拍子に被害者が死亡してしまったような場合には、刑法210条の過失致死罪が成立します。
 

傷害致死罪の刑罰

傷害致死罪の法定刑は、3年以上の有期懲役とされています。
刑法12条1項において、有期懲役は1月以上20年以下とされているため、基本的には3年以上20年以下の範囲で有期懲役に処されることとなります。
そのため、「人を死亡させた罪であつて禁固以上の刑に当たるもの」で「長期二十年の懲役」にあたる罪として、公訴時効は20年となっています(刑事訴訟法250条1項2号)。

傷害致死事件で逮捕されてしまった

本人が犯行を認めている場合

逮捕

被疑者を逮捕するには、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(刑事訴訟法199条1項本文)があり、「被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要性がない」(刑事訴訟法199条2項但書、刑事訴訟規則143条の3)場合ではないこと、すなわち「逮捕の理由」と「逮捕の必要性」の要件を充足する必要があります。

逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれは、被疑者の年齢や境遇、犯罪の軽重や態様など諸般の事情に照らして判断されます。

被疑者が逮捕され、身柄拘束を継続する必要があると判断された場合は、身柄を拘束された時から48時間以内に検察官に送致されます。

勾留

被疑者を勾留するには、「勾留の理由」および「勾留の必要性」の要件を充足する必要があります。
勾留の理由として、①住居不定、②罪証隠滅のおそれ、③逃亡のおそれが刑訴法60条1項各号に定められています。
また、勾留の必要性は、勾留することが相当であること、具体的には、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれの程度や事案の軽重などに照らして、勾留による公益と勾留される被疑者の不利益とを比較して判断することになります。

検察官は、被疑者の身柄を受け取ってから24時間以内、さらに、身柄を拘束された時から計72時間以内に勾留の必要性があると判断した場合に、勾留請求をします。
裁判官による勾留決定がされると、勾留請求の日から最大10日間(延長された場合は最大20日間)勾留されることになります。

起訴・不起訴

検察官は、勾留期間中に起訴・不起訴の決定をします。
犯罪を認定するだけの証拠が存在しない場合(嫌疑なし)、犯罪の疑いはあるが、有罪判決になるだけの証拠がそろわなかった場合(嫌疑不十分)、犯罪の疑いは十分に認められるが、被疑者の年齢や境遇など諸般の事情を考慮してあえて起訴しないこととする場合(起訴猶予)には不起訴処分となり、前科が付くこともありません。
ただし、不起訴の場合であっても、捜査機関から犯罪の容疑をかけられて捜査の対象になったという「前歴」はつきます。

早期釈放

釈放とは、逮捕勾留された者の身柄拘束を解放することをいいます。
早期釈放を実現するためには、逮捕後勾留決定までの72時間以内という短期間で、捜査機関に対し働きかけを行わなければなりません。
初犯である、被害の程度が軽微、定職がある、家族など身元引受人がいる、被害者と接触するおそれがない、罪を認めている、被害者との示談が成立したなどの事情がある場合には、釈放される可能性が高くなるといえます。

執行猶予

執行猶予とは、有罪判決の言渡しの際に、刑の執行を1年から5年の間で猶予し、その猶予の期間中に再度犯罪を起こさなければ、刑の言渡しの効力が消滅するものをいいます。
期間は、懲役刑の期間と比較して1.5倍から2倍程度で定められることが多く、懲役刑の期間より短く設定されることはほとんどありません。

執行猶予を付すことができる事件は、3年以下の懲役もしくは禁固または50万円以下の罰金を言い渡す場合に限られています。

執行猶予を付すかどうかは、犯罪の性質(悪質か否か)、前科の有無、示談の有無、反省の有無、被害者の処罰感情の程度などを考慮して、裁判所の裁量によって決定されます。

本人が犯行を認めていない場合(否認事件)

否認事件とは、被疑者が犯罪を行ったことについて認めていない事件のことをいいます。
捜査機関による取調べにおいては、身柄拘束下における精神的負担からその意のままに調書が作成され、最悪の場合冤罪が生じる危険性もあります。
そのため、被疑者や被告人が、取調べにおいてどのように対応するべきか、という弁護士のアドバイスが重要となります。

現在の日本の刑事司法の実情においては、一度起訴されてしまうと約99%の確率で有罪となってしまうため、逮捕直後から迅速に対応することが求められます。
また、実際に犯罪を行っていない場合でも、証拠との関係で被疑者などに不利な状況となるおそれもあるため、身柄拘束からの早期解放や、不起訴処分を獲得するために、示談をすることも考えられます(否認示談)。

傷害致死事件の弁護のポイント

傷害を加えた相手方が死亡に至った場合でも、死亡原因によっては傷害と死亡との間の因果関係が否定され、傷害致死罪が成立しない可能性があります。
因果関係に争いがある場合には、暴行の程度や被害者の持病など諸般の事情を考慮して、因果関係を否定することに注力する必要があります。

また、被疑者が振り上げた腕が偶然被害者に接触して死亡に至るような場合も考えられます。
この場合、偶然であると認定されれば、故意の要件を充足しないとして、傷害致死罪は成立しません(なお、過失致死罪に該当する可能性はあります。)。

さらに、被害者からの暴行を受けて傷害した場合には正当防衛が成立する場合もあります。
これらについても、暴行の程度や傷害の程度、目撃者の証言など諸般の事情を考慮して判断する必要があります。

傷害致死事件では、被害者の死亡という極めて重大な結果が生じているため、早期釈放や執行猶予を得ることが非常に困難です。
また、我が国の刑事司法制度の実情においては、一度起訴されてしまうと約99%有罪となってしまいます。
事実関係を争い犯罪の成立そのものを否定することや、正当防衛の成立を主張するのであれば、早い段階から事実確認や証拠収集に取りかかることが必要です。

さらに、傷害致死事件は裁判員裁判の対象であり(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律2条1項2号、裁判所法26条2項2号)、裁判員向けの資料作成等、通常の刑事裁判に比べ多くの準備時間が必要となることも考えられます。
そのため、傷害致死事件を起こしてしまった場合には、直ちに弁護士にご相談いただくのがよいでしょう。

傷害致死事件で執行猶予になることはあるか?

執行猶予を受けるためには、3年以下の懲役の言渡しを受けたこと(刑法25条1項など)が必要となります。
傷害致死罪の法定刑は「3年以上の有期懲役」であることから、執行猶予が付される可能性もあります。

執行猶予を付すかどうかについては、裁判所の裁量が認められており、「情状」を考慮して判断されます。
判断に際しては、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び犯罪後の状況が考慮されることが多く、たとえば、日頃いじめを受けていた反動から暴力を振るってしまった場合や、日ごろDVを受けていたために避けようとして反撃した場合などは、「情状」として酌むべき事情があると評価されるでしょう。

令和3年度において、傷害致死罪によって有罪となったのが65人であるうち、執行猶予を受けたのは4人であり、全体の約6%にとどまっていることから、そのハードルは高いものとなっています。
『令和3年 司法統計年報(刑事編) 第47表 通常第一審事件のうち裁判員裁判による有罪(懲役・禁固)人員―罪名別刑期区分別―全地方裁判所』)参照)

傷害致死事件の示談について

傷害致死罪の場合は被害者が死亡しているため、遺族の処罰感情が非常に強く、示談をすることは困難です。
また、示談が可能であるとしても、示談金は極めて高額になることが予想されます。

示談は両当事者の話し合いによって成立します。
しかし、被害者の多くは加害者に連絡先を知られることを拒むため、当事者間で話し合いを行うことは困難です。
弁護士に依頼することで、被害者も交渉に応じてくれる可能性が高まり、どのように謝罪するかなど、経験に基づいて適切な方法をお伝えできるため、示談交渉を円滑に進めることができます。

傷害致死事件の民事責任について

傷害致死罪の加害者は、刑事上の責任だけでなく、民事上の損害賠償責任も負うこととなります。

逸失利益(被害者が死亡しなければ稼働可能であった年数につき得られたはずの収益)や被害者自身の精神的苦痛に対する慰謝料の支払い、さらには遺族固有の慰謝料の支払いを請求される可能性があります。
また、受傷後の治療が奏功せずに被害者が死亡してしまった場合には、死亡するまでに要した治療費、通院費、入院費なども支払う必要があります。
加えて、認容総額の10%程度を被害者側の弁護士費用として支払うこともあります。
被害者が単独で経営する企業がある場合には、当該企業に対する損失の賠償を求められる可能性もあります。

ご家族が傷害致死事件を起こしてしまったら

傷害致死罪は、3年以上20年以下の有期懲役に処されるものであり、執行猶予が付されることも少なく、重い罪と考えられています。
そのため、身柄拘束が長期にわたる可能性が高く、釈放・保釈される可能性は低いと言わざるを得ません。

しかし、暴行の内容が軽微である場合には示談できる可能性もありますし、諸般の事情から犯罪そのものの成立を否定することや正当防衛の主張ができる可能性もないとは言い切れません。
示談交渉や正当防衛の主張等を行うには、刑事事件の専門的な知識と経験が極めて重要になるため、すぐに弁護士にご相談いただくのがよいでしょう。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(神奈川県弁護士会)
神奈川県弁護士会所属。同志社大学法学部法律学科卒業、同志社大学法科大学院修了。離婚・相続といった家事事件や、不動産法務、企業法務など幅広く取り扱うほか、労働問題にも注力。弁護士として少年の更生の一助となることを志向しており、少年事件にも意欲的である。法的トラブルを客観的に捉えた的確なアドバイスの提供を得意としている。
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